『アイドルマスター シンデレラガールズ』の10年を語る④(神谷奈緒編):松井恵理子インタビュー

アニメ

公開日:2021/11/3

神谷奈緒
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

 2021年、『アイドルマスター シンデレラガールズ』がプロジェクトのスタートから10周年を迎えた。10年の間にTVアニメ化やリズムゲームのヒット、大規模アリーナをめぐるツアーなど躍進してきた『シンデレラガールズ』。多くのアイドル(=キャスト)が加わり、映像・楽曲・ライブのパフォーマンスで、プロデューサー(=ファン)を楽しませてくれている。今回は10周年を記念して、キャスト&クリエイターへのインタビューをたっぷりお届けしたい。第4弾では、神谷奈緒を演じる松井恵理子に話を聞かせてもらった。

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(神谷奈緒は)いつ台本を読んでも、「すごく優しい子だな」って思う

――松井さんは2014年から『アイドルマスター シンデレラガールズ』に参加しているわけですが、まずはこのプロジェクト全体に感じている印象を、聞かせてもらえますか。

松井:第一に、ここまで成長し続けているのがすごいなあ、という感想です。『シンデレラガールズ』は新しい仲間が毎年増えていって、それが新鮮だなあという気持ちと、自分と干支がひと回り違うような子とも一緒にステージに立って歌って踊るのも、他では体験できないことだなって思います。ずっと、初々しい感じがあるんですよね、ステージ自体に。「今日が初めてのステージです」という子がいると、我々もすごく力をもらえるし、やっぱり新しい仲間に対して、変な姿を見せられないですし(笑)。プレッシャーではないですけど、自分も初心に返って挑むことができています。

――『アイドルマスター シンデレラガールズ』に関わってきて、自分が変わった・成長した、あるいは自身の新たな一面を発見した部分はありますか。

松井:昔は、自分自身あまり緊張するタイプではないと思ってたんです。だけど、『アイドルマスター シンデレラガールズ』でたくさんライブをやらせてもらうようになってから、「いや、けっこう緊張しいだぞ?」と思うようになって。その部分で、自分の認識が新しくなったところはあるかもしれません。

――『アイドルマスター シンデレラガールズ』のライブだと緊張するのはなぜでしょう?

松井:アイドルとの関わり方が特殊というか――神谷奈緒ちゃんは、わたしが関わる前から存在していて、声がついていない時点の神谷奈緒ちゃんに、すでにプロデューサーさんがいて、皆さんがすごく応援してくださっている中で、後からわたしがボイスを担当させていただいた流れがあって。彼女の地位がすでに築き上げられている中で、そこに飛び込んだので、彼女に対してもそうだし、プロデューサーさんに対しての責任感は、最初の頃は強く感じてました。今にして思えば、それで自分を追い詰めていたようなところもありました。今は、変な責任感みたいなものはいい意味でほとんどなくなっているというか、全部一回フラットにして、神谷奈緒ちゃんとだけ向き合おう、と思っています。

――なるほど。まさにいま話してくれたように、神谷奈緒という子と出会ってからも長い時間が経っているわけですが、彼女に出会ったときの印象と、お芝居やレコーディングやライブを経て、その印象が変わった部分について教えてください。

松井:まず感じたのは、それまでの自分が全然やったことがない子、ということでした。最初のオーディションでセリフを見たときは、「わっ、ツンデレの子だ」「ツンデレやったことないからできないわ」と(笑)。当時、もうちょっと癖のある星輝子ちゃんも受けさせていただいてたんですが、当時のディレクターさんが、「声は断然、神谷奈緒だね」と言ってくださって。で、そこから、オーディションなのにめちゃめちゃ演技指導が始まるという(笑)。自分の中で、照れる演技をそんなにやったことがなくて、でも神谷奈緒の中で「恥じらい」が大事なキーワードになっていて。ただのツンデレじゃなくて、彼女は「恥じらい乙女だな」って思いつつ、「恥じらってるところが主軸だから」と言われていました(笑)。

――「恥じらい乙女」が松井さんの中で神谷奈緒を演じる上での軸だとして、いろんなシーンでお芝居を経験する中で「こういう子なんだ」って、どんどん姿が見えていった部分もあるんじゃないですか。

松井:不思議なもので、毎年「あっ、そうだったんだ」って思うことがあります。毎年新要素が出てくるし、これだけ長くやっていても、知り尽くしてないかもって思います。というのも、最初は恥じらい乙女の部分だったり、ノリよく突っ込んでた部分もあったんですが、神谷奈緒ちゃん自体も成長しているんですよね。最初は卑屈というか、劣等感も抱えていたり、かと思えば思い切りがよい部分や自信に満ちあふれているときもあって、真逆のものが彼女の中に存在しているなって感じていて。その中で、かわいいときもあったり、カッコいいときもあったりするんですけど、彼女が誰かになり切って演じている場面が、多くなってきたような気がしています。そういうシーンを演じさせていただくと、神谷奈緒自体も憑依型というか、噛めば噛むほど味が出るような印象があって、七色のアイドルだなって思いますね。

――神谷奈緒を表現するときに、松井さんが楽しいと感じる部分と難しいと感じる部分、それぞれ教えてもらえますか。

松井:演じるときは、いつも楽しいですね。毎年新しい発見があって、ベースにどんどん積み重なっていくのが、役者として面白いし、楽しいです。そこが逆に難しいところもあって、「ああ~、こうきましたか」みたいなところもあります(笑)。神谷奈緒が誰かを演じているところを演じるときのさじ加減は、繊細で難しかったりしますね。

――神谷奈緒は「恥じらい乙女」であり、ツンデレの属性を持つ子だということは、プロデューサーさんも感じているところだと思うんですけど。演じている松井さん自身が思う、「実はこんないいところもあるよ」って感じてる部分を教えてもらえますか。

松井:そこは、たぶんわたしよりもプロデューサーさんのほうがご存じだとは思いますが(笑)、わたしの中ではいつ台本を読んでも、「すごく優しい子だな」って思いますね。いつもプロデューサーさんのことを気遣っている、気遣い屋さんの印象があります。自分の中で劣等感があるからこそ、人に優しくすることができるのかなって思います。年下のアイドルの子と絡んでいるときはお姉さん根性を発揮していたり、目上の人への敬意も忘れない礼儀正しさも持っていて、わたしから見ると人として完成されてる印象があります。人間的に見習いたいと思わせてくれる素直さがありますね。

松井恵理子

松井恵理子

自分は神谷奈緒に対してプロデューサーではなく、一番近いのはマネージャーさんかも(笑)

――『アイドルマスター シンデレラガールズ』に関わっているキャストの方々は皆さん本当に熱い想いで取り組んでいる印象がありますが、松井さんが他のキャストさんの思いに感激したエピソードってありますか?

松井:ライブの裏側の期間も含めて見ていると、みんな本当に手を抜いていないし、ひとりひとりが自分の演じるアイドルと向き合って、一緒にいいステージを作ろうという意識が、すごく強いチームだと思います。何年か前のライブで、わたしはCDのメンバーではなかったのですが、“ガールズ・イン・ザ・フロンティア”という曲を歌わせていただいたことがあって。そのとき、(佐久間まゆ役の)牧野由依さんも一緒に歌うメンバーにいらっしゃって、牧野さんが「もし時間があるならレッスン一緒にやります?」って声をかけていただいて、一緒にレッスンしたことがあります。ダンスの講師の方に教えてもらいながら、ふたりでめちゃめちゃ踊りまくりました。そのときに、振りのひとつひとつにこだわってレッスンをしたのが印象的で、「青春!」って感じました(笑)。もしかしたら、牧野さんは覚えてないかもしれないですが、わたしにとってはそういうレッスンができたことがとてもプラスな出来事でした。

――これまでいろんなライブに出てきて、「最高のパフォーマンスができたな」と思い出に残っているライブはありますか?

松井:毎回、自分で「いいパフォーマンスができたな」って思えたことは一度もなくて、いつも反省しかしていないです(笑)。でも、その中でもプロデューサーさんたちがペンライトを掲げてくれることによって、自分には足りない部分がいっぱいあるけれども、みんながいてくれるおかげで完成されたステージになったな、と思った思い出はあります。神戸のホール(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 4thLIVE TriCastle Story 神戸ワールド記念ホール公演)で“2nd SIDE”をやらせていただいたときに、プロデューサーさんの真ん中に立って(センターステージ)パフォーマンスをしていて、もともと1色だった光が、七色になっていって、それを見たときに、自分の中でものすごくアドレナリンが出ました。

――今まで参加した楽曲の中で、松井さんが思い入れの強い楽曲とその理由を聞かせてください。ソロでもユニットの曲でも、あるいは全員曲でもOKです。

松井:やっぱり、Triad Primusの楽曲はすごく印象に残っていますね。そもそも、「どうして?」っていうくらい難しくて(笑)。キーも高いし、「このハモり、どこまで行くの?」みたいな(笑)。だからわたし個人はレコーディングも大苦戦から始まりました。“Trancing Pulse”の大サビ前には高音ロングトーンのパートがあるんですが、CDではそこのパートがわたしの担当で、でもライブではふたりか3人で歌っていたんです。でもあるとき、「今回のライブはCD準拠にしたい」みたいなお話になって、「このキメの高音ロングトーン、わたしがやるんだ?」と(笑)。それが不安で、「これって、今までどおり3人で歌うことはできないですかね」って舞台監督さんに相談していたんですが、そのときに北条加蓮役の渕上舞さんに、「ここはすごくカッコいいところだから、松井ちゃんにひとりで歌ってほしい」と言われたんですね。もともと、専門学校でもわたしは渕上さんの後輩だったので、そういう関係値もあって。勝手にひとりで「託された感」を感じて、神谷奈緒ちゃんにも、Triad Primusの仲間にもドロを塗ることはできないと思い、まさに命を賭けて頑張った記憶があります――ちゃんと、無事にできたとは思うんですけど(笑)。

あと、CDでは参加していないですけど、“always”っていう曲があって、ライブでも全員でやらせていただいたときに、歌詞にすごく感銘を受けました。初めて聴いたときに、泣いてしまって。《私を選んでくれて/ありがとう》という歌詞があるんですが、わたし自身も自分がオーディションで役を勝ち取ったというより、神谷奈緒ちゃんに選んでもらった意識がずっとあったので、自分にも通ずるところがあるな、と思って。プロデューサーさんとアイドルの曲とは感じつつ、声優とアイドルの曲でもあるなって思って、自分の中で名曲です。その曲を、神谷奈緒ちゃんというアイドルを通して、ライブでプロデューサーさんに伝えることができたのは嬉しかったです。「出会えてよかったな」って、改めて感じる曲ですね。

――以前、松井さんの個人名義の音楽活動でお話を訊いたときに、「ユーザーのみなさんがいてこそキャラクターが成立するので、私の思いは二の次」って話をしていて、いい言葉だなあ、と思いました。『アイドルマスター シンデレラガールズ』においてユーザー=プロデューサーさんがいてこそ、アイドルたちが輝けるのだと思いますが、松井さんにとってプロデューサーさんとはどういう存在で、彼らの期待に応えるためにどんな自分でいたいと思っていますか。

松井:プロデューサーさんは、わたしの中ではどこまで行っても「神谷奈緒のプロデューサーさん」という印象です。こうして自分が歌って踊ってステージに立たせていただいても、そこに神谷奈緒の存在がいないと成立しないので。自分の立ち位置に何が一番近いのかなって考えたことがあって、自分は神谷奈緒に対してプロデューサーではないなって思うんです。一番近いのって、マネージャーさんかもって(笑)。プロデューサーさんの頑張りや神谷奈緒への思いも知っていて、彼女が輝いていくお手伝いをしたいなって思っている。だとすると、立場的に近いのは、マネージャーさんなんじゃないかなって思います。神谷奈緒ちゃんと、プロデューサーさんの歩んでいく道、目指していく未来を支えていける、そこに華を添えていける自分でありたいって思います。

――ちなみに同じタイミングのインタビューで、松井さんは「1stアルバムが集大成だ」って言ってたんですが――

松井:はい、言ってました(笑)。

――その時点で、「松井恵理子・第1部完」だと。ということは、その後の第2部は今どうなっているのか、どんな進歩を重ねてきたのかを、ぜひ聞きたいです。

松井:「第1部完」までの声優としての自分は、駆け抜けてきた印象がありました。ガムシャラだったし、脇目もふらずに、力が入った感じでした。で、第1部が完結して(笑)、自分の中で「もうちょっと力を抜いてみようかな」って思うようになって。けっこう頭で考えちゃう部分があって、もっとフラットな目線で、素直に物事を受け取れるような、穏やかな自分で演じていきたいし、演技と向き合っていきたいって思うようになったんですね。「わたしの思いは二の次」と言いつつも、実際には我は強かったし、思い自体も強かったので(笑)、もっと柔軟になれたらいいなあ、と思って、今はいろいろ模索中です。

――では、今は2部の最中なんですね。

松井:2部、続いてます(笑)。

――(笑)フラットでいたいというのは、自分にいろんなものを課してしまうからこそなのかな、とも思うんですけど、ある程度気持ちが自由になる、解放できたとすると、神谷奈緒に向き合うときのマインドにもポジティブな影響があったんじゃないですか。

松井:あると思います。神谷奈緒ちゃんは並々ならぬ覚悟を持ってステージに立っているんだと、以前は思っていました。でも、『デレステ(アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ)』のコミュのエピソードで、Triad Primusのお話があったときに、凛はクオリティを追い求めていて、加蓮は他者から見た自分にこだわりを持っている中で、奈緒は楽しさに重きを置いていたんですね。楽しむって、明確なゴールがなくて、言っちゃえば誰でもできるといえばできることですよね。その中で、一番自分が楽しむんだっていうところに、彼女の性格が表れている気がしました。一瞬一瞬を楽しんで臨んでいるからこそ、劣等感があっても前向きになれるし、ヘコむようなことがあっても、バチッと切り替えができるんだなって思って、自分の中でもしっくりきました。

奈緒の2曲目のソロの“Neo_Beautiful_Pain”も、すごく難しい楽曲で、ネガティブといえばネガティブにも取れるけど、ポジティブといえばポジティブにも解釈できる、どっちにも取れるカッコいい曲なんです。最初は、戦地に向かうような覚悟を持って、「命を燃やす!」みたいな感じでライブでもパフォーマンスさせていただいたんですが、奈緒の根底に「楽しみ」があるんだ、と思ってからは、自分の中でガラッと曲の解釈が変わりました。アイドルをやっていく中で、楽しいこともあるし、ヘコむことも苦しいこともあるけど、心に傷を負ったとしても、その傷自体も全部愛しくて楽しいっていう解釈に、自分の中で変わって。それがみなさんに伝わってるかはわからないんですけど、自分の中にどんどん楽曲が染み込んできて、「奈緒はこうやってパフォーマンスするんじゃないか?」という答えが、だんだん出てきている気がしています。

――10周年を迎えた『アイドルマスター シンデレラガールズ』ですが、松井さんにとってこのプロジェクトはどういう存在ですか。

松井:親戚みたいな感じです(笑)。チームとしてすごく完成していて、新しい仲間も増えていくんですけど、親戚の集まりみたいな感じがしています。自分も楽しめているし、やっぱり集まれると楽しいし、とても居心地のいい場所です。

――これまで長い時間を一緒に歩んできた神谷奈緒に、松井さんからかけたい言葉、伝えたいことは?

松井:いろいろあるといえばあるんですが、「すごく大人になったね」って思います。年々人間力が上がっていて、最近ちょっと独り立ちがすごい(笑)。カッコよすぎるし、頼もしすぎるし。これからも頑張ってついていくので、そのまま前を走っていてくださいって思います(笑)。

――並走でもなく、引っ張っているのでもなく、神谷奈緒が前にいて、松井さんが追いかけてる。

松井:そうですね。もう、ずーっとそうです。神谷奈緒ちゃんが前を走っていて、わたしが頑張って追いかけてる図式です。で、プロデューサーさんは横を走ってます(笑)。

――(笑)『アイドルマスター シンデレラガールズ』のキャストさんには、それぞれの解釈があって面白いですよね。横を走っている人もいるし、引っ張っている感覚の人もいるし。

松井:面白いですね。やっぱりアイドルの個性によって関わり方も全然違うし、個が立っているところが『シンデレラガールズ』の魅力であり強みなので、そこはこれからもみんなで大切にしていきたいです。

取材・文=清水大輔