ミステリ好きは注目! 「メフィストリーダーズクラブ」の限定イベント「綾辻行人×辻村深月」トークイベントレポ

文芸・カルチャー

公開日:2021/12/3

メフィストVol.1

京極夏彦、森博嗣、舞城王太郎に西尾維新……唯一無二の才能を多数輩出してきた雑誌『メフィスト』(講談社)。2020年10月から休刊していた同誌が、オンライン上の読書クラブ「Mephisto Readers Club〈メフィストリーダーズクラブ/MRC〉」の会員にお届けする会報誌へとリニューアル! これを記念し、10月に会員限定オンラインイベントが開催。『メフィスト』創刊時から執筆陣に名を連ねていた綾辻行人さんと、メフィスト賞出身の辻村深月さんの対談が行われた。

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辻村「リニューアルの話を聞いたときは、爆笑しました。愛が強すぎて」

進行もつとめる綾辻さんからまず「MRC立ち上げと、会報誌になると聞いたときはどう思いましたか?」と問われ、「爆笑したんですよね」と答えた辻村さん。

辻村「編集部の人たちの愛がすごいなと思って(笑)。たぶん、今の編集部員の方々って、ご自身が『メフィスト』を読んできた世代なんですよね。自分たちの愛してきた『メフィスト』を、同じように愛している仲間に届けたいっていう目線で出てきた発想なんだろうな、と。愛のすごさに爆笑したのち、心強いなって思いました。私はメフィスト賞出身ですが、そもそも発売日にあわせて書店に行くほどのファンでしたから、リニューアル後の初イベントにこうして呼んでいただけるのが嬉しいですし、自分が本当に作家になったんだなって改めて思いました」

これには綾辻さんも思わず「とっくに立派な作家なのに、何を言ってるの」とツッコミ。続いて綾辻さんは、自身を「『メフィスト』を誕生当時から知っている証人」としたうえで、『小説現代』の臨時増刊だった『メフィスト』の前身に触れつつ、同誌の成り立ちについて語った。

綾辻「(『臨時増刊小説現代 ミステリー&伝奇特集号』を見せながら)1990年の秋に出た号ですが、表紙のここに“「犯人当て」傑作短篇集 京大ミステリ研究会”ってあるでしょう。これは、のちに『メフィスト』を創刊する編集者の宇山(日出臣)さんが、『十角館の殺人』を皮切りに法月綸太郎さんの『密閉教室』、我孫子武丸さんの『8の殺人』と本を作っていくうち、僕たちが所属していた京大ミス研に注目したんですね。さらなる人材はいないか、と。そこからの流れで、こういう企画が実現したわけです。僕が全体の序文を書いて、法月さんが各作品に解題を添えています。この小特集の最初の1編が『シベリア特急西へ』で、作者は堀井良彦とあります。これはね、麻耶雄嵩なんですよ、デビュー前の」

はじめて見る現物に、辻村さんも興奮の声をあげつつ、話題は第1回が掲載されていた竹本健治『ウロボロスの基礎論』へ。実在のミステリー作家が登場する同シリーズに登場するのが大学時代の夢だった、という辻村さんは、話の端々にミステリーと『メフィスト』への強い愛を覗かせた。ちなみに『メフィスト』のタイトルは、小野不由美さんのティーンズハート時代の作品『メフィストとワルツ!』から由来していることも明かされた。

綾辻行人

辻村深月

綾辻「京極さんの登場とメフィスト賞の誕生によって、
僕のデビューをきっかけに始まった新本格ムーブメントに薪がくべられた」

続いて、話題はメフィスト出身の作家に。

綾辻「94年に誌名が『メフィスト』になった、ちょうどそのタイミングで『姑獲鳥の夏』の原稿が送られてきたんですよね。京極(夏彦)さんは、なんとなく送ったらしい。竹本健治さんの講談社ノベルス版『匣の中の失楽』の奥付を見て、この編集部に送っちゃえと。これで宇山さんは、才能は京大ミス研だけにいるわけじゃないんだから、誌上で広く原稿の募集をしよう、と決意した。そして、96年。『第3回原稿募集座談会』で、森博嗣さんの『すべてがFになる』の第1回メフィスト賞受賞が決まったんですね」

辻村「私はそのとき、高校生だったんですよ。綾辻さんや京大ミス研の方々の本は書籍になったものを読んでいたんですが、京極さんと森さんはデビューに立ち会った、という思いが強く、読者としてものすごく興奮と高揚感があったんですよね。自分は今、なにかすごい瞬間に立ち会っているぞ、という臨場感がありました。その後もリアルタイムで新刊を追いかけて読めたことはすごく幸せだったんですよね」

綾辻「僕のデビューをきっかけに、新本格ムーブメントが起きたというふうに言われていますが、京極さんの登場とメフィスト賞の創設によってその流れに薪がくべられた感じがありましたね。一方で、京極さんの登場によって新本格は終わった、とも言われたんだけれど、今でもまだ新本格という言葉は生きてるし……あそこで第二フェーズに入った、と見るのが妥当なんじゃないかな、と思う」

辻村「『姑獲鳥の夏』には綾辻さんが帯を書いていらしたのが印象的で、私も書店でこれは読まなければならない、という気持ちにさせられました。『すべてがFになる』は、高校の修学旅行のバスのなかで読んだんですよ。絶対名古屋大学に行きたい、理系に行きたいって思いました(笑)。でも当時、作家になりたいという気持ちとともに、高校生として進路を考えたときに、どっちかをとるとどっちかを諦めなきゃいけないって思ってたんですよね。そういうときに、森さんの小説を読むことができた経験は、すごく大きかった。今も悩める高校生がいるとしたら、修学旅行のバスの中で森博嗣さんの作品を読んでいてほしいなって思います。あと、その二人の登場したメフィスト賞からデビューしたい、綾辻さんの『十角館の殺人』と同じ講談社ノベルスから本を出したい気持ちがあったので、それが叶ったのも私にとって、とても幸せなことでした」

ペンネームの「辻」は綾辻さんの「辻」から、「深月」は綾辻作品の登場人物の名前からとったという辻村さん。学生時代には、出したファンレターに綾辻さんから返信があり、交流があったことも明かしたが、実は小説を書いていることは言えずにいたのだという。

だが、意外なところから辻村さんの小説が綾辻さんにわたることとなった。辻村さんの応募作にしてのちのデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』を、編集者の唐木厚氏が読んだのは、京都の綾辻さんを訪ねる新幹線のなか。「たぶん次のメフィスト賞はこの原稿がとると思う」と綾辻さんに告げ、話をしていくなかで綾辻さんは「たぶん知っている子だと思う」と答えたという。

かくして、綾辻さんが辻村さんに受賞連絡をすることとなったのである。実家に綾辻さんから電話がかかってきたことに仰天したが辻村さんに、綾辻さんは「これから長い作家人生のなかで、自分のデビューのときに綾辻行人から電話がかかってきたというのも、いい思い出になるんじゃないですか」と告げた。「この先も作家でい続けられるかなんてまだわからない段階で、あえてそう言ってくださったんだろうなと思うと、いま応えられるようになってきてよかったなと思います。一生で一番嬉しかった出来事です」と辻村さんは想いを語った。

リニューアル第1弾には『ぼくのメジャースプーン』続編が掲載!
今後は「館シリーズ」の新作が読める可能性も……!?

そして新生『メフィスト』、メフィストリーダーズクラブについて聞いたとき、綾辻さんは「アリだな」と思ったという。

綾辻「単に小説を読むだけなら、今はネット上に無料コンテンツがいくらでもあります。従来の小説誌を電子化して有料コンテンツとして維持していくのは、なかなか難しい状況でしょう。そんななかでの試みとして、今回のリニューアルはアリだなと。会員登録した人たちに紙の雑誌が直接届いて、会員だけが新作を先に読める。加えて、今回の対談のようにイベント参加などの特典を豊富にして、みんなで盛り上げていこう、というわけですね。おもしろい取り組みなんじゃないかなと思いました」

辻村「すごく新しい試みだし、初めてのことだと思うんですよ。より愛が深い、必要としている人のところに行き届く。しかも紙媒体でもう一度ってところに、やっぱり愛を感じるんですよね」

綾辻「コロナ禍が続くなかで、こうしてオンラインでイベントを開くことが日常的になりました。将来的にはオフラインイベントも行われるようになるだろうし、なってほしいんだけれど、それとは別にオンラインで世界のどこからでも読者が参加できる、というのは良いですね。いろいろとおもしろい可能性のある枠組みだと思います」

ちなみにオンライン対談は、綾辻さんは京都の自宅、辻村さんは講談社から配信。一足先にグッズの実物を見ることができた辻村さんは「トートバッグもマグカップも、素晴らしくかわいい!」と大興奮。

辻村「ふつうに生活している中でも欲しくなるセンスのあるデザインで、ミステリファンなら嬉しいモチーフもいっぱいで、感動しました。私も、オリジナルグッズをつくっていただくことになっていて。講談社ノベルスで挿絵を描いてくださった佐伯佳美さんのイラストを使ったカレンダーはいかがですか、って一案としていただいたんですけど、それも私、著者本人としても自分がまず欲しいし、読者の方も喜んでくれるかもしれないなって楽しみにしています」

綾辻「僕のは、十角館をモチーフにした十角形のマグカップ。けっこう重厚な感じになりそうですね。受注生産だと聞いています」

 会員限定小説誌第一号には、辻村さんの新作『罪と罰のコンパス』が掲載される。これは、『ぼくのメジャースプーン』の続編。そのほか、森博嗣さんによる新作長編や、島田荘司さん、西尾維新さん、五十嵐律人さんの新作も掲載される。綾辻さんはこれから、とのことだが、対談のなかでは「『館』シリーズの新作を発表できれば……」と爆弾発言が。いちはやく情報をゲットするためにも、MRCの会員になることをおすすめしたい。

取材・文=立花もも

メフィストリーダーズクラブ