11月3日、全国の映画館で『劇場版 きのう何食べた？』が公開された。初日だけでも観客動員数12万人を記録し、映画界、漫画界に旋風を巻き起こした。

　原作は人気漫画『きのう何食べた？』（よしながふみ/講談社）である。今年、同作者の長編漫画『大奥』（白泉社）が完結したことで、ヒット連発の漫画家・よしながふみが現在唯一連載している作品になった。

　同性カップルの筧史朗（かけい・しろう/愛称はシロさん）と矢吹賢二（やぶき・けんじ/愛称はケンジ）。連載当初40代前半だった二人は読者と共に年を重ね、現在50代である。二人を取り巻く環境の変化や、シロさんとケンジの絆が時と共に深まるのも本作の特徴だ。そしてそれぞれのストーリーに料理が絡んでいる。

　最新刊で特筆したいのは、主人公の二人がどんどんとおしどり夫婦のようになっている点だ。というのも、物語序盤からケンジは自分の恋人が男性であることを職場でカミングアウトしているが、シロさんはずっと隠している。何年か前までシロさんはデートすら避けていた。しかしつきあっている年月が経つにつれて、シロさんの性格は柔軟になり、今はケンジといっしょに買い物したり散歩したりしている。

　数年前までは惰性でケンジとつきあっているのではと感じることもあったシロさん。だがケンジとのつきあいが長くなるにつれて、シロさんがケンジを大切にしていることがよりわかるようになってきた。

　例えば年をとると台所に立って料理をするのがきつくなるのではと思い始めたシロさんが、おいしそうに自分の料理を食べるケンジを見てこう思う場面がある。

“こいつが喰ってくれるうちは
体力はともかく　気力は当分続きそう”

　変わったのはシロさんだけではない。ケンジもまた、言葉にしないシロさんの愛情を敏感に感じ取れるようになった。他の巻と読み比べるとわかるのだが、19巻はケンジの幸せそうな表情がいつもより多い。

　19巻も映画も、カップルや夫婦で、読んだり見たりすることをおすすめしたい。どうすれば自分も相手も幸せになれるのか、そのヒントが詰まっている。出てくる料理のレシピも体にやさしいものが多いので、年齢を問わず参考になる。

　19巻には注目ポイントがもう一つある。主人公たちが仲良くしているカップルの小日向大策（こひなた・だいさく/愛称は大ちゃん）と井上航（いのうえ・わたる/愛称はワタルくん。シロさんはジルベールと呼んでいる）にある出来事が起きるのだ。

　大ちゃんはやさしい性格でワタルくんのことが大好きだ。大ちゃんの愛を当たり前のように受け入れていたわがままなワタルくんが、大ちゃんや友達のシロさんがこれまで考えもしなかった大きな決意をする。

　次の20巻は、もしかすると、この二人のエピソードが見どころになるかもしれない。映画と19巻を楽しみながら、20巻の発売を待ちたい。

文＝若林理央