別軸の生活/前島亜美「まごころコトバ」⑭
公開日:2021/10/22
もしこの仕事をしていなかったら。もしどこかのタイミングで辞めていたら。たまに考えることがある。
空手を続けていただろうか? パティシエを目指していただろうか? はたまた全く違う人生だったのだろうか。
ガレットという、そば粉を使ったフランス料理が好きで、時間が空いた際にたまに立ち寄るお店がある。フランス語が飛び交う店内の空気と店員さんのいきいきとした姿をとても新鮮に感じた。
「あぁ素敵な姿だな」と。どんな仕事をどんな場所で、どんな言葉を使い、行うかで人生は大きく変わるんだと思った。
この仕事を今も続けているため、11年の経歴といえばすごいようにも聞こえるが、逆にいえば、この仕事以外のことは分からないことばかりで、ある意味で私は世間知らずなのではないかと、ここ数年で強く思うようになった。
中学のころから学校と仕事の両立をしていたため、アルバイトなどの経験もなく、ただひたすら一生懸命に毎日を生きながら芸能活動をしてきた。
人生に溢れている分岐点のどこかが違っていたら、別の夢を持ち、今頃はその夢を追いかけていたのだろうか。
ひとつの世界に没頭してきたこと、続けてこられたことも尊い経験ではあるが、その分知ることができなかったことや、体験できなかったこともあったため、自分の知らない世界を生きる人々が眩しく見える時がある。
最近やっと気づけたことだが、私は随分と長い間“仕事の成功が人生の成功”だと思い込んでいた。ここで評価されたものだけが、自分の人間としての価値なのではないかと。
一つ一つの仕事に全力で取り組む一方で、漠然とした不安や焦りのようなものに常に包まれていた。必要とされないことが怖いと、仕事上の評価や結果、数字ばかりを気にして一喜一憂してしまっていた。
自分の本当の価値とはなんだろう。自分の人生の中で本当に大切なことはなんだろう。
仕事を頑張り続ける、学び続けるのはもちろんとして、仕事とは別軸の“人としての生活”をまず充実させていきたいと思った。同業だけではないコミュニティを作りたい。趣味を増やし、学びの場を作りたいと思い、前々から興味のあった日本舞踊を始めた。
全く知らない世界に飛び込み、ーから勉強していく。浴衣の着方さえも分からず、きょろきょろと周りを見回しながら稽古に励んでいった。
所作の一つ一つ、踊りの一つ一つに意味があり、美しく見える姿の裏には辛い鍛錬があるのだと、新しい知識を得ることがとても楽しかった。
その場で新たに出会う方々との会話も楽しく、やはりどの世界もプロは凄いと改めて感じ、もっといろんな人とコミュニケーションをとりたいとポジティブな感情も持つことができた。
リフレッシュでもあり、新たな人生経験でもある。時間がある限り、さまざまな習い事を通して多くの世界を体験してみたいと感じた。
ずっとなにかを極めたプロになりたい、職人のようになりたいと思っていたが、ひとつのことだけでなく別の世界も知り、多様な価値観を学ぶことを大切にしていきたいと思った。
仕事と生活、どちらも両立させながら、それぞれの長期的な目標を持ち、30代・40代と素敵に歳を重ねられる人になりたい。
まえしま・あみ
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2017年にグループを卒業し、舞台やバラエティ番組などで活躍。またアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(2017年)でメインキャストの声を演じ、以後声優としても活動中。10月6日(水)より毎週水曜24:00にテレビ東京ほかにて放送のテレビアニメ『古見さんは、コミュ症です。』に矢田野まける役で声優出演。
Twitter:@_maeshima_ami
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