もしかしたら、スカウトされるかも!? ニューヨークで繰り広げられる、魔法の世界にご招待『ニューヨークの魔法使い <(株)魔法製作所>』/佐藤日向の#砂糖図書館㉗
更新日:2021/10/3
皆さんは「もし魔法が使えたら」と想像をしたことはあるだろうか。
私は幼少の頃から空想が好きだったのもあり、魔法が登場する作品が昔からとにかく大好きだ。本に限らず、漫画や映画を観ては、キラキラした世界に魅了された。
今回紹介するのは『ニューヨークの魔法使い <(株)魔法製作所> 』という、シャンナ・スウェンドソン氏が描いた魔法の世界を、今泉敦子さんが翻訳した作品だ。
本作に登場するヒロインは、ちょっと変わっている。テキサスからニューヨークに引っ越してきた彼女は、ニューヨークを歩くたびに妖精やエルフを見かける。そして「魔法製作所(通称:MSI)」にスカウトされた彼女は”免疫者”と呼ばれる体質で、魔法の影響を受けない代わりに、魔力が全くないことが分かる。
ニューヨーク中に潜む不思議な魔法を、マーケティングの力でヒロインが救う姿は、まるで現代社会と魔法の世界が融合されたようであった。本作に親近感が湧く理由の一つはヒロインがものすごく「普通」で居てくれることだと思う。
彼女自身が魔法を使えないため「もしかしたら、自分もニューヨークに行ったらスカウトされるかもしれない」という気持ちにさせてくれる。
そして、MSIに転職する前はヒステリックな上司がいる職場に勤めていた彼女が、転職したことをきっかけに過去の過酷な職場で自信を失っていたことに作中で気づいていくのは、現代に生きる私たちにも通ずる部分があると感じた。自分のやりたい事に気づくこと自体が難しいような気がするが、1番難しいのは、やりたい事に向けて次のステップに進む勇気を持つ事だ。
例えば、私は子役の頃から今の事務所にお世話になっていることもあって、俳優として芝居を続ける以外に選択肢がないと思っていた。だが、今のマネージャーさんがくれたチャンスをきっかけに、声優という職業を知ることが出来た。
当時は声優という職業の仕事を詳しく知らない人も多かったため、不思議な顔をされることもあったが、あの頃の”どんな形でも芝居をしたい”という気持ちが、視野を広げる勇気のきっかけになったのだと思う。そんな勇気を出すきっかけをくれる描写が、本作の作中には魔法を交えて含まれている。
そして本作の魅力は、魔法をビジネスとしてとらえつつ、海外作品らしく恋愛も織り込まれているところ。読んでいくうちに、昔見ていた海外のホームドラマのような懐かしい雰囲気もあり、文章からニューヨークを全身で感じられた。
本作を読むと、まるで自分もMSIに入社したような気持ちになり、作中に登場するユニークな同僚たちとの軽快な会話が癖になる。もし、魔法と共存する世界に興味のある方は、是非ニューヨークに潜む魔法にかかってほしい。
さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。