大切な人を失ってもひとりじゃない。愛するものの喪失と再生を描く彩瀬まる最新作『新しい星』

文芸・カルチャー

公開日:2021/11/20

新しい星
『新しい星』(彩瀬まる/文藝春秋)

 大人になればなるほど、大切な人との別れが増え、このまま歳を重ねていくことが無性に怖くてたまらなくなる。生きることは失うことなのだろうか。「さよならだけが人生」なのだろうか。いや、そうではないはずだ。かけがえのないものを失ったとしても、きっと私たちは何かを得たはず。その出会いは、その記憶は永遠であるはずだ。

 思い通りにならない日々に頭を抱える全ての人に読んでほしいのが『新しい星』(文藝春秋)。直木賞候補作、高校生直木賞受賞作『くちなし』で知られる彩瀬まるさんが描く喪失と再生の物語だ。

 幸せな恋愛、結婚をし、これからも幸せな出産、子育てが続くと信じていたのに、生まれたての我が子を失い、夫と離婚することになった森崎青子。5歳の娘をもちながらも、乳がんを患うことになってしまった大原茅乃。新卒で入社した会社で体を壊し、実家の部屋から出られなくなってしまった安堂玄也。コロナ禍をきっかけに、妻と2人の子どもと別居することになってしまった花田卓馬…。かつて同じ大学の合気道部に所属していた4人組は、今は31歳。茅乃の病気をきっかけに再び交流をもつようになる。

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 4人の生活は上手くいかないことばかりだ。そんな彼らの姿に、同じ経験はなくとも、強く共感してしまうのは何故だろう。幸せになりたかっただけなのに、なれると信じていたのに、どうしてこうも人生は上手くいかないのか。一度転んでしまうと、どう起き上がっていいのかわからない。彼らの苦しみは、誰にだって多かれ少なかれ身に覚えがあるに違いない。

 そして、そんな日々を抜け出すヒントとなるのが4人の交流だ。それぞれが抱えた問題を、理不尽を、不安を、4人は少しずつ分け合っていく。確かに学生の頃は部内で起こる問題を共有し、対策を話し合っていた。だが、今はあの頃とは違うはず。そう思っていても、人に悩みを共有していくうちに、彼らは新しい視点に気付かされていく。

 特に、青子と茅乃の女同士の友情には胸打たれた。子どもを失った青子は、その気持ちを理解してくれない母親との関係、職場での理不尽、「普通」からはみ出した者への無理解に悩まされていた。そして、茅乃は乳がんになったことの不安を家族には吐露できずにいた。2人はお互いが求めていた言葉をそっと与え合う。そんな関係をつむぐ彼女らの姿がとにかく眩しいのだ。

星から放たれた光が地球に届くには時間がかかる。自分たちが見ているのは過去に発された光であり、目に映る星がすべて、この瞬間に存在しているとは限らないのだ。友人はいる。消えてもまだ、光を届けてくれている。そこにある星も、ない星も、光っているという意味では変わらない。(『新しい星』「ぼくの銀河」より)

 大切な人を、大切なものを失ったとしても、一人になるわけじゃない。この作品を読むと自然とそう思えてくる。そう信じられてしまう。

 明日が不安で震えている人にこそ、この物語を届けたい。美しく、静謐なこの物語は、あなたの心をそっと包み込むに違いないだろう。

文=アサトーミナミ