話し上手より聞き上手に。リアクション次第で信頼感も深まる/世界の「頭のいい人」がやっていること

ビジネス

公開日:2021/10/30

 世界で通用する「頭のいい人」がどんなことをやっているのか興味はありませんか?

優秀な頭脳を持つ人がやっているのは、「空気は読まない」「集中力を身につけない」など、周りを自分のペースに巻き込んでいく力を持っているから。東大、フランス国立研究所、MENSA(高知能者の交流を目的とする国際団体)などで世界のさまざまな「頭のいい人」を見てきた脳科学者・中野信子さんが、「世界で通用する、本当に賢い人達」が実践していることを1冊に集約。少し意識を変えるだけで、誰にでも今日からできるコツが満載です!

この作品は、2012年8月に刊行された『世界で活躍する脳科学者が教える! 世界で通用する人がいつもやっていること』を改題し、一部加筆・修正したものです。

※本作品は中野信子著の書籍『世界の「頭いい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』から一部抜粋・編集しました

世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた
『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(中野信子/アスコム)

話し上手より聞き上手。
──知らないうちに、相手を自分の思い通りに動かす

相手と噛み合わないと逃げたりケンカしたりする人が多い

 前回連載分で、「自分のやることが必ず、誰かのためにもなっている」という、Yさんの行動の基本をご紹介しました。でも、次のように思ってしまう人も、多いと思います。

「『誰かのためになる』とか『誰かに褒められる』を意識しすぎると、ただの『都合のいい人』になってしまうんじゃないか」

 あるいは、「自分がもともとやりたかったことが、他人の意見に左右されて、ブレてしまうんじゃないか……」

 ではYさんは、自分のやりたいことと、誰かが必要としていることがうまく噛み合わないとき、どうしているのでしょうか。

 まずは、自分がそういう立場になったと想定して、検証していきましょう。あなたなら、そういうことが起きた場合、どういう行動をとりますか?

 言いたいことはガマンして、自分を殺し、相手の意図に合わせるでしょうか?

 それとも、「この人とは話が合わない……」と距離を置きますか?

 中には、強い態度で自分の意図を主張する人もいるかもしれませんが、ケンカ別れになってしまうことが多いでしょう。

まずは相手にとことんしゃべらせよう

 Yさんの態度は、どれとも違います。彼は一見、受け身のように見えるほど、柔らかな態度をとります。それでいてなぜか、彼の手にかかると、彼がやりたいように物事が進んでしまいます。ちょっと不思議ですよね。

 Yさんは非常に迫力のある人なので、相手が自然とYさんに合わせるというような側面も、なくはありません。でもYさんはそれ以前に、あることを工夫しているようなのです。自分では企業秘密(?)と思っているのか、はっきりとは口にしませんが、私は次のように思いました。

 それは、最初はとにかく相手にしゃべらせること。話し上手よりも聞き上手に徹するのです。人は誰でも、自分の話をちゃんと聞いてくれると嬉しくなるものです。すると相手は気分が良くなってきて、聞いてくれる人を信頼しやすくなります。

 このようにして信頼を得る方法を、「ラポールの形成」といいます。クライアントとの信頼関係を築くために、カウンセラーが使うテクニックです。

尊敬の念を抱くところからすべては始まる

 とはいっても、ただずっと聞いているだけではいけません。ラポールの形成では、相手に好意と尊敬の念を持つことも大事です。

 Yさんはいつも、相手に対して尊敬の気持ちを持つように心がけていたのです。すると相手にもそれが伝わり、自然とYさんに対して敬意を持つようになるのです。これがラポール形成の近道であり、王道ともいえるでしょう。

 ラポールの形成では、共通点を探すのも重要なこと。あまりよく知らない人とでも、共通点があるとわかったとたんに、打ち解けた話ができるようになるという経験は、誰しも持っているものだと思います。これは、簡単ですぐに使える方法です。

 例えば、ジャズが好きな男性がいたとします。自分もジャズが好きであれば、彼が好きなミュージシャンや曲名などをあらかじめ調べておきます。対話の上ではまず、音楽の話に持っていきます。「何の曲が好きですか?」という質問は、どちらからともなく出るでしょう。

 そのときに、「ちょっと待って。ここでゲームをしましょう」などと振り、お互い、白紙に自分の好きな曲の名前を書いて、伏せておくのです。そして、同時にその紙を表に返す。もし、ここで同じ曲名が書いてあったら、一気に心理的な距離が縮まります。子供だましみたいな手ですが、その有用性は学術的にも明らかにされています。

 相手の趣味を事前に調べたことは、もちろん黙っておきましょう。

リアクションのひと工夫だけで信頼感が深まってしまう

 またリアクションも、ラポールの形成では欠かせません。一緒に笑ってあげたり、怒ってあげたりと、同じ仕草を、気づかれないようにやってみたりするのです。すると相手は、親近感を強くしていきます。

 ちなみに、相手の行動を真似るというこの行動は、心理学では「ミラーリング」と呼ばれています。

 ラポールの形成のために、Yさんはこのような工夫をしています。

 まずは、相手をすっかりいい気分にさせて、自分の言うことを聞いてくれやすいようにしておきます。その裏で、自分が誘導したい目的地に話を持っていく交通整理を、ちゃっかり進めているわけです。実に老獪なお爺様ですね!

<続きは本書でお楽しみください>