TVアニメ『鬼滅の刃』梶浦由記が紡ぎ、LiSAが歌う主題歌が、物語に与える深みとは/無限列車編第7話
公開日:2021/12/5
※本原稿は、最新話の内容を含みます。ご了承の上、お読みください。
心を燃やせ――その言葉を残して男は去っていく。TVアニメ『鬼滅の刃』無限列車編の最終話(第7話)は炎柱・煉獄杏寿郎の壮絶な最期を描く、まさしくクライマックスのエピソード。
無限列車に巣くう鬼・下弦の壱の魘夢を、全力を尽くして倒した竈門炭治郎たちの前に、さらなる鬼が出現する。その鬼は上弦の参・猗窩座。鬼の首領・鬼舞辻無惨の血を分けた最強の鬼たち十二鬼月。その上から3番目の強さを誇る鬼が猗窩座である。彼は煉獄さんの強さを一太刀で見抜き、彼に「鬼にならないか」と誘惑する。
人間は傷を受ければ治るまで時間がかかるし、年を取れば衰えていく。鬼は受けた傷はすぐに回復し、年をとっても衰えることがない。猗窩座は煉獄さんを鬼にすることで、ともに鍛え合い、武術の高みを求め続けようとしたのだ。己の目にかなった強いものとひたすらに戦い続けたい。どこまでも己の技を磨き上げたい。その危険な求道精神と闘争本能。猗窩座の残酷な拳が、煉獄さんの肉体を少しずつ削っていく。煉獄さんは人間を守るため。一歩も引かず、剣を振るい続ける。「炎の呼吸 奥義 玖ノ型 煉獄」。煉獄さんの全身全霊の一撃は、猗窩座の肉体を切り裂く。だが……。
昨年(2020年)10月に公開された劇場版『鬼滅の刃』無限列車編を、全7回のエピソードに分けて地上波で放送したTVアニメ・無限列車編。第一話は煉獄さんが無限列車に乗るまでを描くアニメオリジナルストーリー、第二話以降は新規カットと新規BGMを交えて構成するという、劇場版から大きくふくらんだ内容で放送された。「鬼滅の刃」で歴代の主題歌を担当していたLiSAによる新オープニングテーマ「明け星」とエンディングテーマ「白銀」も、物語に新たな深みを加えている。本作のアニメーション制作を担当しているufotableによって描かれたオープニング映像と「明け星」「白銀」の歌詞が、饒舌に物語をつむぎあげていく。
これらの歌詞と楽曲を手掛けたクリエイターは梶浦由記。アニメ『鬼滅の刃』ではBGM(劇伴)を椎名豪とともに担当し、『鬼滅の刃』竈門炭治郎 立志編ではエンディングテーマ「from the edge」の作詞・作曲を担当していた。
梶浦由記は、もともとガールズバンドでデビューを飾ったソングライターだ。1980年代のガールズバンドブームの中で、彼女たちのバンドは注目を集めるが、その活動の中で彼女はインストゥルメンタル楽曲の面白さに目覚め、インストゥルメンタルのコンピレーションアルバムや実写映画などに楽曲を提供するようになったという。やがて、個性派アニメ監督・真下耕一(代表作『ノワール』『.hack//』シリーズ)らとの出会いがきっかけとなり、数多くのアニメ作品にBGM(劇伴)を提供するようになった。『魔法少女まどか☆マギカ』シリーズや『ソードアート・オンライン』シリーズといった大ヒット作のBGMも、彼女が担当している。
ufotable作品では劇場版『空の境界』シリーズ(2007~2013年)やTVアニメ『Fate/Zero』(2011~2012年)、劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel]』シリーズ(2017~2020年)などに参加し、多国籍でオペラティックなオーケストラサウンドで華やかに作品を彩っている。
これらの作品で欠くことができない重要なパーツが、梶浦由記自身が作詞・作曲を務める主題歌(オープニングテーマ、エンディングテーマ)だ。たとえば劇場版『空の境界』では第一章から終章それぞれに梶浦が手掛けたエンディングテーマが流れ、原作者・奈須きのことufotableの映像が織りなすミステリアスな世界観を、よりはっきりと描いていた。また、劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel]』シリーズで梶浦は、シンガーのAimerに3曲の主題歌を提供し、ダークな少女の世界をつむいでいる。
今回のTVアニメ・無限列車編の最終話では、梶浦が手掛けた劇場版の主題歌「炎」がラストを飾った。去りゆくものへ別れを告げる、壮大なバラードは梶浦由記の真骨頂ともいうべき、エモーショナルな楽曲だ。懐かしさや悲しみに囚われてしまうのではなく、これ以上何も失わないために、より強くなることを誓う。まさに『鬼滅の刃』という作品が描いているテーマを歌う一曲といえるだろう。
無限列車編から遊郭編へ。傷ついても、折れても、炭治郎たちは「心を燃やして」立ち上がり、日輪刀を手に取る。物語の舞台は無限列車から鬼の棲む遊郭へ。
待望の遊郭編のスタートだ。