『孤独のグルメ』の谷口ジロー本格選集が“雑誌サイズ”で登場! 気になる内容とは?

マンガ

公開日:2021/11/17

谷口ジローコレクション「坊っちゃん」の時代』(双葉社)

 東京・世田谷文学館で「描くひと 谷口ジロー展」(2022年2月27日迄)が開催されている。この展覧会に合わせ、双葉社と小学館が合同出版というかたちで谷口ジロー選集を刊行する。双葉社から5冊、小学館から5冊の計10作品が、毎月2冊ずつ5カ月間にわたって発売されるという一風変わった試みだ。その第1回配本として、『谷口ジローコレクション「坊っちゃん」の時代』(双葉社)と『谷口ジローコレクション 父の暦』(小学館)が同時発売された。

 テレビドラマ化された『孤独のグルメ』(原作:久住昌之)や『歩くひと』がきっかけで谷口ジロー作品を手に取ったという人も少なくないだろう。日本ではドラマの知名度が先行している感もあるが、むしろ谷口ジローはヨーロッパで絶大な知名度を誇っている。

 1995年に『歩くひと』がフランスで発売されて以来、谷口ジローはヨーロッパで注目を集め、フランス語版『遥かな町へ』は100万部を超え、舞台化・映画化までされた。日本のマンガ文化の成熟を象徴する作家として高く評価され、フランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章し、ルーヴル美術館からオリジナル作品を委嘱されるほど。

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 このたび発売される選集は、そんな谷口ジローの世界的評価にふさわしい本の仕様となっている。判型は雑誌と同じB5判で、装丁は画集のようなハードカバー。紙質や印刷にもこだわり、まさに永久保存版といった豪華本だ。値段は3000円とちょっとお高く感じるかもしれないが、同じ作品でも大きな本で見ると、こうも違うものか! と感動するはず。

 谷口ジローの緻密な作画と卓越したマンガ技法を画集のように眺めることもできるし、これだけ絵が大きいと作品世界への没入感も違う。谷口ジローのように微妙な表情で感情を表し、細部まで描きこんだ背景によって世界観を創りあげる作家は、この選集の大きさがジャストサイズだと実感。物として手元に置いておき、時折、眺めたくなる本なのだ。

谷口ジローコレクション 「坊っちゃん」の時代』は、1987年から双葉社の『漫画アクション』に連載された作品だが、30年以上前の作品とは思えない先進的なマンガ技法に谷口ジローの偉大さを再認識。谷口ジローはバンド・デシネ(西洋のマンガ)に強く影響を受けたことで知られるが、写実的かつ立体的な絵による作品展開は、映画さながらに世界観にいざなってくれる。それが夏目漱石の生きた明治が舞台なのだから、なおのこと新鮮だ。

 明治というと、ゆったりした時が流れる抒情的な時代をイメージしがちだが、実際は激動の時代であった。昔ながらの日本的な価値観と西洋を真似て近代化しようとする価値観の狭間で、知識人が近代的自我の芽生えに葛藤した時代である。ロンドン留学時代に神経症を患い帰国した漱石にとって、西洋的な価値観はむしろ嫌悪の対象であり、それに抗するように粋のいい江戸っ子を主人公として構想されたのが『坊っちゃん』だった。

 今でこそ文豪と評される漱石だが、当時、一知識人にすぎなかった彼にとって、小説を書くことは逃避であり救いだった。そんな等身大の漱石の姿が描かれ、激動の時代の息吹がいきいきと伝わってくる。これを機にぜひ谷口ジローの世界観を堪能してほしい。

文=大寺明