Twitterがきっかけに! 出版社が自発的に始めた、会議も事務局もない本の街ならではのイベント「神保町ブックフリマ」。今年の売れ筋は?
更新日:2021/11/11
秋になると本好きがソワソワしだすイベントがある。本の街・神保町の恒例のお祭り、「神保町ブックフェスティバル」だ。
毎年10月下旬に開催される神保町ブックフェスティバルは、神保町の「すずらん通り」に各出版社がワゴンで軒を連ね、その日だけの特別価格で自社本を販売する。2019年には参加が150社を超え、人気の出版社には長蛇の列ができて、出版不況なる言葉など存在しないかのように本が飛ぶように売れていく景色が見られる(期間中は古書店による「神田古本まつり」も開催していた)。
(取材・文・撮影=すずきたけし)
しかしそんな神保町の秋の風物詩はコロナ禍により、2019年の29回目のブックフェスティバルを最後に2020年と2021年は2年連続で開催中止となってしまった。
神保町の秋の風物詩がなくなった2020年。
2020年に、出版社の白水社が「読書の秋なのに古本まつりもブックフェスティバルもない神保町なんて寂しすぎる…」とツイッターで発信。「神保町ブックフリマ」と題して自社社屋のガレージで本の販売することを告知した。
読書の秋なのに古本まつりもブックフェスティバルもない神保町なんて寂しすぎる…
ということで社屋で勝手にガレージセールをやります!
題して「神保町ブックフリマ」(略すと神保町BF)、10月31日(土)・11月1日(日)開催!#神保町ブックフリマ— 白水社 (@hakusuisha) October 16, 2020
すると神保町周辺にある出版社が続々と「神保町ブックフリマ」への参加を表明。開催日には白水社をはじめ、本の雑誌社、亜紀書房、彩流社、クオン、CHEKCCORI、幻戯書房、誠文堂新光社、青弓社、堀之内出版、共和国、読書人、論創社、文学通信、皓星社、内山書店、SOUND PUBLICATIONと18もの出版社や書店などが出店したイベントとなった。
当日は「神保町ブックフリマ」開催を聞きつけた熱心な本好きが訪れ、コロナ禍によって入店人数の制限や検温、消毒など感染症対策を徹底するなか、中には行列のできる出版社もあった。
2021年も残念ながら神保町ブックフェスティバルと神田古本まつりは中止となった。しかし今年もまた白水社は「神保町ブックフリマ」開催をツイッターで告知。昨年に引き続き参加した出版社や、参加社から声をかけられて共同で新たに参加した出版社も増え、神保町で本のフリーマーケットが2021年も見られることとなった。
10月の30日と31日に行われた神保町ブックフリマの2日目に訪れると(前日は秋晴れだったものの、当日はあいにくの雨)、雨でも多くの本好きが各社を巡り歩き、たくさんの特価本を手に取って嬉しそうに会計に並んでいる景色を見ることができた。
「神保町ブックフリマ」開催の「言い出しっぺ」である白水社の小林圭司さんは、昨年、今年と、告知をツイッター上でしかしていないにもかかわらず、たくさんのお客さんが本を買いに来てくれていると驚いていた。
もともと白水社の軒先でなにか面白いことをやりたいと思っていた小林さん。昨年の「神保町ブックフリマ」のツイートも単なる思いつきだったという。
以前から他の出版社が自社の軒先で本を売るのを見ていた小林さんは、いつか白水社でもやりたいと思っていたが、まさか神保町ブックフェスティバルの中止によって、このブックフリマをやることになるとは思ってなかったという。
しかし開催してみると、訪れた人から「(神保町ブックフェスティバルが)中止で残念だけど、神保町ブックフリマを開催してくれて嬉しい」と声を掛けられ、毎年の神保町ブックフェスティバルを楽しみにしていた人がお客さんの中に多かった。
告知もツイッターだけ、とくに特別なイベントがあるわけでもない、言ってみればまとまりもないブックフリマだが、それでもたくさんの人々が来てくれるのは本の街・神保町の力だと話す。
今年のブックフリマでよく売れている本を聞いてみると、『小説の技巧』や『大学教授のように小説を読む方法』『中世の写本ができるまで』など、“本に関する本”がよく売れていて、なかでも『ブックセラーズ・ダイアリー』は用意した冊数が初日で売り切れてしまうほどの人気だった。
これもまた本に関心がある人々が集まる神保町ならでは売れ方だと小林さんは語る。
雨模様の当日、本の雑誌社は雨のために急遽販売スペースを軒先から自社の事務所内に移動。一般の人々が出版社の事務所に入って本を買うという貴重な体験ができることとなった。来店(社?)したお客さんのなかには「え? 事務所ってここだけですか?」と小さな事務所で本が作られていることに驚きの声を上げていた。
またすずらん通りの冨山房ビルでは堀之内出版や読書人、論創社、勉誠出版、みずき書林(30日のみ)、モノノメ(31日のみ)などが集まり販売。中には作家の青木淳悟氏と太田靖久氏のふたりがODD ZINEとして出店。作家が自著やZINEを販売するなど、神保町ブックフリマに文化祭的なノリも加わったのが印象的だった。
そのほか、人文書やノンフィクションの良書を連発する亜紀書房、中国・アジアの専門書店・内山書店、韓国文学の翻訳本などを手がけるクオン(30日のみ)、確かな本作りで定評の幻戯書房(31日は雨のため中止)、食生活を中心とした出版社の食べもの通信社(30日のみ)、オンラインで参加の七月社など、2日間で昨年を超える23社が参加した。
これらの参加出版社の販売ブースの場所は「神保町ブックフリマ応援サイト」というボランティアが作成したwebガイドで見ることができる。
来秋に神保町ブックフェスティバルが無事に開催され、神保町ブックフリマが開催しなくなるのはもったいない。もはや代替のイベントとして終わるのではなく、来年は時期を変え、独立して開催してほしいと思うほど神保町ブックフリマは面白いイベントなのだ。
取材日:2021年10月31日
取材協力:白水社、本の雑誌社ほか、神保町ブックフリマ参加社のみなさん