『失恋カルタ』のサンプルを作りました/月夜に踊り小銭を落として排水溝に手を伸ばす怪人②

文芸・カルチャー

公開日:2021/11/19

 周囲になじめない、気がつけば中心でなく端っこにいる……。そんな“陽のあたらない”場所にしか居られない人たちを又吉直樹が照らし出す。名著『東京百景』以来、8年ぶりとなるエッセイ連載がスタート!

 好きな人と別れたときは、友達に泣きついたり、浴びるほど酒を飲んだり、貪るように肉を食べたり、カラオケで熱唱したりするのでしょうか。

 部屋の灯りを消して一人で静かに時間が過ぎるのを待つ人もいるでしょう。いずれにせよ誰かと一緒に過ごした日々を簡単に忘れることはできません。

 そういうときには、『失恋カルタ』で遊んでください。

 失恋を遊ぶことによって、明日から楽しくなるように。

 そんな、『失恋カルタ』のサンプルを作りました。

『悲恋歌留多』という名前でも良いかなと思いましたが、文字面が近松門左衛門作の浄瑠璃みたいになってしまうので、やっぱり『失恋カルタ』にします。

取り札の絵は考えていませんが、抽象的なものが良いかもしれません。とりあえず、失恋にまつわる「あ」~「ん」までの読み札を考えてみました。

❝失恋カルタ❞

[あ]、「雨降ってても楽しかった頃が懐かしい」

[い]、「言ってくれたら直せたよ、それくらいのことなら」

[う]、「ウサイン・ボルトみたいな速さで終わっちゃったね」

[え]、「笑顔が腹立つなら修復は不可能だよ」

[お]、「終わったということでよろしいですか?返事ないけど……」

[か]、「帰って来ない人を待つの、疲れるんだよ」

[き]、「きつねうどんの食べ方が嫌でした」

[く]、「苦しい顔するの、得意だよね」

[け]、「携帯見なかったらよかったのかな」

[こ]、「こんなことになるなら知り合わさないでよ」

[さ]、「『察しろ』って、こっちはエスパーじゃないんだから」

[し]、「仕事のせいにして別れるのが特技ですか?」

[す]、「寿司屋で最初にアナゴを食べる自由なところは好きでした」

[せ]、「成長したんじゃなくて、あきらめただけだよ」

[そ]、「そっかそっか、もうわかったよ」

[た]、「たまには想い出したりするのかな」

[ち]、「痴話げんかの終わらせ方も知らなかったね」

[つ]、「Twitterなんてやってたんだ」

[て]、「手紙読んだ?えっ、読んでないんだ」

[と]、「とっくにわかってはいたんだけどね」

[な]、「なんとなく続いていくって期待もあったし」

[に]、「苦手な人いたよ、あなたの友達で……」

[ぬ]、「ぬいぐるみ投げたことだけ謝って」

[ね]、「ねぇ、最後の言葉それで大丈夫?」

[の]、「飲んで本音言ったら全部終わった」

[は]、「ハンカチ持って来たし、今夜話そう」

[ひ]、「秘密が多い人だよね」

[ふ]、「不満言うときの口がタコみたいでしたよ」

[へ]、「平穏って概念が無いんでしょ?」

[ほ]、「報復は幸せになることらしい」

[ま]、「『また、いつか』というウソ」

[み]、「『みんな言ってるよ』と、あなたが言ったから終了」

[む]、「難しい話にしないでよ」

[め]、「面倒と思われるのが怖かった」

[も]、「もう行かないのか、あの店には」

[や]、「やっぱり、って友達に言われるのが悔しいよ」

[ゆ]、「夕暮れはしばらく見れそうにない」

[よ]、「ようやく大盛り食べられるまで復活したけど」

[ら]、「ラストチャンスも貰えないんだ」

[り]、「リンゴ剥けないのにどうするの?」

[る]、「ルール作るの好きだけど守らなかったよね」

[れ]、「連絡しないでね、本当に、本当に」

[ろ]、「ローソンの看板見ても思い出してしまう」

[わ]、「わたしゃ音楽家 山の小りす~、って他の誰かの前でも酔って唄うの?」

[を]、「『を』って字くらい日常から消したい」

[ん]、「ん~、まぁ好きだったね」

(ここで掲載する原稿は、又吉直樹オフィシャルコミュニティ『月と散文』から抜粋したものです)

<次回は12月の満月の日、19日の公開予定です>

又吉直樹(またよしなおき)/1980年生まれ。高校卒業後に上京し、吉本興業の養成所・NSCに入学。2003年に綾部祐二とピースを結成。15年に初小説作品『火花』で第153回芥川賞を受賞。17年に『劇場』、19年に『人間』を発表する。そのほか、エッセイ集『東京百景』、自由律俳句集『蕎麦湯が来ない』(せきしろとの共著)などがある。20年6月にYouTubeチャンネル『渦』を開設