『ランチ酒』『冷静と情熱のあいだ』ダ・ヴィンチニュース編集部がおすすめする“秋の夜長に酒と嗜みたい本”5選
更新日:2021/10/3
ダ・ヴィンチニュース編集部メンバーが、月ごとのテーマでオススメの書籍をセレクトする、推し本“+”。10月のテーマは、「秋の夜長に酒と嗜みたい1冊」です。
ちびちびお酒を飲みながら楽しむ『ぼのぼの』寄りのいがらしみきお作品『お人形の家 寿』(いがらしみきお/太田出版)
お酒をちびちび(たまにゴクリと飲んでしまって気づいたらワインボトルが1本空く)飲みながら本を開くならじわじわじわじわ…ぷすぷすぷすぷすと、小さく長い笑いの感情に包まれるのが好きで、『女の園の星』もその感情を再現できる最適作なのだが、同様にいがらしみきお氏の『お人形の家 寿』もそうである。いがらし氏といえば、『I【アイ】』や『かむろば村へ』といった、『ぼのぼの』のように動物哲学ほんわか系で甘やかしてはくれない作品も多々あるが、本作は後者に近い。登場人物は、いがらし氏の妻が収集した人形たち。いがらし家をネタに、人形たちはなかなか厳しいツッコミもするしシュールで漫才を見せられているようで怖かわいい……。
(中川寛子/ダ・ヴィンチニュース副編集長)
一杯一杯を大切にしたくなる『ランチ酒』(原田ひ香/祥伝社)
私は下戸である。だから泣くにしろ笑うにしろ暴れるにしろ、人の酩酊状態を見るのは正直苦手だが、本当に酒の味が好きで飲んでいる人には憧れる。この小説の主人公・祥子は「見守り屋」という、依頼があれば人でもペットでも一晩中見守るという仕事をしている。夜から早朝までの勤務なので、仕事明けは晩酌ならぬ「ランチ酒」が唯一の楽しみだ。丼や定食にさまざまな酒を合わせる。人生に不安を抱え、物思いにふけりながらもその一食一杯で心を潤している姿は、下戸の私でもなんか分かるなぁと共感を覚えた。きっと酒をお供に読むと、その一杯をもっとおいしくじっくりと飲みたくなるはずだ。
(坂西宣輝)
思わず“ちょっと残った調味料”を確認してしまう『冷蔵庫のアレ、いつ使うの?』(山本あり/幻冬舎コミックス)
本書は漫画家・山本ありさんのミニマリスト体質な夫が、冷蔵庫のちょい残し調味料を「コレ、どうするの?」と聞いてくる中、“使いきり料理”を生み出していくという内容。できあがった料理はどれも食欲をそそるし、調味料起点の調理は、意外性と創作性があって魅力的だ。お酒が弱い私だが、酒のお供な味付けは大好物なのでちょい付け用の調味料はたんまり冷蔵庫にある。頻度があまり……で使いきれていないこの柚子こしょうに肉みそ、花椒にかんずりに梅塩。何かとてつもなくウマいものを生み出せそうで、思わずにんまりしてしまった。
(遠藤摩利江)
お酒と恋愛小説の相性は抜群だと思う『冷静と情熱のあいだ』(江國香織・辻仁成/KADOKAWA)
20代前半はお酒の飲み方がわかっていなくて、仕事のハードさに比例するようにお酒の席で失敗ばかりしていた。そして気持ちよく飲めるようになった(はずの)今の自分がお酒を片手に読みたいのが「恋愛小説」。それも非現実的であればあるほど、酔いのまわった心地よい状態にしっくりくる。江國香織さんと辻仁成さんという二大作家による本作は、女性視点と男性視点のそれぞれが別々の作家によって描かれる物語。イタリアを舞台にした作品に読んだ当時も胸躍らせた。その感覚が懐かしくなって、ふと秋の夜長に手に取りたくなる作品だ。
(宗田昌子)
粋で深いスパイ小説を、ウイスキーとともに。『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』(ジョン・ル・カレ:著、村上博基:訳/早川書房)
「お酒を飲みながら」が記憶とセットになっている読書体験が、ふたつある。ひとつは、山口瞳氏の『居酒屋兆治』。おともは焼酎。「行きつけ」という言葉に憧れた、学生時代の背伸びの記憶。もうひとつは、スパイ小説の巨匠=ジョン・ル・カレの『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』。『裏切りのサーカス』という邦題で映画化されたが、小説も映画も大傑作。すべてが粋で、カッコいい。おともには、アイリッシュ・ウイスキーのジェムソンをオススメしたい。
(清水大輔/ダ・ヴィンチニュース編集長)