豆腐店の一人娘が、商店街の危機を救うために立ち上がる! 第9回角川つばさ文庫小説賞「大賞」受賞作!

文芸・カルチャー

公開日:2021/12/4

あおいのヒミツ! 幻のレシピ復活させちゃいます!?』
『あおいのヒミツ! 幻のレシピ復活させちゃいます!?』(吹井乃菜:著、くろでこ:イラスト/KADOKAWA)

 目の前に壁が現れた時、その壁の高さに落ち込んで愚痴をこぼすのか、それともそれを越える策を考えるのかで、結果は大きく変わってくる。大人になるとつい保身に走って視野が狭くなってしまいがちだが、時には子どもにように、強気に発想豊かに立ち向かうことも必要だ。

『あおいのヒミツ! 幻のレシピ復活させちゃいます!?』(吹井乃菜:著、くろでこ:イラスト/KADOKAWA)は、そんな「立ち向かう」という気持ちを思い出させてくれる作品。第9回角川つばさ文庫小説賞で大賞を受賞している注目作だ。「角川つばさ文庫」は本来子ども向けとして刊行されているレーベルだが、中には本書のような、子ども向けだからと侮れない、大人が読んでも十分心に刺さる作品も多数ある。

 本作品の主人公は、京都の小さな商店街「星ヶ瀬商店街」にある豆腐店「雫井とうふ店」の一人娘・雫井あおい。商店街を愛し、毎日朝早くからお父さんとおじいちゃんが作る豆腐を誇りに思っている、けれど早起きは苦手な小学6年生の女の子だ。商店街には、ほかにも「丸山漬け物店」や「八百壱」、「喫茶・マウンテン」など多くのお店があり、長年にわたって町の高級料亭「望月楼」と良好な関係を築きながらやってきた。しかしある時を境に、その望月楼との関係に陰りが見え始めた。

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 今までずっと地元との付き合いを大事にし、多くの食材を商店街から仕入れていたのに、急に仕入先を変え始めたのだ。お得意様を失い、「あの望月楼で認められている味」というお墨付きも失って、契約を切られた店は窮地に立たされる。そしてついに雫井とうふ店も契約を切られてしまった。このままでは商店街がだめになってしまう。そう考えたあおいは、亡くなったお母さんだけが作ることができた特別な豆腐「花雪とうふ」を復活させるべく、雫井とうふ店に住み込みで弟子入りしている中学1年生の男の子・加門真緒とともに立ち上がった。

 またそれとは別に、あおいは不思議な体験をしていた。ある日、望月楼の板前・沼津に油揚げが足りないと難癖をつけられ届けに行った帰り道、耳としっぽの生えた、おなかをすかせた不思議な少年と出会う。そこで沼津に受け取ってもらえなかった油揚げを見せると、男の子は目を輝かせて10枚あった油揚げを完食。実はその子・ククリは、休暇中の神様の使いのキツネだった。この油揚げがきっかけであおいはククリに懐かれ、あおいの家で一緒に暮らすことになったのだった。

 こうした中、あおいが「花雪とうふ」の研究で慌ただしくなり退屈になったククリは、花雪とうふ復活のため手を貸すことにしたらしい。あおいを大人の姿に変身させて2人で望月楼に潜入調査をしに行ったり、夜中にあおいをある泉のもとへと連れて行ったり――。そんなククリの手助け、そして真緒の研究の甲斐あって、ついに――。

 あおいと真緒が動かなければ、花雪とうふへの道は閉じたままだった。それにあおいがおなかをすかせたククリを助けなければ、彼の力は借りられなかった。このほかにも、ひとつひとつの行動が商店街の危機的状況を少しずついい方向へと動かしていく。信じても、頑張っても報われないこともたしかにあるが、それでも動かなければ何も変わらない。喫茶・マウンテンのマスターの言葉「なにもないときは、なにもしないより、なにかしてみたほうがいい」も、シンプルながら考えさせられる。

 前向きに頑張るあおいたちを見て、改めて「なにかする」ことの大切さを感じた。日々に停滞を感じている人、今壁にぶち当たって思い悩んでいる人は、本作を読んであおいたちに元気をもらってみては? きっと、何か一歩踏み出す力をくれるはず。

文=月乃雫