8人の小説家が仕掛ける、鮮烈なミステリー体験。「さあ、どんでん返しだ。」特別対談④(似鳥鶏×周木律編)
公開日:2021/10/22
五十嵐律人、三津田信三、潮谷験、似鳥鶏、周木律、麻耶雄嵩、東川篤哉、真下みこと。8人の小説家による多彩なミステリー作品が連続刊行される講談社の「さあ、どんでん返しだ。」フェアでは、作家同士が互いの作品に抱いた印象や、自らの創作へのこだわりを語りあったインタビューを配信中。第4弾は『推理大戦』似鳥鶏さん×『楽園のアダム』周木律さんが登場。「仕掛け番長」こと栗俣力也氏がMCを務めた、対談の模様の一部をお届けします。
『推理大戦』を読んでいるとまるで『刃牙』シリーズのよう。最強 VS 最強(周木)
周木:『推理大戦』を読んでいるとまるで『刃牙』シリーズのようですよね。最強 VS 最強。一体誰が勝つのかと、ワクワクが止まりませんでした。
似鳥:実は大きな影響を受けている作品として『喧嘩稼業』という漫画があります。この作品、『刃牙』シリーズに対するアンサーとして描かれたであろうと考えていて、そうした背景もあって『刃牙』シリーズを思い浮かべる方が多いのかもしれませんね。
栗俣:そんな世界最強の名探偵たちの実力を示すための各章ですが、すべて違う作家によって執筆されたかのような印象を受けました。
似鳥:そのように思ってもらえていれば嬉しいです。本作の名探偵たちの物語、意図的に書き分けています。「AI探偵」のユダとシャーロットはアメリカ、「クロックアップ探偵」のボグダンはウクライナ、「霊視探偵」のマテウスはブラジル。実は彼らの国の文学作品の翻訳されたものをできる限り取り寄せ、文体模写を行いました。
栗俣:そうなのですね! だから私のような感覚を覚える人がいるわけですね。
最強を決めるのであれば世界中の名探偵を揃えるべきであり、そこに関しては妥協してはならない(似鳥)
似鳥:文体模写を行う上でウクライナとブラジルは特に苦労しました。ウクライナの文学はロシア文学だろうと予想される方もいらっしゃるかもしれませんが、歴史や政治的観点から見ても、ウクライナ文学というものが確かに存在します。ウクライナの作品を探して取り寄せなければいけません。一方ブラジルについても、南米文学で一括りにしてしまうと、アルゼンチンとメキシコの文学を模写してしまうことになり、ウクライナ同様、作品を手に入れるハードルが極めて高かったのです。
栗俣:そこまでされていたとは。非常にストイックな作品づくりですね。
似鳥:もちろん、最強の名探偵を日本に住む人たちで揃えることもできたと思います。ただ、最強を決めるのであれば世界中の名探偵を揃えるべきであり、そこに関しては妥協してはならない。努力すればできることはやり切るべきだという考えで、それぞれの国の人たちの思考回路をトレースしました。それくらい執筆コストをかけていかなければ、今回の作品を納得できるものに仕上げることはできないと思っていたからです。
周木:本当に前半部分の名探偵たちのエピソードだけでも短編・長編など小説10冊分くらいには膨らませることができるものだったので、驚きでした。同じ書き手として、ここまで執筆コストをかけた作品づくりはなかなか真似できません。
似鳥:ありがとうございます。今回は本当に下準備には時間をかけました。また、実は執筆のために「トリックノート」を用意していて、200個ほどのネタを常にストックしていたことも良かったと思います。作品づくりの際にはそれらのネタのいい順に使用していくのですが、常にストックを補充する習慣があるので枯渇することはありません。こうした普段からの積み重ねがあったからこそ、『推理大戦』を世に出せたのだと思います。
栗俣:これほどまでに書き手が膨大なコストをかけて仕上げた作品ということは、それだけ読み手にとっては豪華で読み応えのある作品であると言っても過言ではありませんね! 一気読みできてしまったのも納得です。
似鳥:また、海外に住む外国人を主人公にした作品づくりは今回が初めてだったのですが、「意外といけるぞ」と手応えを感じました。今後の仕事や作品づくりの幅が広がるだろうなと思っています。
栗俣:そうなのですね。そうなると名探偵のユダやシャーロット、ボグダンにマテウスたちのスピンオフ作品も期待できそうですね!
似鳥:ぜひ描きたいなと思いつつも、まずは『推理大戦』が売れてくれないことには先に進まないので、そこまでとにかく売れてくれたらなと思います。ぜひみなさん、よろしくお願いいたします!
対談インタビューの模様は、動画でもご覧いただけます。
TSUTAYA Newsに掲載のインタビューとともに、ぜひチェックしてみてください。
ダ・ヴィンチニュースでは、「さあ、どんでん返しだ。」に参加する8人の小説家への単独インタビューも公開中!
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