月3850円で本屋になれる! 選書も店番もシェアする本屋、吉祥寺「ブックマンション」が挑む、新しい書店のあり方
更新日:2021/12/6
街中の書店は減少の一途をたどる中、コロナ禍やオンライン販売が影響し、さらなる衰退が進んでいる……。そんな状況下で、書店という販売スタイルを活かしつつも、新たな場所へと変化をさせて、「本を売る場所」のみにとどまらず、コミュニティの機能を活性化している書店が各地にあることを、ご存知だろうか。
東京・吉祥寺に店舗をかまえる「ブックマンション」は、従来の書店とは異なり、店の中に店子が80人近く同居し、共同で本を販売するという運営スタイルだ。店子それぞれに個性があり、各々が選出する本を売っている。書籍は新刊もあれば古書もあり、ビジネスから絵本、文芸書に雑誌まで、バリエーションも豊かだ。それにしても圧巻の書籍と書棚の数、なぜこうしたシェア型の本屋を思いついたのか――そこには、店主である中西功さんに想いが込められていた。
売場も店番も、みんなで共有。約80人のシェア型本屋
吉祥寺駅から徒歩5分ほど、東急百貨店から程近い場所にある「バツヨンビル」の地下1階で、シェア型本屋『ブックマンション』は営業をしている。
店内には30センチ四方のボックスがずらりとひしめく。箱ごとに店子は異なり、その数はなんと80人近くにも及ぶというから驚きだ。
各棚への出店条件は、毎月の家賃として3850円払うこと。各店子が持ち回りで3ヶ月に一度は必ず店番をすること。そして本を売り上げたら1冊につき100円を運営主に払うこと。それ以外は自由だ。言い換えると、「月3,850円で本屋になれる」のである。
店内では、店子たち主催のイベントも開催される。つい先日は、ハロウィンに合わせた装飾をほどこし、それにまつわる選書フェアを実施したり、音楽にちなんだ選書フェアなども行ったそう。こうした企画は店子同士で自然発生的に立ち上がる。もちろん、誰かに強制されたわけではない。
ふわっとイベントが企画され、実施までワイワイと話し合い、当日も当人たちが楽しむ様は、さながら文化祭のような雰囲気だ。
店の運営をまとめる『ブックマンション』の店主は、建築家である弟の中西健(なかにしけん)さんと一緒に『BOOK ROAD』という無人書店を作って話題になった、中西功(なかにしこう)さん。彼が掲げている「日本列島 本屋さん増大計画」の2店舗目が、この『ブックマンション』である。
中西さんが三鷹で無人書店を始めたのは、自身の蔵書が増えすぎて本を売りたかったから。しかし当時IT企業に勤める会社員として、日中は仕事をしていた中西さんは、本を売る手立てがない。そこで無人書店というスタイルを思いつき開店、営業が軌道に乗ったあとに、店舗の増大計画へと踏み切ったのだった。
なぜ厳しい今の時代に、本屋を始めたのか?
中西さんは昨今衰退気味にある本屋事情を憂いていて、本屋はもっと必要だと思っている。しかし書店の人たちが「本が売れない」とただ憂いているだけでは何も変わらない、と疑問に思っていたそうだ。
自身がIT企業で勤務する中で、EC事業を見てきたり、多くの仕組み作りを経験してきたことからも、その仕組みの力を使ってもっと変えることができるのでは、と考えていたそうだ。そこが普通の書店の人とは少し違ったのかもしれない。
「もっと気軽に本屋を作って、運営して、そして増えてほしいと思っていたんです。街の本屋って、今まで大手以外は個人や家族で経営している人が多かった。でも、ひとりでお店をやるのは負担だし、自分はできないって思ったんですよね。だったら仕組みを活用して取り組んで、その取り組みから得られる知見を世の中にもっと広めていけばいいんだ、と思って、始めました」
とはいえ、書店員としての経験があったわけではない中西さん。縁あって吉祥寺でこの「バツヨンビル」を借りると決めてから、開店までこぎつけるまでに、「到底ひとりではやりきれない」と、資金や仲間を募るためにクラウドファンディングを実施。その熱意と、周囲の応援・協力により、当初資金目標としていた500万円を大幅に上回る575万円の支援金が集まった。
応援のコメントも、ずらりと並んでいた。中西さんの活動を面白く、快く思う人から300人以上分のコメントも集まり、中西さん自身クラウドファンディングページにも「感動した」と言葉を寄せている。
クラウドファンディングの支援のリターンのひとつとして「本棚の貸し出し枠」を用意したところ、店子も続々と集まり、開店時には70人以上の店子が揃った。こうして準備に奔走し、2019年7月、無事『ブックマンション』開店に至ったのだった。
クラウドファンディング実施時のサイトページ>https://readyfor.jp/projects/x4
クラウドファンディングサイト「READYFOR」でのブックマンション紹介ページ>https://blog.readyfor.jp/n/n80223defe19a
そもそも本が売れるのか? なぜ売りたいのか? 店子たちの、本屋への想い
店子から毎月出店料が入り、継続的な維持費が確保できることから、「ブックマンション」の運営は安定している。そして店番も店子同士で担うため、人件費もかからない。もちろん本は出店者の所有物なので、店主である中西さんはストックを持たない。持続的な本屋運営を考えた時に「シェア型本屋」はまさに「三人寄れば文殊の知恵」を体現したスタイルだったとも言えるだろう。
しかしこの80人近くの店子たちは「ブックマンション」に対してどういう思いをもって出店しているのだろうか。
『1neko.』という屋号で店を営む、会社員の山内貴弘(やまうちたかひろ)さんは「吉祥寺に面白い本屋があると聞いて興味を持っていたので、出店したんです」と話す。
夫婦で共同出店を決めた山内さん。元は奥様が運営の主を担うつもりで、選書や棚のデザインや装飾を考え始める。ところが自分好みの本を揃えること、訪れる客との交流や他の店子との交流する面白さにのめり込み、いつしかメインの店主が山内さん自身になっていた。自宅は神奈川県だが、吉祥寺まで足繁く通っている。
「本をゴリゴリ売りたいというより、面白い場所だから何かやってみるか、という感じです。僕は普通のサラリーマンで、商売なんてやったことがない。だからここで物を売ってみるということ自体が、単純に新鮮。お金を払ってお店番という経験をさせてもらい、お客さんと交流させてもらっている。自己表現や活動をする場という感覚ですね」
中にはブックマンションで小さく商いにトライして、実際に自宅近くで書店を開業したという店子もいるそうだ。
中西さんは各店子が出店する時、「売るだけではなく、店番を通じて訪れる人との『コミュニケーション』を大切にすること」を必ず伝えている。それゆえに店子たちはみな、に出会いや体験を楽しむ人も多い。
平日は学校で図書館司書を営む店子の女性も「自分の家に溢れた本をこの場を使って売ることができて、訪れる人との交流もできる。楽しい出会いがあるのが良いと思って出店している」という。
一方、売上をしっかり上げたい、と思っている店子も。「やるからにはしっかり売り上げたい」とこだわりの選書をし、時に月に2万円以上販売することもあるそうだ。
中には、本にまつわる職業の人も店を開いている。自分が執筆した書籍、編集した書籍を棚に置き、どういう人が手にとるかなど、観察する場としてこの場を活用もしているようだ。
小さな本屋から発信される、地域との新しいつながりや出会いは、訪れる人にとって発見に
ひとりでは決してできなかった店づくりも、多くの人たちが力を合わせることで、面白い出会い、企画、イベントが、自然発生的に溢れるようになる。
するとこの様子について、どこかで話を聞きつけた人が「何だか面白いことをしているようだ」と自然に集まってくる。そして地域とのコミュニケーションやコラボレーションなどが新しく生まれるのだそうだ。
最近では吉祥寺パルコで「ZINEフェスティバル」の開催や、近隣商業施設での特設イベント、近隣書店と「ブックマンション」の店子による選書本のコラボレーションフェアなどを実施している。こうしてゆるやかに、地域の書店や場所の活性化にもつながっているのだ。
取材でおとずれたこの日は、来たるイベントに向けて山内さんが選書の真っ最中。その一部を見せてもらった。
「大好きなカフカの本をひたすらに揃えて展示するという企画なんですけど。同じ内容なのに出版社ごとにそれぞれに色があったり、初版から版が変わると微妙に装丁が変わったり。並べてみるだけでも全然違うんです。その違いを見比べることなんてないじゃないですか。圧倒的にニッチだし、面白いですよね」と熱っぽく語る。
これらの本は、古本屋を歩いて地道に揃えてきた山内さんの一級蔵書品だ。
書店では取り上げないであろう、本を愛しすぎているユーザーだからこそ思いつく企画なのだろう。
そうしたイベントやフェアに訪れる人たちが、また『ブックマンション』へと足を伸ばし、新たな人の交流、本の循環をもたらしているのだ。
『ブックマンション』は単に本を探すではなく、新たな「人」「本」「つながり」の化学反応があちらこちらで発生する。訪れるたびに新しい発見ができるそんなワクワクの根っこが眠っている場所なのではないだろうか。
<shopinfo>
店名:ブックマンション
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2丁目13−1
連絡先:bookcultureclub81@gmail.com
営業日:水・金・土・日 13:00〜17:00
定休日:月・火・木
Twitter: https://twitter.com/bookmansion
note: https://note.com/bookcultureclub/n/n4eb356702b16
Facebook: https://www.facebook.com/100057028346964/