日本を作ったのはぶっ飛んだモブキャラだった!? 教科書に載っていない偉人の活躍
更新日:2021/10/26
モブキャラとは、ドラマやアニメなどのメインキャラクターの背景にいる、名のないその他大勢のこと。基本的に物語を動かすことのないモブは、ちょっと残念な意味で話題になることもある。本書『モブなのにすごいことしちゃった!日本史の偉人たち』(大澤研一:監修、伊野孝行:イラスト、笠井木々路:編・文/朝日新聞出版)は、そんな、日本史のメインキャラに隠れているものの、知ればとびきり楽しいモブキャラたちにスポットをあてた1冊だ。
本書では、大阪歴史博物館の館長である歴史の専門家・大澤研一氏の監修のもと、教科書で大きく取り上げられない日本史上の人物70人を、思い切った誇張を加えたコミカルなイラスト付きで紹介。飛鳥・奈良時代から幕末・明治時代までを5つの章に分け、その時代の特徴や年表と共に、モブたちの偉業や人物像を伝えている。
本書に登場するのは主に、時代を動かす大きな出来事に関わったわけではないものの、日本の文化や学問などを支えた人物たちだ。稗田阿礼、種子島時尭、ヤン・ヨーステン、前島密といった教科書に名前だけさらっと登場するような偉人から、知る人ぞ知る面白キャラまで幅広い。その多くが、かなりすごいことや変わった偉業を成し遂げている。こんなエラい人、モブじゃないよね?と思う人物もいるが、そんなツッコミはさておき、本書が面白いのは、あくまで彼らをモブと位置づけ、愛あるイジりや残念エピソードと共に紹介していることだ。中にはその人物のファンにはちょっと怒られそうなイラストや表現もあるので、日本史を隅から隅まで忠実に知りたいという真面目な人は、気を付けたほうがいいかもしれない。
たとえば、文句なしにすごい人のひとりは、飛鳥~奈良時代を生きた光明皇后だ。奈良の大仏を造らせた聖武天皇の妻である彼女は、天然痘や飢饉などで絶望に暮れる人々のため、福祉施設や病院を建てて孤児や病人を救う事業に励む。千人の体をきれいに洗い、皮膚がただれた人の膿を直接口で吸い出したという。しかも、病弱な聖武天皇や官僚をうまく動かす政治のやり手。今もイケメン仏像として人気が高い阿修羅像は彼女が作らせた仏像のひとつで、自身の亡くした子をモデルにしたといわれているそうだ。
知る人ぞ知る偉人たちの物語も読み応えがあるが、まさにモブという人物たちのエピソードこそ本書の真骨頂だ。「蒙古襲来絵詞」で描かれている黒馬に乗った男・竹崎季長は、知らない武器を持つ恐るべきモンゴル人に対して一番乗りを仕掛けた肥後国の御家人。幕府へのポイント稼ぎのため一番乗りを達成するものの、すぐに怪我をして前線から引っ込む。そのせいか報告者に手柄を忘れられてしまい、自ら肥後から鎌倉に行って自己申告したというちゃっかりした男だ。蹴鞠にハマりすぎて鞠の精に出会ってしまった平安時代の藤原成通や、フランシスコ・ザビエルを日本に連れてきたが、日本の偉い人相手に通訳のミスを連発した日本人初のキリスト教徒・アンジローもチャーミング。
偉業や逸話だけでなく、そのキャラクターを紹介する一言コメントも面白い。菅原道真を貶めた後、身に不幸が降りかかった残念キャラ・藤原時平は笑い上戸で、書記官が目の前でオナラしたことにツボって仕事が手に付かなくなったそうだ。ところどころに挟まれる小ネタには、歴史上のモブたちが確かにそこに生きていたという実感と親しみを得られる。
70人の誰もが、その生涯をモチーフに映画が撮れそうなキャラクターだ。演じるならあの俳優がいい、なんて妄想も楽しい。この本で興味を持った人物を、もっと調べて深掘りしてみるのもいいだろう。堅苦しい歴史書は苦手という人も気軽に読めて、読後は日本史好きを堂々と名乗れる1冊だ。
文=川辺美希