「貧困は自分が思っているよりずっと近くに潜んでる」──映画公開中『護られなかった者たちへ』に読書メーターの反響続々!
更新日:2021/10/26
これは、けして他人事ではない“私たち”の物語だ。『護られなかった者たちへ』(中山七里/宝島社文庫)は、社会福祉制度に鋭く斬り込む社会派ミステリー。東日本大震災から10年を経た宮城県仙台市で不可解な殺人事件が起きたことから、その裏に隠された悲痛な現実が明かされていく。10月1日からは佐藤健、阿部寛らが出演する同名映画も公開中。映画ではヒューマンドラマがより濃厚に描かれ、観る者の心を強く揺さぶる作品に仕上がっている。
最初の被害者は、福祉保健事務所課長の三雲忠勝だった。誰もが口をそろえて「善人」と称えるこの人物が、身体を拘束され餓死死体で発見されたのである。飲まず食わずのまま放置するという残忍な手口だが、三雲の周辺を調べても彼を恨む人物など見つからない。さらに、「人格者」として知られる県議会議員・城之内猛留も餓死死体で発見され……。
捜査線上に浮かび上がるのは、刑期を終えて出所したばかりの利根勝久。彼は事件とどう絡んでいるのか。そして、宮城県警捜査一課の笘篠が見出した、ふたりの被害者の共通点とは。それぞれの動向が描かれる中、生活保護制度の現状、「護られなかった者たち」の悲痛な叫びが徐々に明かされていく。貧困は「自己責任」と断じられ、弱者が切り捨てられる昨今、作中で描かれる問題は多くの読者の胸を打ったのだろう。読書メーターにも多くの声が寄せられている。
sugahata
餓死を手段にした連続殺人事件が発生、被害者に共通するのは…。映画化を機に手に取った本だが、大収穫、今年一番かも。深刻な社会問題を扱いながら最後の最後にどんでん返し! 護ろうとした者たちを護れなかった者たちが哀しい。
nejimakidori
現実の生活保護水際作戦もこれほど理不尽なのか。福祉保健事務所の人間は、使える予算内に受給者が収まるよう、水際作戦で取捨選択をする。業務に忠実な公務員なのかもしれないが、人権を守るという本来の目的を見失ってはいないか。日本の生活保護の捕捉率は非常に低いと言われている。制度や予算が現実と乖離しているのではないか。大きな構造的問題。既に格差社会が進む中、コロナ禍で、護られるべき人が護られない現実がさらに拡大してはいないか。いろいろと考えさせられた。ミステリー小説としても面白く、一気に読んでしまった。
SARAH
分厚い本だけど、読み始めるとページをめくる手がとまらない。読み進めるのがとてもとても苦しい内容だけど、止められない。そして終盤、まさかの犯人。護られるべき人が救済されず、反省しない悪人に税金が使われている。慣れても、受け入れてもいけない現実だけどどうすれば変えられるのか打開策は思いつかない。国の政策だからと削られるのが、人の命であってはならないはず。この犯罪者は悪人ではなかった。遺言がなおさら辛い。うまくまとまらないが、貧困は自分が思っているよりずっと近くに潜んでると思い知らされる
はまっち
生活保護という重たいテーマ。日本の社会福祉制度の問題を突きつけています。不正受給ばかりが取り沙汰されがちですが、本来は困窮者をなくし、全ての人が人間らしい暮らしが出来る仕組みなはず。読んでいて、切なくなり、腹が立ちました。これが先進国の現状なのかと。文中にありましたが、もっと声を上げていいのだと思いました。ミステリーとしても素晴らしかった。最後の最後まで展開が読めず、ラストは涙が止まらないです。映画も楽しみです。
sayuri
貧困からはもはや自分の努力で抜け出すことができない社会になっている。この作品は、そのこと、そしてまだ解決が難しい現状や問題点を描きつつ、ミステリとしても完成させている。映画化もされるようだが、この作品に触れた人たちが、この問題や自分ができることにについて考えるきっかけになると思った
だい
リアルな描写に息をのむ。そして最後に大きなどんでん返しが待っている。ここでは、生活保護という制度を描いているが、保護を受ける側と認定を下す側では、今の状況や予算の関係など、人情に添えない部分が多いのだろう。そして殺人事件が起こる。決して許される行為ではないが、保護を受けられなかった人を思うとやりきれない気持ちになる。
やっちゃん
すごい完成度。最後の展開には唸るしかない。プロットの優れたエンタメだけではなくテーマも重厚。声の大きい者が得をして遠慮がちな人が損をする世の中は理不尽すぎる。とにかく面白い。映画も見てみたくなった。
moko
直視するのが辛い日本の現実が描かれていた。真面目に生きてきた善人が、飽食日本で、餓死という最期を迎えることになってしまったのが悲しい。自力ではどうすることも出来ず、身近な人も余裕がなくて、護ってあげられなかった命。マニュアル通りに選別・処理する真面目な公務員により、最終ネットから落とされてしまった命がある一方、その公務員が護らなければいけない家族の命。また、最近「親ガチャ」が話題になっているが、これに関する現実も描かれている。生活保護なんて、無縁や恥と思っている人にも、読んでほしいと思った。
いしこ
正直読みながら他人事には思えず、実家の両親のことを考えてしまって気が気じゃなかった。この作品はノンフィクションとは言わないまでも、決してフィクションではないと思う。今の制度ではマンパワーに頼りすぎて、役所の人は生活保護受給者の選定を作業の一環としてやらざるを得ない状況なのはわかる。結局、改善という意味では今のやり方そのものを変える必要があると思う。どうか一刻も早くこの物語の登場人物たちのように辛い思いをしなくていい社会になるように願うし、自分もその社会を作るために出来ることはしたいと思った。
アスミ
最後2章は涙なしでは読めなかった。家族ってなんなんだろう。血がつながっていることが家族の条件なのかな。夫婦は血のつながりがないのに家族になれる。紙切れ一枚で家族の証明ができるのかな。法律で家族とされなくたってけいと利根とカンちゃんは家族だったと思う。やり方は間違っていたけど、家族を護ろうとしていた。護られない、護られなかった者たちがいるその事実に目を向け知ろうとすることで一人でも網にひっかかるようになればいいな。
コロナ禍の中、格差はさらに拡大し、『護られなかった者たちへ』で描かれた問題はますます切実さを増している。自分を、そして大切な人を“護る”ために何ができるのか。そんなことを考えさせてくれる作品だ。さらに、“どんでん返しの帝王”の異名を持つ中山七里氏らしい驚愕のラスト、“家族”の意味を問う人間ドラマと、読みどころは盛りだくさん。映画と原作で描き方も違うので、ぜひ異なる余韻を味わい比べてほしい。
文=野本由起