漫画家になりたい人必読! 1000人の学生を教えてきた、さそうあきら氏の物語創作術!
更新日:2021/11/16
紙とペン、もしくはパソコンやスマホ1つあれば、あとは自分の想像次第でいつでも始められる「物語創作」。もちろんプロを目指すのであればやることは山積みだが、とりあえず始めるという意味では、自分の知識や経験が活かせるうえ長く楽しめる割にコストもかからず、場所も人数も問わない。つまり始めるにあたってのハードルが低い。そのため「やってみようかな」と思ったことのある人も多いはず。
しかしいざ始めてみるとその奥行きは無限大で、なかなか思った通りに進まないのもまた事実。そこを試行錯誤するのも楽しみの1つだが、物語を作るための知識や技術があれば回避できる苦しみもある。今はTwitterなどのSNSや「小説家になろう」「カクヨム」「pixiv」のような作品を投稿できるサイトも充実しているので、書いていくうちに「どうせなら」とどこかに公開して書籍化を目指してみたくなるかもしれない。
『マンガ脚本概論 漫画家を志すすべての人へ』(さそうあきら/双葉社)は、そんな「何か作品を生み出したい」と考える人のための指南書。著者のさそうあきら氏は、ちばてつや賞大賞や文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞など数々の受賞歴を持つ漫画家で、京都精華大学マンガ学部の専任教員としても活動していた。タイトルにあるように、本書は本来漫画を描く際の脚本作りのための本だが、それだけでなく小説など幅広い領域での創作に活かせる技術が多数紹介されている。
まずは「マンダラート」を活用してアイデア出し!
さそう氏によると、読者が作品を「面白い」と感じるのは、「新しさ」と「共感」を感じた時らしい。しかし「何か書きたい」と思った時にそういった要素のあるアイデアがパッと浮かべばいいが、実際はそんなにうまくはいかない。
そこでオススメの方法として挙げられているのが、「マンダラート」を活用しての1人ブレスト。9つのマス目の中心にテーマを書き、まわりの8つを埋めていくという手法だ。これでひたすらアイデアを出し、締め切りを設けてとにかく書き始める。そうして作品を重ねていくことが大事なんだとか。本書に書かれていた「アイデアにBESTはない BETTERしかないのです」という言葉は目から鱗だった。たしかに……!
作品の要となる「テーマ」って? その決め方は?
作品作りをしていくうえで欠かせない要素の1つに、「テーマ」を決めるというのがある。このテーマをいつどうやって決めるかは作家によって違うようだが、さそう氏は「早いうちから台詞にテーマをはっきり示すことを好む」そうだ。テーマは全ての場面設計に一貫性を持たせてくれる大事なもので、物語全体に反響し続ける。筆者も趣味で創作をすることがあるが、テーマを決めず好みの展開だけ考えて書きだすと大抵続かず頓挫する、ということに気づいた。
そしてテーマとは、「宇宙とは」「世界とは」「人間とは」「私とは」といった根本的な問題に繋がるものではないか、と書かれている。「戦争反対」はテーマにならず、「人間はどうして戦争をするのだろう」ならばテーマになる、といった具合だ。こうした根本的なものだからこそ、作品全体を統括してくれるのだろう。
紹介した「アイデア」や「テーマ」以外にも、「ストーリーモデル」や「問題提起」「二つの起承転結」など、脚本を作るうえで知っておきたい情報や考え方が漫画やイラストと一緒に分かりやすく説明されている。詳細はぜひ本書を見てほしいが、長く愛されている児童書『はじめてのおつかい』(筒井頼子:著、林明子:イラスト/福音館書店)がこんなにも作品作りのお手本として参考になるとは知らなかった。
これから創作を始めてみたい人、なかなか思うように創作が進まない人は、一度この『マンガ脚本概論 漫画家を志すすべての人へ』を読んで始めることを強くオススメする。筆者も本書で学んだことを活かしつつ、改めて「設計」を考えて物語を書いてみたくなった。
文=月乃雫