なぜ竈門炭治郎は鬼退治をするようになったのか? 『鬼滅の刃』キャラクターの「オリジン」を考えてみた

マンガ

更新日:2021/11/8

鬼滅の刃
『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴/集英社)

 雑誌『週刊少年ジャンプ』での連載が終了してもなお圧倒的な人気を誇る『鬼滅の刃』(集英社)。映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』では興行収入403億円を突破し日本映画の歴史を塗り替えた。また、今年の10月からはテレビアニメ『鬼滅の刃 無限列車編』が放送開始、そして12月からは遊郭編が放送予定とまだまだ話題の中心となる作品である。

『鬼滅の刃』は主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)や鬼殺隊が鬼と戦う話である。しかし、そもそもなぜ鬼と戦っているのだろうか。その「オリジン」とはなんだろうか。

「オリジン」とは、「起源・生まれ・原因・発端・素性」などを表す英単語である。そこから転じてアメコミではヒーローがなぜヒーローになったのか、もしくはヴィラン(悪役)がなぜヴィランになったのか、などの描写を「オリジン(origin)」と呼んでいる。本記事では、まだ『鬼滅の刃』を読んだことがない人、またテレビアニメに合わせて予習・復習したい人に向けて、遊郭編までに描かれる彼らの「オリジン」を考察したい。

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※本記事は、作品の内容を含みます、ご了承の上、お読みください。

事故的な炭治郎と、血縁の杏寿郎

 炭治郎が鬼殺隊に入り鬼と戦うことになった理由は、鬼に殺された家族の仇討ちと鬼になってしまった妹・禰豆子(ねずこ)を人間に戻すためである。炭治郎には2つの動機があるが、実際のところ鬼への復讐というよりは、鬼となってもまだ生きている禰豆子を人間に戻すためというほうが動機としては強い。家族が襲われてなかったら炭治郎は鬼とは関わりがないところで生きていたかもしれない。

 一方で、ある日突然、事故的に鬼退治に参加した炭治郎と対比されるのが煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)だろう。彼は父親が昔、鬼殺隊の柱(鬼殺隊の中でも最も位の高い剣士たちのこと)であり、家系的なものが影響して鬼殺隊に入っている。そして、幼い頃に母親から「弱き人を助けるために力を使いなさい」と諭されてもいる。

「なぜ自分が人よりも強く生まれたのかわかりますか」…(中略)「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です。責任を持って果たさなければならない使命なのです。決して忘れることなきように」
『鬼滅の刃8巻』より

 杏寿郎が鬼と戦い人々を守る理由は、血縁や母親の言葉である。

 二人の鬼退治をする動機は違えど、共通するところもある。それは、受け継ぐものがあること。杏寿郎は父親から炎の呼吸を受け継ぎ、炭治郎は父親からヒノカミ神楽と呼ばれる舞と耳飾りを受け継いだ。そして、さらに炭治郎は杏寿郎から刀の鍔(つば)と生き様を受け継ぐことになる。炭治郎と杏寿郎の関わりは無限列車編のみと一瞬だったが、その後の炭治郎の生き方に強く影響を及ぼした。

バラエティに富んだそれぞれの「オリジン」

 それでは、ほかの登場人物はいかにして鬼と戦うことになったのか。炭治郎の妹である禰豆子は、鬼に襲われた時に傷口に鬼の血を浴びて鬼となってしまう。そして、鬼でありながら鬼と戦う稀有な存在となる。また、気休めかもしれないが、炭治郎の育手である鱗滝左近次(うろこだき・さんこんじ)は禰豆子が眠っている間に次のように暗示をかけた。

「人間は皆お前の家族だ。人間を守れ鬼は敵だ。人を傷つける鬼を許すな」
『鬼滅の刃2巻』より

 このことも禰豆子が人を襲おうとしないことに影響している。

 炭治郎の、鬼殺隊の同期である我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)の場合は、作中でコメディ的な役割を担うことも多い、善逸らしい理由がきっかけである。

「女に騙されて借金したんだよ 借金を肩代わりしてくれたジジイが“育手”だったの!!」
『鬼滅の刃3巻』より

 しかし、実は原作コミックの後半で、鬼と戦う別の理由が明かされる。

 最後に蟲柱・胡蝶しのぶの継子(つぐこ)と呼ばれる後継者の栗花落カナヲ(つゆり・かなを)が鬼殺隊に入った理由を紹介したい。

 栗花落カナヲは幼い頃、身売りされそうになっていたところをしのぶとその姉であるカナエに引き取られた。一見すると鬼に対する恨みなどはないように思われるが、公式ファンブックには次のように書かれている。

血の繋がった家族がいなくとも、継子仲間や優しくしてくれた隊士たちが鬼に殺されていくことで、カナヲの中に怒りの感情が蓄積されていたと思われます。
『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』より

 感情表現に乏しいカナヲであるが、仲間と過ごした日々の中で鬼と戦う理由を自分なりに見出していたのだろう。

 遊郭編以降では、伊之助や甘露寺蜜璃、宇髄天元など柱たちの過去も明らかになる。テレビアニメでどのように描かれるかはまだわからないが、この機会に原作コミックを読んでみて、作品を深く味わってはいかがだろうか。

文=村治けい