まさか私がモラハラ妻だったなんて…既婚女性のモヤモヤが満載! 夫にキレずにいられない結婚生活の行方は…?

マンガ

更新日:2021/10/19

夫にキレる私をとめられない』
『夫にキレる私をとめられない』(いくたはな/KADOKAWA)

 結婚は幸せの代わりに、何かを失う契約だと思う。特に女性の場合は家事や育児が全て自分の身にのしかかってきたり、出産を機にキャリアを失ったりと、思い描いていた自己像が崩れていくことに戸惑いや苛立ちを覚え、共に家庭を築いている夫が羨ましく、妬ましく思えてしまうこともある。

『夫にキレる私をとめられない』(いくたはな/KADOKAWA)は、そんな複雑な既婚女性の本音が詰まった実録系コミックエッセイだ。

 作者のいくた氏は、インスタグラムのフォロワー数23万人(2021年10月時点)のイラストレーター兼コミックエッセイ作家。これまでに、ワンオペ育児と仕事の両立に苦しむ妻の心境を代弁した『夫を捨てたい。』(祥伝社)を刊行。今もなお、新たな作品を公開し、注目を集めている。

 本作は、夫にキレずにいられない妻がその理由と向き合い、関係を見つめなおしていく夫婦漫画。パートナーに対して抱いてしまう嫉妬心や不平等感などが赤裸々に描かれており、ドキっとさせられる。

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「完璧な夫」に暴言…まさか自分がモラハラ妻だったなんて

 主人公のはなは、夫やかわいい子どもたちと暮らす会社員。はなの夫は、長男が生まれてすぐの頃は飲んで朝帰りが当たり前。はなは仕事をしながら、育児や家事をひとりでこなしていた。

 しかし、次男の出産を機に夫は子育てや家事に協力的になり、周囲から見ても妻であるはなから見ても「完璧な夫」になってくれた。それなのに、はなは夫に対する暴言や嫌味が止められない。

夫にキレる私をとめられない p.16

 例えば、夫が朝食を用意してくれたり、子どもたちを公園に連れて行ってくれたりしても、傷つくような鋭い言葉を投げつけてしまう。

夫にキレる私をとめられない p.3

夫にキレる私をとめられない p.4

 夫に対する言葉の暴力は、いつしか習慣化。するとある日、夫から信じられない言葉を告げられた。

“ママのそれ モラハラだと思うんだ”

夫にキレる私をとめられない p.5

夫にキレる私をとめられない p.6

 私がやっていたことは、モラハラだったなんて…。ショックを受けたはなは自分の心と向き合い、夫にキレないと満足できない理由を探し始める――。

妻であり母であり、ひとりの社会人である「私たち」から消えない不平等感

 本作は妻であり、母であり、ひとりの社会人でもある世の女性の声を代弁した作品だと思う。

 家事や育児、仕事などあらゆる面で男女平等が進んでいるとはいえ、今の社会では結婚後に女性がオンとオフ両方で幸せを掴むことはまだまだ難しい。男性が育児や家事をしていると「イクメン」や「素敵な旦那さん」と褒められるのに、なぜ女性である私たちは「当たり前」という一言で片付けられてしまうのかと疑問に思うことも多い。

 そして、良い妻、良い母親であろうとするほど望んでいたキャリアを諦めなければならないことがあるのも女性にとっては悩ましい問題。はなの場合も、産休・育休終了後に出世街道から外れた「私」とバリバリ活躍する同期を比べ、自分が会社のお荷物のように感じ、いままで通り仕事をこなせる夫を見て「なぜ私だけが…」の想いが募っていく。

夫にキレる私をとめられない p.118

夫にキレる私をとめられない p.120

 また、育児や家事をする上で望む言動を毎回してくれるわけではないのに「完璧ないいパパ」として見られる夫と、何もかもが中途半端なように思える自分を比較し、自己嫌悪。心から消えない不平等感を暴言という形で夫にぶつけるようになってしまった。

夫にキレる私をとめられない p.74

 誰しもが持っている理想の自己像は、人としてランクアップするために大切なもの。しかし、ロボットのように全てを完璧にこなせる人などどこにもおらず、みなどこか不完全なまま、自分や相手にとっての理想に近づけるように努力している。

 だからこそ、私たちは理想通りであれない自分や相手をどう受け止め、未来を共に過ごしていくかを考えていく必要があるのではないだろうか。理想を持つことは尊いが、完璧すぎる自己像を描いていると自分の首を絞めてしまったり、矛先がパートナーに向いた時に相手の心を殺してしまう可能性があったりするということを忘れてはいけないのだ。

 共に過ごす時間が長くなるにつれ、私たちは相手に対する要求が大きくなる。だが、夫婦の間には「やって当然なこと」など何ひとつ存在しない。だから、互いに「してくれてありがとう」「思い遣ってくれて嬉しい」と感謝し続けていけたら素敵だ。

 たったひとりのかけがえのないパートナーと自分自身の心を守るためにも、ぜひ本作を手に取り、笑顔が増える夫婦の在り方を一緒に考えてみてほしい。

文=古川諭香