関わりすぎ、気にしすぎで疲れてない? 人生をラクにする「放っておく力」の身につけ方
公開日:2021/11/20
テレワークが浸透して働き方が変わり、親しい人とは気軽に会いにくく、人との物理的・心理的距離のとり方が難しい時代だ。ネット記事やSNSに一喜一憂するなど、情報と適度に関わることができずにぐったりしている人も多いのではないだろうか。そんな「いろいろなもの・人との関わり」に疲れている人に読んでほしいのが、この『仕事も人間関係もうまくいく放っておく力――もっと「ドライ」でいい、99の理由』(枡野俊明/三笠書房)だ。
住職で庭園デザイナーである著者の枡野俊明氏は、これまでも禅の教えをベースに悩み多き人生を生き抜くための心の持ち方を伝えてきた人物。本書のテーマは「放っておくこと」。著者はまえがきで、人間関係に振り回されない人や仕事に前向きに取り組める人は、自分にとって大切なものと放っておくべきものを見極めて行動・判断ができる「放っておく力」がある人だと指摘する。本書では、読者がそんな力を身につけて快適に生きるための99のヒントを「人間関係」「不安・焦り・怒りの手放し方」「心をすり減らさない方法」「自分で自分を苦しめない方法」の4つのパートで伝えている。
たとえば人間関係について印象的なのは、「『半分』わかってもらえれば上等」「家族といえども『違う人間』」といったヒントだ。著者は今、人々が「自分のことを全部わかってほしい」と願う傾向が広がっていると指摘。SNSで自分の行動を細かく発信することや、LINEで逐一報告し合うことも、そんな願望を象徴しているという。しかし著者は、自分のことをすべて理解してくれる人はいないと語る。それは家族も同様で、100%理解し合おうとするから不和が生じる。相手の顔色をうかがって、相手に気に入られるよう振る舞う人は信頼されにくいから「いちいち顔色をうかがわない」べき、という指摘も心に響いた。
また、本書全体を通して、いかに私たちが「自分ではどうにもならないこと」に心をすり減らしているのか気付く。たとえば、理解不能な行動をする人に対して、いつまでもイライラすること。いくら考えてもわからない未来のことを心配し続けること。過ぎたことをいつまでも後悔すること(著者は、将来への不安も過去への後悔も実体のない思い=妄想だと表現している)。何の役にも立たないこれらの感情に縛られる不毛さを改めて知るだけでも、意識が変わるかもしれない。
考え方だけでなく、行動の変化によって、放っておく力を養う方法も紹介されている。たとえば、心身が疲労し闇に覆われる夜は自制心が失われるため、「夜の決断は放棄する」べきということ。人生や人の価値を正確に測るものさしはないことから、「『平均』を調べない」こと。自分にとって必要ない情報や不安をかきたてる情報から身を守るため、意識的に「情報の入り口を時々ふさぐ」こと。意見が増えるあまりに決断ができなくなることを避けるため、ある段階から関係者を限定すべきだという「もっと選択肢を絞る」というヒントなど、ビジネスで役立つ手放し方も紹介されている。
うまくいかなかったときは「ご縁がなかった」ととらえる、無心にやるだけのことをやったらあとは放っておくという「人事を尽くし、天命に従う」考え方など、仕事に私生活に何かと追われている私たちが「そうだよね」と共感しつつ、ほっとできる言葉も溢れている。99のヒントは全部、1つの見開き内で簡潔な言葉でまとめられているので、気になったところを読むだけでも頭のモヤモヤが晴れそうだ。一方で、どんなにお金を稼いでもあの世にはビタ一文持っていくことはできないという「人は『本来無一物』」など、ドキッとしてしまう言葉もある。自分を苦しめていたこだわりや習慣を見直す機会と、スッキリした思考に至るきっかけを与えてくれる一冊だ。
文=川辺美希