551HORAI、おにぎりの桃太郎…うまいだけじゃない! 地元民が愛してやまないローカルチェーンが売れ続ける理由とは
更新日:2021/10/21
ふるさとへの郷愁や、楽しかった旅の思い出は、食事と結びついていることが多い。子どもの頃、家族で外食に行ったお店の味。旅先や出張先のスーパーで、見たことのないパッケージに惹かれて食べた、驚きの味。帰省や旅行の楽しみの多くが、その土地ならではの食事だという人も珍しくないだろう。
そんな私たちの味覚を伴うローカル愛と、食への探究心をくすぐるのが、本書『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』(辰井裕紀/PHP研究所)だ。著者の辰井裕紀氏は、ローカルネタでおなじみのTV番組『秘密のケンミンSHOW』のリサーチを7年務めたという経歴の持ち主。全国から選んだ7つのローカルチェーンについて、現地での取材に基づき、そのおいしさと人気の理由を探っている。本書の最大のポイントは、取材先が、おいしさだけではなく、独自の工夫でビジネスとして成功しているという視点で選ばれていることだ。
本書に登場するのは、岩手の「福田パン」、大阪の「551HORAI」、茨城の「ばんどう太郎」、三重の「おにぎりの桃太郎」、埼玉の「ぎょうざの満洲」、北海道の「カレーショップ インデアン」、そして熊本の「おべんとうのヒライ」だ。各章は、現地を訪れた著者の食レポから始まる。新書にもかかわらずオールカラーで、香りやジューシーな食感を想起させて食欲をそそるメニューの写真や、その土地に降り立って目にする風景、さらに商品が店に並ぶ様子なども鮮やかに掲載。ページを追うごとに、その土地に行って、おいしいローカルフードを探し当てたかのような楽しい気分になれる。
メニュー紹介だけでも十分にその魅力は伝わるが、さらに著者は、社長をはじめとした経営層への取材をベースに、その店のビジネスとしての強さを解き明かす。インタビューで掘り下げられるのは、ローカルならではの戦略や強み、そして全国に進出しない理由などだ。彼らの言葉からは、知られざるローカルチェーンのこだわりと、長く愛される理由が伝わってくる。
たとえば、バラエティ豊富な具材のコッペパンが人気の福田パンは、お腹いっぱいになってもらいたいという思いから大きめのサイズにこだわり、オシャレすぎず入りやすい店構えで、地域を支えている。お土産用としてもファンが多い551HORAIは、品質の安定やフレキシブルな原料供給のため、店舗の場所は生地工場から150分以内に限定。スケールメリットのため、豚まんと焼売の具材を豚肉と玉ねぎだけに絞るという安さの秘訣にも驚きだ。そのほか、パートの女性を「女将」に据えるばんどう太郎の人事制度や、イベント用の予約も「雨が降ったら当日キャンセル無料」というおにぎりの桃太郎のサービスなど、その会社ならではの取り組みも面白い。ぎょうざの満洲の「3割うまい!!」という謎のキャッチフレーズや、和食屋なのに充実するばんどう太郎のパフェなど、ローカルならではの不思議に著者がつっこみを入れるくだりも楽しい。この、ちょっと抜けたかわいげも、ローカルチェーンの魅力だ。食いしん坊の読者ならば、現状の社会情勢が落ち着いたら行ってみたいと思うローカルチェーンが見つかるだろう。
そして本書は『秘密のケンミンSHOW』さながらに、その地域出身の読者の郷土愛をくすぐる。筆者は埼玉出身で、ぎょうざの満洲は全国チェーンだと思い込んでいたくらい馴染み深い。ぎょうざの満洲は、「おいしい餃子で人々を健康で幸せに」をスローガンに、麺や餃子の皮に使う小麦の100%国産化、埼玉県内に自社ファームを設けるなど、体に良いメニュー作りを目指しているという。効率化を徹底し、飲食業には珍しい社員の1日8時間勤務、週休2日を実現しているのも初めて知った。地域に根差した、着実かつチャレンジングな姿勢に基づく躍進に、胸が熱くなった。
文=川辺美希