寺島惇太「拝啓、日陰から」①陰キャと家族

アニメ

更新日:2021/11/14

寺島惇太
幼稚園のころ

 みなさん、初めまして。寺島惇太と申します。最近はダイエットに夢中で、「ストイックマン」を自称していますが(詳しくはTwitterをご覧ください)、実はぼく、声優をしております。

 声優といえば、ここ数年は憧れの職業のひとつですね。キャラクターの向こう側にいる存在に光が当てられるようになり、中にはアイドル並みの人気を誇る人もいます。そんな声優に対して、どんなイメージをお持ちでしょうか? もしかしたら「キラキラしている人たち」と思っていませんか?

 もちろん、それは間違いではありません。確かにそういう声優も存在しますから。しかし、陽があたる場所には必ず陰ができる。この声優界も例外ではありません。そして、キラキラのイメージを僕に抱きこのコラムを読み始めてしまった方を裏切るのは非常に心苦しいのですが、僕はその陰の側。そう…。

 ぼく、根っからの陰キャなんです。

 え、陰キャの癖にどうして声優をやっているのか、って? 否!語弊を恐れずに言わせていただくならば、陰キャだったから声優になったんです。そもそも本来声優というのは裏方仕事であり今みたいにウンタラカンタラ、というのを僕が語るのはおこがましいので他の方にお譲りします。どんなに陰キャが御託を並べても時代と共に職業の在り方も変化していき、その巨大な変化の濁流から抜け出すには僕はあまりにちっぽけな存在です。覚悟を決めなんとかしがみつきながら生きていかないといけません。

 そこで今回から始まる連載『拝啓、日陰から』では、ぼくがいかに陰キャなのか、そのエピソードを一つひとつ紹介していこうと思います。陰キャの星の下に生まれた男が声優になり、キラキラしている同業者に揉まれながらも陰キャとして生き抜いていくサバイバルな道のり。それを紹介することで、本当のぼくをみなさんに知っていただけたら幸いです。

 ということで1回目の今回は、家族とのエピソードについて。

 ぼくは、過保護なくらい息子を溺愛する母と、面倒くさがりで皮肉屋な父、そして7つ年下の妹に囲まれて育ちました。それはどこにでもいるような4人家族です。取り立てて特殊なところもなく、お喋りもするし一緒に買い物にも行くし、ときには喧嘩もするという、とても平凡な家庭でした。

 でも、大人になり、気づいたんです。ぼくの陰キャ感は、どうやら「父親からの影響だ」と。

 ぼくの父は、とても無口な人でした。仕事も真面目で、サボったり遅刻してるところを見たことがありません。特に時間に関してはシビアで始業時間の30分前には必ず会社に到着するように家をでる徹底ぶり。僕とは真逆なのでそこはすごく尊敬できるところでした。ただ、あまり酒癖がよくないんです。たとえば、食事中にお酒が入るとやたら饒舌になり、テレビに映る芸能人を観ては「あいつも裏ではなにやってるかわかったもんじゃない」なんて皮肉ばかり口にします。

 外でベロンベロンに酔っ払っては家の鍵を失くし、深夜に玄関で「開けてくれ~」と大騒ぎすることはしょっちゅう。休日はナマケモノもびっくりするくらい1日中寝ているか、懐が潤っている時はパチンコ屋で銀玉転がしに勤しんでいました。勝った時は景気良く回転寿司に連れて行ってくれるので父が朝からパチンコに出掛けたときは神棚に勝利を願ったりしてましたが、勝率は2割程度で負けた時はひっそりと帰宅し自分の部屋に逃げ帰ってました。そうやって情けない姿をさらすたびに、母からそれはそれはキツく叱られます。

「ネガティブなことばっかり言わないでよ!」
「ちょっと、いま何時だと思ってるの!」
「お父さん、たまには子供と遊んであげなさいよ!」

 もう、典型的な「愛すべきダメ親父」です。そんな父を見て、ぼくは次第に「もうちょっと立派な大人になるぞ……!」と思うようになっていきました。

 母には怒られてばかりで、息子からは若干ひかれてしまっている。このままでは家庭内での居場所がない。そう焦った父は、妹をかわいがりだします。やたらと話しかけ、休日には遊びに連れて行こうとする。でも、妹は妹でひいてしまい、結局、父の計画は失敗してしまったようで……。

 でも、振り返ってみると、父は不器用なだけだったのかもしれません。家庭内で「父親」という役割をうまく演じることができず、結果としては「長男」のような立ち位置に収まってしまった。そうなると、ぼくは次男的なポジションから父のことを見つめるようになるわけです。だから一般的に言われるような、父親に対する敬意や、威厳みたいなものがいまいちピンとこず。なんだか不思議な関係です。

 ただ、どんなに「こうはならないぞ」と思っていても、やはり親子の関係は濃いもの。皮肉屋なところや、銀玉遊戯に魅了され時間とお金を費やしてしまうところ、大人としてしっかり振る舞えないところは完全にぼくのなかにインストールされてしまいました。そしてそれが、陰キャという形で表出していくことになるのです。せめて時間にシビアなところを受け継げればなぁ、なんてこった……。

 さて、今回はここまで。次回は「陰キャと学校生活」をお送りします!

【著者プロフィール】
てらしま・じゅんた●1988年8月11日、長野県生まれ。2009年に声優デビュー。『アニメガタリズ』『TSUKIPRO THE ANIMATION』『アイドルマスター SideM』『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』『A3!』といったテレビアニメを中心に活動するほか、ゲームやドラマCD、映画の吹き替えなどでも活躍。また、2019年には『29+1 -MISo-』でアーティストデビューも果たす。2021年12月には3rdミニアルバムも発売予定。

公式Twitter:https://twitter.com/juntaterashima3
公式YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCDuCCq1gONtzb3YGFUtuwTw

構成協力=五十嵐 大

<第2回に続く>