なぜ「選択的夫婦別姓」は実現しない? 妻の姓を選んだ、サイボウズ青野社長による夫婦別姓の入門書!

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公開日:2021/11/19

「選択的」夫婦別姓 IT経営者が裁判を起こし、考えたこと
『「選択的」夫婦別姓 IT経営者が裁判を起こし、考えたこと』(青野慶久/ポプラ社)

 先の衆院選と同時に行われた国民審査では「最高裁裁判官をやめさせるべき」とする罷免票が4人の裁判官に多く集まった。いずれも「夫婦別姓は憲法違反ではない」とした裁判官であり、その傾向は都市部ほど強かったという。メディアの報道によれば「背景には選択的夫婦別姓の導入を求める市民団体がSNSで罷免を呼びかけたこと」などが背景にあるというが、それだけこの問題に注目している人が多い証拠だろう。

 中にはこれを機に選択的夫婦別姓に関心を持ったという方もいるかもしれない。そんな方はまず「選択的夫婦別姓とはどういうことなのか」きちんと内容を理解しておくと、言葉が一人歩きすることなく、なぜ多くの人が求めるのかが理解できるようになるだろう。IT企業「サイボウズ」の社長・青野慶久さんによる『「選択的」夫婦別姓 IT経営者が裁判を起こし、考えたこと』(ポプラ社)は、最新情報もわかる入門書として最適な一冊だ。

 実は著者の青野さんの本名は「西端慶久」さんだ。20年ほど前の結婚と同時にパートナーの姓に変更したためで(ちなみに3人いるお子さんも西端姓)、「青野」(旧姓)は通称だ。日本では日本人同士の結婚では強制的にどちらかの姓を選ばなければならず、実は改姓した方は精神的な問題だけではないリアルな不便をさまざまに背負わされている(キャリアが断絶、銀行や証券などの名義変更は煩雑、通称は海外では理解されにくい…などなど)。結婚したら男性の姓を名乗るカップルが96%もいるという日本では、旧姓の通称使用は働く女性にありがちなケースだったが(実は筆者もそうだ)、男性かつ話題の企業の代表である青野さんが「当事者」として声をあげたことで社会の注目が集まった。実際、そうした問題を避けるために「事実婚」を選ぶカップルもおり、社会の多様性が重視される中で「これっておかしいのでは!?」と考える人が増えるのも当然だろう。発信力のある青野さんは「夫婦別姓は憲法違反ではないか」と原告として国を相手に訴訟も起こしている。

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 そこで目指されているのが「希望者は別姓も可にする」という「選択的」な夫婦別姓だ。本書によればそんなに面倒な手続きが必要になる話ではないというが、それでもなかなか実現せず、青野さんの訴訟も2021年6月に最高裁で上告棄却となってしまった。また青野さんのもとには「子どもがかわいそう」「家族の絆がこわれるのでは?」といった反応も多く寄せられるといい、まだまだ社会の理解が足りていないのが現状なのだ。本書はそんな状況を少しでも変えようと編まれた一冊であり、「選択的夫婦別姓」についての基礎知識、さらにはさまざまな疑問やウワサの真偽にも答えていくというもの。「いざ当事者になったことでわかった」という青野さん自身の視点&活動がベースにあるので、まるで知識のない人にもわかりやすく構成されているのもいい。

 実は冒頭の国民審査の件もそうだが、経済界も多くが賛同するなど、最近は選択的夫婦別姓への賛成はすでに多数派で、その実現はそう遠くないともいわれている。とはいえ根強い反対意見があるのも事実であり、まずは現実を「知ること」が必要だ。これまであまり意識してこなかったという方も、本書がよいきっかけになることだろう。

文=荒井理恵