8人の小説家が仕掛ける、鮮烈なミステリー体験。「さあ、どんでん返しだ。」特別対談③(潮谷験×似鳥鶏編)

文芸・カルチャー

公開日:2021/10/10

さあ、どんでん返しだ。
イラスト:石江八

 五十嵐律人、三津田信三、潮谷験、似鳥鶏、周木律、麻耶雄嵩、東川篤哉、真下みこと。8人の小説家による多彩なミステリー作品が連続刊行される講談社の「さあ、どんでん返しだ。」フェアでは、作家同士が互いの作品に抱いた印象や、自らの創作へのこだわりを語りあったインタビューを配信中。第3弾に登場するのは『時空犯』の著者・潮谷験さんと、『推理大戦』の似鳥鶏さん。「仕掛け番長」こと栗俣力也氏がMCを務めた、対談の模様の一部をご紹介します。

「さあ、どんでん返しだ。」特別対談

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“時間が巻き戻される世界に探偵がいたらどうなるか?”というのが本作品の出発点です」(潮谷)

栗俣:似鳥先生、潮谷先生へ何か質問はありますか?

似鳥:『時空犯』の「タイムリープ×ミステリー」という着想はどこから得たものなのでしょうか?

潮谷:”時間が巻き戻される世界に探偵がいたらどうなるか?”という企画が本作品の出発点です。実は、途中で登場する物語の鍵を握る人物・通称”あの人”の存在や、そもそものタイムリープのメカニズムもまったく決まっていない中、描きはじめました。

似鳥:そうなのですね。”あの人”あってこその重要な伏線さえも後から考えたことだったのですね。すごいな、それは。

潮谷:はい。あの伏線については、こういう設定にしたら物語として面白みがぐっと増すだろうなと思っての仕掛けでした。

栗俣:読者の多くが、”あの人”の”あの仕掛け”が本作の軸だと思ってしまうほど素晴らしい設定ですから、個人的にもとても驚きです。潮谷先生はもともと”タイムリープ”作品がお好きなのですか?

潮谷:はい。10年ほど前から時間遡行者が活躍する作品が大好きで『魔法少女まどか☆マギカまどかマギカ』や2005年に出版された『シナオシ』というミステリ小説などを好んで読んでいました。特に『シナオシ』は自分が犯した殺人を止めるために時間を巻き戻すのですが、巻き戻った先では別の人間になりつつ以前の記憶も失ってしまい、はじめは「誰が、誰を殺すのか?」さえわからない主人公が謎を解き、自分を止めようと奔走する物語。自分でも同じような作品を描いてみたいと常々考えており、今回『時空犯』を執筆することになりました。ちなみに『シナオシ』は現在絶版で電子版もありませんが、名作なので古書店などで見かけたら、ぜひみなさんにも読んでもらいたい作品です。

「さあ、どんでん返しだ。」特別対談

「読者が”この人なら許せる”と認識している犯人の場合は、納得できる理由を添えて犯行を許すような仕掛けが必要です」(似鳥)

似鳥:『時空犯』の特徴をあげるとすると、タイムリープの使用方法と犯行動機。この2つが秀逸です。登場人物が「やり直す」ためにタイムリープを駆使して、時間遡行者となるという作品が世に多い中、本作はタイムリープの目的がまるで違う。ネタバレになる可能性があるので詳細は伏せますが、犯人ひいては潮谷先生から、科学という学問へのリスペクトを感じることもでき、非常に特徴的でした。

潮谷:ありがとうございます。犯人にとってなぜ”巻き戻し”が必要なのか。”巻き戻しせざるを得ない状況”とは何かを考え尽くした結果、今回の犯行動機を思いつくに至りました。

似鳥:その犯行動機から、犯人は千回近くも同じ日を繰り返さなければならなかった。この一見不可解で異常とも思える犯人の行動が、作品内で描かれる犯人の人物像ともマッチしていて読者にしっかりと犯人の思いや考えが伝わってきました。「わかる、わかる」という言葉が自然と口から漏れ出てしまうような感覚です。本を閉じて再度目にする帯の「何度だってあなたのために。」という一言は、読後感の良さをさらに引き立ててくれました。

栗俣:本当に『時空犯』の読後感の良さは素晴らしいですよね。潮谷先生、本作の犯人や犯行動機の設定に関して、何か意識していたことはありますか?

潮谷:はい、タイムリープを駆使する犯人なので、今回の物語の設定上「法律で裁く」ことができません。結末では罪を背負いながらも、裁かれることはない。そんな犯人ですから、犯行動機も含めて読者への好感度を上げておかなければならない、と意識しました。

似鳥:非常によくわかります。読者が犯人のことを”許せない・裁くべきだ”と認識した場合は裁きを受けさせなければいけません。一方、読者が”この人なら許せる”と認識している犯人の場合は、納得できる理由を添えて犯行を許すような仕掛けが必要です。作家の倫理・道徳観の問われる部分であり、非常にバランスを取るのが難しい部分でもあるのですが、潮谷先生はお上手だなと思います。

対談インタビューの模様は、動画でもご覧いただけます。
TSUTAYA Newsに掲載のインタビューとともに、ぜひチェックしてみてください。

ダ・ヴィンチニュースでは、「さあ、どんでん返しだ。」に参加する8人の小説家への単独インタビューも公開中! 
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