「なぜ、あんな夢を見たのだろう?」悩みが多い時代に「悪夢」とうまく付き合うために『夢を読み解く心理学』
公開日:2021/10/22
睡眠中に見る夢。「なぜ、あんな夢を見たのだろう?」「何かの暗示ではないか」と一日中気になることがしばしばある。特に悪夢は後を引く。せっかく見る夢を生活や仕事などに役立たせる方法はあるのだろうか。
『夢を読み解く心理学(ディスカヴァー携書)』(松田英子/ディスカヴァー・トゥエンティワン)では、臨床心理学の「先生」が、3人の教え子(Aさん、Bさん、Cさん)との会話形式によって、夢の正体や活用法を明らかにしていく。「先生」である著者の松田英子氏は、不眠症や悪夢の心理学的な支援の方法の研究者だ。
「睡眠」は人の心の健康リスクにとってゲートキーパー役になっており、思うように睡眠がとれないと悪夢を見る確率が高くなり、不眠を放置すると、長期的にはうつになる確率がどんどん増していく、と著者は述べる。
そうしたことから、日本ではうつ病やパニック障害、PTSD、強迫性障害、社交不安障害などの認知行動療法が保険適用で受けられることと、認知行動療法の対象に不眠症を加える検証がなされていることに本書は触れ、悪夢も将来的に保険の適用範囲になることを期待している。睡眠医療の研究者の間では「悪夢」への関心が高まっているというのだ。
さて、悪夢はなぜ見てしまうのだろうか。基本的には日常生活で対処しきれないトラウマやストレスの経験が睡眠時に再生されて悪夢となる、と本書では説明される。生活上での解決が難しいからこそ悪夢を見て、イメージの中で解決の練習をしているという。認知行動療法では、トラウマやストレスの元凶になっている経験を現実生活の中で解決していくが、興味深いことに、現実よりも夢のほうが先に良くなるケースが多い印象なのだそうだ。著者は、「次にやってくる現実に対して、ポジティブなアクションがとれるよう、事前にイメージの中で記憶情報をもとにシミュレーションがなされているから」と考えている。
また、悪夢の影響が深刻な場合は、悪夢のシナリオの続きを考える「イメージリハーサル療法」というものがある。悪夢の続きを一緒に考えて、本人にとって一番良いかたちの結末に変えていくようにシナリオをつくり、リハーサルするそうだ。和解する、自己主張する、戦う、誰かに助けてもらうといった結末が多いそうで、リハーサルを重ねると、悪夢をだんだん見なくなっていく、という。
本書では、夢との付き合い方について、「先生」と「教え子」が、次のように会話している。
先生「夢には意識下では思いもよらぬ人や物事がでてきたりするから、ある意味で、自分から自分へのメッセージともいえる。(中略)」
教え子C「夢のメカニズムを知り、自分からのメッセージを直視することが大事なんですね」
先生「だいたいはそのときどきで、現実のリスクをシミュレートしている。多いのはやっぱり対人関係、経済的な状況、あとは健康あたりかな。そしていちばん悩んでいるもの。(中略)」
教え子B「夢をたんなるファンタジーととらえるのではなく、現実の自分を変えるためのツールとして有効活用できる(中略)」
先生「(中略)イメージできるということは、成長できる可能性をもっているということ。(以下略)」
悩みが多い時代。本書が夢の悩みを軽減する手助けになりそうだ。
文=ルートつつみ
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