異星人とも交信可能? 天才物理学者・ホーキング博士らのロマン溢れる〈宇宙論〉

文芸・カルチャー

公開日:2021/10/6

『宇宙への扉をあけよう ホーキング博士の宇宙ノンフィクション
『宇宙への扉をあけよう ホーキング博士の宇宙ノンフィクション』(さくまゆみこ:訳、佐藤勝彦:日本語版監修/岩崎書店)

 車イスの天才物理学者〈スティーヴン・ホーキング博士〉の名前は、世界的に広く知られている。2018年3月に息を引き取るまで、40年以上にわたり宇宙物理学に捧げた博士の情熱と功績は、相対性理論で知られるかの有名な物理学者・アインシュタインに次ぐとまで称賛された。

 博士とその娘であるルーシー・ホーキング氏の共著『宇宙への扉をあけよう ホーキング博士の宇宙ノンフィクション』(さくまゆみこ:訳、佐藤勝彦:日本語版監修/岩崎書店)は、子ども向けのシリーズ『ホーキング博士のスペース・アドベンチャー』に新情報を追加した1冊だ。

 知的好奇心をくすぐられる科学エッセイの数々や、ニュートンやシュレーディンガーなど名だたる科学者たちの紹介。さらに、2019年に世界で初めての撮影に成功したM87星雲の「ブラックホール」など鮮やかな写真も収録した本書は、大人の心にも響く宇宙への入門書となっている。

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地球から移住するなら「月」か「火星」がベスト?

 宇宙への移住は人類にとって永遠の課題だ。博士は「人口がますます増えていく地球では、自分たちの内側ばかりを見るのではなく、広い宇宙に目を向けることが必要な時代がもう来ている」と本書で指摘する。

 少子高齢化による人口減少に悩む日本とは裏腹に、世界的な人口爆発は深刻な問題だ。国際連合人口基金『世界人口白書2021』の統計では、世界人口は78億7500万人で、前年比8000万人増加。さらに、国際連合『世界人口予測2019』によると、2050年に97億人、2100年には109億人に達すると見込まれている。

 人口爆発が懸念されるのは、食糧不足や貧困、環境問題がより深刻化すると考えられるためだ。その活路として期待されるのが宇宙への移住策であり、今なお研究がすすめられている。

 本書によると、移住先の候補は月と火星だ。現状、月には水がないとされている。しかし、月面上にある北極と南極のクレーターに氷を見つけられる可能性も残されていて、そこから「酸素」を作り出し、暮らしに必要なエネルギーを「ソーラーパネル」などから得られれば、人が住める可能性もある。

 一方の火星では、その北極と南極に「多くの氷」がすでに観測されている。地球より太陽から遠いため気温は低く、大気圧の低さにより河川や湖は干上がっていると考えられるが、氷を活用できれば、人類の住む環境を作れる可能性がある。

異星人との交信は「理屈」としては可能

 地球で人類が暮らしているなら、他の惑星に住む何かがいてもおかしくない。アメリカのNPO・SETI(地球外知的生命体探査)協会のセス・ショスタック博士が本書に寄せた「エイリアン(異星人)との付き合い方」は、彼らとの交信術を伝えるユニークなエッセイだ。

 50年ほど前に、何人かの科学者が、天体系から別の天体系へ信号を送る方法を突き止めようとした。当時の無線装置を使った実験では、太陽系から別の太陽系への電波送信は可能と分かり、科学者たちは「こんなにかんたんなことなら、どんなエイリアンにせよ、長距離の連絡には、電波を使っているにちがいない」との仮説を示した。

 ただ、理屈として分かってはいるものの、現状で異星人からの「信号」を拾ったという一大ニュースは聞こえてこない。また、もし彼らが私たちに語りかけているとしても、1000光年も離れていたら、そのメッセージを受け取れるのは送信から1000年後。さらに返信しようとすれば、また1000年かかってしまうのも問題だ。

 とはいえ、宇宙には私たち以外の「仲間がいない」とも言えない。そう遠くない未来に「広大な宇宙の中で宇宙を観察しているのは地球に住むわたしたちだけではない」と、確信できる日が来るかもしれないのだ。

 文明が発達した今となっても、宇宙について人類は、ほんのわずかしか解明できていない。博士をはじめ科学者たちのエッセイは、どれも知的好奇心をくすぐってくれるものばかり。本書を片手に、空を見上げてみるのもいいだろう。

文=カネコシュウヘイ