「漫画は不要不急か」の問いに、漫画家たちの答えは──? パンデミックで変わる世界に彼らはどう向き合うのか

マンガ

公開日:2021/12/7

コロナと漫画~7人の漫画家が語るパンデミックと創作
『コロナと漫画~7人の漫画家が語るパンデミックと創作』(島田一志:編集/小学館)

 昨年来、新型コロナウイルスに翻弄される日々が続く中、最近になってようやく感染者数も減り、明るい兆しが見え始めてきた。緊急事態宣言も解除され、徐々にかつての日常に戻りつつあるが、それでも次々と新型株が出現するなど、今後に向けて中止しなければいけい事象もあり、日常が完全に元通りになるわけではない。コロナ禍によって変化を余儀なくされたことは多く、それは「漫画界」も同様である。『コロナと漫画~7人の漫画家が語るパンデミックと創作』(島田一志:編集/小学館)には、著名な漫画家たちのコロナ禍における行動や創作活動への影響など、パンデミックによる変化についてのインタビューが収められている。

 本書には7人の漫画家のインタビューが掲載されているが、そのラインナップが非常に豪華。掲載順にちばてつや氏、浅野いにお氏、高橋留美子氏、あだち充氏、藤田和日郎氏、細野不二彦氏、さいとう・たかを氏という、レジェンド級の漫画家たちが顔を揃えているのだ。インタビュアーである島田一志氏はパンデミック下でよく叫ばれた「不要不急」という言葉に着目し、作家らに「漫画は不要不急か?」という質問を投げかけている。果たしてレジェンドたちはいかに答えているのか、本稿では数名をピックアップして紹介したい。

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高橋留美子

『うる星やつら』や『犬夜叉』など、多くのヒット作を手がけた日本を代表する漫画家。高橋氏がコロナを意識したのは2020年の3月頃だったそうで、現在も続くコロナ禍による社会の変化に「漫画を超えてくる現実」に立ち合っているのだという。昭和からの巨匠である氏の作業は現在もアナログ中心なので、アシスタントも仕事場作業となる。なのでマスク着用などの感染対策を行ないながら、連載をこなしているのだ。

 それ以外では作業に大きな変化はないというが、面白いのは高橋氏はネームを描くとき、編集者が近くにいたほうが捗るということで、これまでは編集者が仕事場で待機していたという。しかし現在はそれができず、ファックスでのやりとりになったそうだが、曰く「やってみれば別にひとりでもやれる」のだとか。そして「漫画は不要不急か?」の問いに対しては、そう考える人に無理に勧めることはできないとしながらも、「多くの人たちは、こんな時だからこそ娯楽が必要だと考えているのではないか」と答えている。

さいとう・たかを

 さいとう・たかを氏の代表作『ゴルゴ13』は2021年11月現在、単行本の発行巻数が202巻を数え、ギネス世界記録に認定されている長寿作品。これほど長く愛される作品を描いた氏だが、2021年9月にこの世を去った。本書のインタビューはメール取材ではあるが、亡くなる前に行なわれた貴重なものである。国際情勢を題材にした『ゴルゴ13』の作者であるさいとう氏だけに、コロナを強く意識したのは中国の武漢で騒ぎが発生したときで「これはただごとではない、中国内部では収まらないだろう」と思っていたという。この強い危機意識に加え、漫画家の中ではいち早く分業体制を敷いていた氏はスタッフの健康を考慮して、50年以上休まず続けた連載を初めて休載している。とはいえ、休載期間も新作の構想などで休むことはなく、連載再開後は感染対策を行なって感染者が出ることはなかったという。

 そして「漫画は不要不急か?」の問いに対しては、氏は「この業界は絶対伸びる」と劇画を描き続けて社会的にも必要にされる業界であるとして、「少なくとも『不要』な存在ではないと思う」と回答している。

 結局のところ、感染症が世界に蔓延して社会の在りかたが変わろうと、「漫画家は漫画を描くしかない」というのが漫画家たちの共通認識であった。さいとう・たかを氏も「読者が望む限り作り続ける」と語り、氏の没後も『ゴルゴ13』の連載は続くことが決まっている。そして読者が漫画を望んでいることは、「ステイホーム」推奨下で漫画の売り上げが伸びたことでも明らかだ。感染症に限らず、我々の環境にはさまざまな脅威が潜んでいるが、何があっても人々に少しでも希望を見せられると信じて、漫画家たちはこれからも描き続けていくのである。

文=木谷誠