“観る専”も楽しい!『ボールパークでつかまえて!』が教えてくれる野球場の楽しさとは
更新日:2021/10/25
“クライマックス”に向かい白熱するプロ野球マンガが『ボールパークでつかまえて!』(須賀達郎/講談社)である。
「~の秋」という言葉がある。これは野球ファンからすれば「プロ野球の秋」である。まずレギュラーシーズンの優勝チームが2つのリーグ(現実ではセ・リーグとパ・リーグ)で10月中に決定。11月中には、優勝チームを含めた3位チームまでのトーナメント「クライマックスシリーズ(以下CS)」を行う。最後が、各リーグのCSを勝ち抜いた2チームによる日本選手権シリーズ、通称「日本シリーズ」だ。
前置きが長くなった。つまり秋はプロ野球の締めの季節であり、最もアツくなる季節なのである。そんなタイミングで紹介する本作の3巻では、架空のプロ野球チーム「千葉モーターサンズ」が、現実より一足早く“クライマックス”を迎えていた――。
ただ書いておきたいのが、本作はプロ野球“観戦”マンガであり、野球ファンだけでなく、野球に詳しくない人も楽しめる物語ということ。チームの勝ち負けは別にして、楽しすぎる場所=球場で繰り広げられるドラマが魅力なのだ。読めばあなたも生で観戦してみたくなるかも?
野球素人のビール売り子が“ボールパーク”にハマる!
アメリカでは、野球を“ナショナルパスタイム(国民的娯楽)”、球場を“ボールパーク”と呼ぶ。そのボールパークは野球が行われ、選手たちの勝負を観る場所ではあるが、そこでは地元の名物フードが楽しめ、場内にプールなどの遊戯施設が作られ、さまざまなイベントが行われる。老若男女、家族連れ、だれもが楽しめる場所なのだ。
近年、日本のプロ野球チームは、本拠地の“ボールパーク化”を目指している。ファン離れが起きないよう、アメリカにならってさまざまな施策を行っている。
さてここで本作のストーリーを紹介する。舞台は「千葉モーターサンズ」の本拠地である「モーターサンズスタジアム」だ。常に満員になるわけではないが、生観戦が好きなファンと、彼らとチームのために働く人々が集う立派なボールパークである。
会社員・村田も生観戦が大好きなファンのひとりだ。観戦ノートをつけ、弁当やビールに舌鼓をうち、まったりと野球を楽しんでいた。
そんな彼に絡んでくるようになったのが、野球素人の新人ビール売り子・ルリコだ。20歳の金髪ギャルで、空いているときは村田の隣に座って休憩し、ひとしきり彼をいじって去っていく。元気でグイグイ来る彼女との交流は、村田をドキドキさせ、彼の球場での楽しみになる。
だが村田は知らない。ルリコは知らない人と話すのが苦手な純情ガールだということを。彼女もまたドキドキしていたのだ。“がんばって”話しかけて、そのあと顔を真っ赤にして照れる……ということを繰り返していた。
「モーターサンズスタジアム」には、村田をはじめ、球場を我が家と呼ぶ常連のおじさん、選手の家族、親子で応援しに来る家族、笑顔で球場を見回す謎の老人、そして売り子や球団職員などの仲間たちがやって来る。
ルリコは彼らと触れ合い、もともと素直で感動屋だったこともあって、野球の魅力にどっぷりとハマっていく。そして物語は“クライマックス”へ―。
勝っても負けても野球は続き、彼らはまたやって来る
ルリコがビール売り子を始めて4カ月、優勝どころかCS出場も未経験のモーターサンズは奇跡を起こそうとしていた。
ピークを過ぎたと思われていたベテランスラッガーの再起、日本になじもうとする元メジャーリーガーの奮闘、同期にコンプレックスを抱くドラフト下位入団の二塁手の成長などがあり、気がつけばチームは同率3位になっていた。
勝てば単独で3位になりCS初進出という大一番の試合。ルリコは満員になった球場が一つになるのを感じ、野球とボールパークをさらに好きになる。激アツ展開の3巻をぜひ読んでほしい。
なお「“クライマックス”を迎える」と書いたが、それはあくまで今シーズンの話だ。勝とうが負けようが、監督や選手が替わろうが、チームの戦いは毎年続き、ボールパークはそこにあり続け、ファンもそこで働く人たちもまたやって来る。本作は3巻では完結しないので安心してほしい。
2019年まで毎年、現実のプロ野球の観客数は1試合平均で約3万人にものぼった。なぜこれほどまでに人が集まるのか。当然ひいきのチームが勝つところを観たいからだろう。だがそれだけではない。そこはただただ“楽しい場所”だからだ。
最後に村田が生観戦にこだわる心情を引用したい。
淡い蛍光灯の
通路を抜けて…
客席に繋がる
ゲートをくぐるときの―
視界が一気に
開けるこの感じ
何度来ても
たまらない…!!
まずは数年ぶりにボールパークへ行こうと思う。そして来年には売り子さんから生ビールを頼めるようになっていることを願って。
文=古林恭