金メダリストを育てたメンタルコーチが教える、自分だけの"プラス言葉辞書"を作る方法

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公開日:2021/10/6

百年メンタル―心の調子をキープする言葉の取扱説明書
『百年メンタル―心の調子をキープする言葉の取扱説明書』(飯山晄朗/大和書房)

 リモートワークや多様な働き方の普及によって、企業は福利厚生に対するアプローチを変えつつあります。その中でも女性のヘルスケアに特化したフェムテックや、ワーク+バケーションのワーケーションなどとあわせて、メンタルケア制度の導入は注目度が高いようです。

 メンタルを変えたり整えたりするということは、重い腰をヨイショと上げて大変革を実施するようなイメージがあるかもしれませんが、最も根本的かつ効果的なのは「言葉づかいを変えること」という小さくシンプルな心がけだと『百年メンタル―心の調子をキープする言葉の取扱説明書』(飯山晄朗/大和書房)は教えてくれます。本書では、オリンピックのスピードスケート金メダリスト・高木菜那選手などを育てた経験を持つメンタルコーチである著者が、心が安定している人の言葉や心の浮き沈みが激しい人の言葉の特徴を踏まえた上で、「マイナス言葉」を「プラス言葉」へ変身させる方法を紹介していきます。

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 メインとなる5章は、各章とも10前後の項目に小分けされていて、冒頭で

◯「誰かのためにやる」×「自分のためだけにやる」

 というふうに、◯×で「プラス言葉」と「マイナス言葉」が例示されています。

エレベーターでボタンを押してもらったとき、上司にアドバイスをもらったとき、人に迷惑をかけたと思ってつい「すみません」と出るのかもしれませんね。でも、そうではなく「ありがとうございます」というように意識を変えてみてはいかがでしょうか。

 この場合は◯が「ありがとうございます」で×が「すみません」というわけですが、これを日常生活の中で実践するのは、簡単なようでとても難しくないでしょうか。日本人ならではですが、親切にされたら「すみません」と言ってしまう方は多いのではと思います。たしかに「ありがとうございます」のほうが、言い終わったあとにポジティブなパワーが体に残る気がします。

 それもそのはず、著者によると脳は「最後をおぼえる」習性があるとか。たとえば、寝る前に「ダメだったこと」を振り返るとマイナスな夢を見てしまう可能性が高いので、「できたこと」を振り返って快く寝るのが心身に良いのだそうです。

 良い習慣から良好な思考サイクルを築いて「プラス言葉」の厚みが増してくると、他者との「差別化」は気にならなくなり、自ずと「独自化」が進むといいます。自分だけの「プラス言葉」辞書が編纂されていき、競争のプレッシャーからはずれた道を堂々と歩み始めるということです。それは、ときに恐怖や不快な感情を伴うといいます。メンタルケアは必ずしも心地よさだけを追求することではないということは、読者にとっては意外かもしれません。

人との競争に時間を使うのではなく、自分がやりたいことに1点集中して取り組むことができるのです。
「これまではこうだったから」「こんなことはやったことがないから」
このような理由で「やらない」という決断をしてしまうのはもったいないです。「やったことがないから」こそ「だからやる」という選択をして欲しいと思います。

 本書に書かれている◯×の内容を把握することはもちろん大事だと思うのですが、発した言葉がまだ空中に浮遊している間にパッとつかんで、吟味することは更に大事で、言葉を発するときの一瞬の心がけをコントロールできるようになってくれば、しめたものでしょう。

「変えないとどうなってしまうのだろうという恐怖を持つこと」の大切さや「真のプラス思考は最悪を想定していること」という複合的観点まで説かれている本書は、人の思考を見極める人事や、福利厚生を整える総務の仕事を担当されている方に特にオススメの一冊です。

文=神保慶政