特別試し読み第1回/『ミルクとコロナ』白岩玄・山崎ナオコーラの往復・子育てエッセイ

文芸・カルチャー

更新日:2022/1/14

 白岩玄・山崎ナオコーラ著の書籍『ミルクとコロナ』「before corona」「under corona」から、厳選して全6回連載でお届けします。今回は第1回です。「野ブタ。をプロデュース」の著者・白岩玄さん、「人のセックスを笑うな」の著者・山崎ナオコーラさん。2004年、ともに20代で「文藝賞」を受賞し、作家デビュー。子どもが生まれたことをきっかけに、育児にまつわるエッセイの交換を始める。約4年間にわたってかわされた子育て考察エッセイ!

ミルクとコロナ
『ミルクとコロナ』(白岩玄山崎ナオコーラ/河出書房新社)

はじめに 山崎ナオコーラ

 この本は、作家稼業を始めて十七年になる白岩玄さんと山崎ナオコーラによる、交換エッセイだ。内容は育児にまつわるなんやかやだ。

 二〇〇四年に、白岩さんの『野ブタ。をプロデュース』と、私(山崎)の『人のセックスを笑うな』が、文藝賞という新人賞を同時受賞し、一緒にデビューした。当時、白岩さんは二十一歳、私は二十六歳だった。

 会社やお笑い界で言うなら「同期」といった感じの関係か?

 作家の「デビュー」の概念は曖昧で、それに、働き方がまちまちだし、また、年齢に幅があるので、他の作家たちとの付き合いの中で先輩後輩を意識することはほとんどないし、同じ年に「デビュー」したと思われる作家のことも、よくわからないので「同期」とは言っていない。白岩さんは私にとって、「同期」と表現できる唯一の存在だ。

 授賞式は十月にあった。ひと通りの式が終わったあと、白岩さんの前には記者や編集者さんたちが挨拶のための行列をずらりと作った。「イケメンだ」とこそこそ言われていた。私の前にも挨拶をしてくれる人が並んだが、早々にその列が終わって手持ち無沙汰になり、白岩さんが忙しそうなのを横目で見ていた。『野ブタ。をプロデュース』はいじめ問題を斬新な切り口で描いた傑作だ。

 文藝賞を前年に受賞した羽田圭介さんがパーティー会場に来ていて、未成年でまだ酒が飲めず、そして、金髪だったことを覚えている。白岩さんとは忙しくてあまり話せなくて、羽田さんと喋ったような記憶がある。

 そのひと月ほどあと、『野ブタ。をプロデュース』と『人のセックスを笑うな』は同じ日に単行本として刊行された。発売日に書店へ行ったら、『野ブタ。をプロデュース』ばかりが山積みになっていたことを覚えている。

 それから、数年後に中国へ行ったとき、書店に寄ったら、『野ブタ。をプロデュース』の中国語版が棚に並んでいた。とにかく、『野ブタ。をプロデュース』は、ものすごいブレイクだった。部数で言えば、『人のセックスを笑うな』もみなさんにたくさん買ってもらえた本なのだが(ありがとうございます)、おそらくその倍か三倍以上は売れた本だと思う。何十万部、もしかしたら百万部に近いくらいかもしれない(よく知らないで書いていますが)。こういうブレイクは、おそらく、作家にとって、良いこともあれば悪いこともある。『人のセックスを笑うな』がたくさん売れたとき、正直なところ、私は「つらい」と感じることがたくさんあった。それについて白岩さんといつか語り合ってみたい、と思いつつ、何も話したことはない。

 その後も、私と白岩さんは、互いに自分から深く歩み寄るタイプではないせいか、たくさん喋る機会はなかったのだが、次第に他の作家の友人たちが増えてきて、たまにみんなで食事をすることがあるようになった。もう十年くらい前になるだろうか、あるとき、加藤千恵ちゃんの企画で(千恵ちゃんは企画が上手い)、白岩さんの誕生日会なるものがあった。当時は互いに未婚でまだ子どもの影も全然なかった時期だが、雑談をしていたらなぜか子どもの話題になって、そのとき、確か白岩さんが、

「妊娠や出産って、女性だけに負担をかけてしまいそうで……」

 というようなことをサラッと言った。それを聞いて、ハッとした。白岩さんは「新しい男性」なのだ、と知った。

 

 時間が経ち、私のところに子どもが生まれて、一年後ぐらいに白岩さんのところに子どもが生まれた。

「同期」として、育児エッセイを交代で書いてみることになった。

 書いているうちにそれぞれのところに二人目の子どもも来た。コロナ禍が始まり、当初考えていたエッセイとは違うものも生まれた。タイトルが『ミルクとコロナ』になり、「before corona」「under corona」の二部構成になった。

「before corona」は二〇一八年一月に、「under corona」は二〇二〇年十二月にスタートしたので、時間があいた時期もあったけれど、白岩さんとはおおよそ三年半にわたり、やりとりしたことになる。

 お互いの文章の個性が面白く響き合っているのを楽しんでもらえたら嬉しい。

『ミルクとコロナ』「before corona」より