真夜中のパン屋さんで交差する、“訳アリ”たちの物語――シリーズ累計140万部突破!『真夜中のパン屋さん』が、キミノベルから刊行!
公開日:2021/10/9
街を歩いていると、時折ふわっと漂ってくるパンの匂い。パン屋さんの香ばしさと甘さの入り混じる匂いは、日々の慌ただしさで小さな幸せを見落としがちな通行人たちの嗅覚を刺激し、引きつける。そして素朴な中に少しの特別感があって、人の心に残っていく――。『真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ』(大沼紀子:著、木屋町:イラスト/ポプラ社)は、そんなパン屋さんを中心に巻き起こる、ちょっと個性的なイケメン店員とワケあり客たちの物語だ。
この「真夜中のパン屋さん」シリーズは、ポプラ文庫として刊行されシリーズ累計140万部を突破している人気シリーズ(全6巻)。ドラマ化もされたこの人気作が、先日ポプラ社の児童文庫レーベル「ポプラキミノベル」として登場した。表紙も今風の児童書らしいマンガっぽさのあるイラストが、背景となっている夜によく映えて印象的で、筆者も書店で思わず一目惚れした。
本作品の主人公は、奔放な母親のもとに生まれ、「托卵」によってあちこち転々としながら育った女子高生・篠崎希実。ちなみに「托卵」とは、カッコウなどの鳥類が卵を他の巣に生み落とし、托す形で別の個体に世話をさせる習性のこと。希実の母親も自分では世話をせず、祖父母をはじめ勤め先のスナックのママや同僚、ボーイ、商店街の店主や看護師の家などに希実を預けて生活していた。
そんな生活が続いた後、母親と2人で暮らす中「少しは落ち着いたかな」なんて思っていた矢先のこと。朝、希実が目を覚ますと母親がいなくなっていた。もぬけのからとなった母親の部屋には通帳などと一緒に手紙が置かれており、「ハハは旅に出ます」「部屋も、カイヤクしちゃった」と気楽なテンションで衝撃の内容が綴られている。そこには、希実の新たな托卵先となる女性の名前や住所も書かれていた。希実は仕方なく荷物をまとめ、書かれていた住所へと向かったが――。
希実が向かった先にあったのは、真夜中だけ営業している少し変わったパン屋さん「ブーランジェリークレバヤシ」。しかし手紙に書かれていた女性は亡くなっており、そこにいたのは女性の旦那さんでいつも笑顔の店主・暮林陽介と、自身のパンに絶対的な自信を持っているパン職人・柳弘基。だがこの2人の計らいで、希実はパン屋の2階に居候することとなった。暮林と弘基は、何だかんだ希実のことを気遣ってくれる。
親ではない別の誰かのもとで生きてきた希実は、周囲との間に壁を築くことで自分を守ってきた。それゆえに基本不機嫌で不愛想だが、心の奥底には常に寂しさを抱えている。だが、暮林は柔らかな笑顔で、弘基は強引さで、その壁を悠々と越えてくるのだった。希実は悪態をつきながらもそんな2人の存在を無視できず、知らず知らずのうちに少しずつ心を溶かされていく。
また、パン屋にはワケありの珍客も来店する。希実は、不本意ながらもそんな珍客たちのトラブルに巻き込まれていく。ネグレクトされている少年・水野こだまや、ガラス張りの部屋から人間観察をするのが趣味の男性・班目裕也。一見何の繋がりもない彼らだが、それぞれの行動が思わぬところで繋がっていく様子に思わず引き込まれる。さらに終盤では、暮林と弘基の関係や秘密も明かされて――。班目の人間観察――もとい覗き行為が予想以上にいい仕事をするのも面白い。希実の元友人であるいじめっ子・三木涼香と希実の今後も気になるところだ。
2021年10月13日には下巻も発売される。下巻では、「ブーランジェリークレバヤシ」がオープンするまでの話など過去話も描かれる。失踪したこだまの母親の行方、希実の母親のこと、下巻から登場するらしい新キャラクターのことなど、まだまだ気になることが盛りだくさん。真夜中のパン屋さんを中心に繰り広げられ、折り重なっていく『真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ』。これから物語がどう繋がっていくのか、展開されるのか、今後も目が離せない。
文=月乃雫