支えてくれる存在がいるから、輝ける。いつもと違う視点で覗いてみる魔法の世界『ミッキーマウスの憂鬱ふたたび』/佐藤日向の#砂糖図書館㉚

アニメ

更新日:2021/11/13

佐藤日向

 たくさんのお客様が足を運んでくださる劇場やライブ会場。そこから見える景色は特別で、「もう一度この景色を見たい」という一心で、キャスト側の私はまた頑張れる。

 しかし、どんな舞台やライブも公演を行うためには緻密なリハーサルが必要になる。これは魔法を魅せるのに必要不可欠な過程である。

 今回紹介するのは、松岡圭祐さんの『ミッキーマウスの憂鬱ふたたび』という作品だ。本作は高校卒業と同時に東京ディズニーランドでカストーディアルキャスト(掃除スタッフ)として働いている少女の物語。ゲストとして訪れる東京ディズニーリゾートは夢と魔法が詰まっていて、一歩足を踏み入れれば、冒険とイマジネーションの世界が広がっている。そして帰る頃にはまたここに来るために頑張ろうという気持ちにさせてくれる、それがディズニーのマジックだ。

 しかし『ミッキーマウスの憂鬱ふたたび』というタイトルの通り、本作ではディズニーランドでの”憂鬱”な出来事をキャスト(スタッフ)側から描いている。タイトルに惹かれて、前作『ミッキーマウスの憂鬱』を未読のまま本書を手に取ったのだが、現実的な面を終始読者に見せつつも、最後のたった1行でディズニー特有の魔法の世界へと私を導いてくれた。

 元々新潟に住んでいた私は、月に数回事務所のレッスンで東京を訪れていたため、幼い頃は東京ディズニーリゾートの年間パスポートを購入して「芝居のレッスンを頑張ったらディズニーに行くんだ」と、自分の原動力にしていた。当時からディズニーが生み出す魔法の虜だったこともあり、本書によって明かされる、キャストは半分ゲストとして扱われ、彼らですらバックヤードは見せないディズニーのプロフェッショナルな姿勢に、圧倒された。だからこそ、今でも彼らが生み出す魔法に魅入ってしまうのだろう。

 これは、私たち演者にも同じことが言えると思う。演出家の方によって生み出された不思議な舞台セットがどんな動きをするのか、どんな舞台機構が使われるのか、裏の姿は暗転などを利用してお客さんに悟られずに演じ、芝居の世界へ引き込めたら大成功、と言えるだろう。

 そして私たちは、リハーサルや稽古をしている姿をあまり表には出さない。堂々とした姿勢で創り上げたものを披露することがプロだ、と私は認識している。それはきっと東京ディズニーリゾートのようなものだと思う。東京ディズニーリゾートで一日遊ぶのとほぼ同じ価格のチケットを、2時間から3時間の演目やライブを見るために購入してくださるお客様が帰るときに、「また、ここに来たい。会いにきたい。」と思ってもらうために座組、出演者一同が前に向かって走っている。そして本作に登場するカストーディアルキャストは、照明さんや音声さん、衣装さんやメイクさん、私たち演者を全力でバックアップしてくださる方々のようだった。

 今、私が舞台の上で積み上げてきたものを全力で披露できるのは、支えてくださる方がいるからだ。そして会場に足を運んでくださる方々が居続けてくれるからだ。私はこれからもテーマパークのようなトキメキをどんな形でも届けられるよう諦めたくない、そう思わせてくれる作品だった。

 本作の最後の1行をどうとらえるかはきっと、読者次第で変わるのだと思う。是非本作を通してディズニーランドをゲストではなくキャスト側から覗いてみてほしい。

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。