『アイドルマスター シンデレラガールズ』の10年を語る⑤(アナスタシア編):上坂すみれインタビュー

アニメ

公開日:2021/12/6

アナスタシア
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

 2021年、『アイドルマスター シンデレラガールズ』がプロジェクトのスタートから10周年を迎えた。10年の間にTVアニメ化やリズムゲームのヒット、大規模アリーナをめぐるツアーなど躍進してきた『シンデレラガールズ』。多くのアイドル(=キャスト)が加わり、映像・楽曲・ライブのパフォーマンスで、プロデューサー(=ファン)を楽しませてくれている。今回は10周年を記念して、キャスト&クリエイターへのインタビューをたっぷりお届けしたい。第5回は、アナスタシア役の上坂すみれが登場。ラブライカとして歌った“Memories”や、ライブ中・ライブ後のエピソードなど、たっぷり語ってもらった。

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(アナスタシアは)ポジティブな好奇心による頑張りが見え隠れするところが、とてもかわいい

――『シンデレラガールズ』が今年で10周年ということで、上坂さんも長く関わってこられてきたわけですが、プロジェクト全体に感じている印象と、10周年を迎えたことへの感慨について聞かせてください。

上坂:はい。『シンデレラガールズ』は長く愛されている作品だと思うんですけれども、やっぱり演者さんとアイドルがとても寄り添っている作品だなあ、と思います。ライブのテーマや内容によってちょっとずつアイドルが変化したり成長したりしていくところが、他の作品とはまた違うところだな、と思います。

10周年を迎えたことについてですが、『シンデレラガールズ』を知ったのは、初めてアフレコに参加したような作品の現場で、先輩声優さんから教えていただいたのがきっかけでした。そのときはまさか自分が参加することになるとは思わなかったです。それから、10年間ずっと応援してきた人もいるし、新しく入ってくる人にも優しい雰囲気があって、この間口の広さが10年愛される秘訣だと思います。新しいアイドルの仲間も増えていったり、満を持してボイスがついたり、そういう嬉しい進展がたくさんあって、10年の中でどんどんバージョンアップしてきたんだな、と感じます。

――上坂さんが演じるアナスタシアと出会ってからも長い時間が経っていますね。彼女に出会ったときの印象と、先ほど話してくれたようにアナスタシアも変化したり成長していると思いますが、これまで時間をともに過ごしてきて、上坂さんの中の認識が変わった部分、その2点を教えてください。

上坂:それこそ、ボイスがなかったときのアナスタシアは、見た目通りのクールな子で、友達とか、アイドルのきらめきは自分には縁がない、みたいな、クールな印象のセリフが多かったです。オーディションのときも、そういうセリフでした。アナスタシアのしゃべり方はロシア語交じりなんですけど、実際に自分がロシアに行ったときに、ロシア語と日本語を混ぜてしゃべる子、たとえば日本語を勉強している子であったり、ロシアの航空会社のCAさんが日本語でアナウンスをするときに「あ~、晴れですねえ」みたいな感じで、「あ~」が入っていたりすることに気づいて。アーニャはクールな印象だけど、頑張ってしゃべっているんだな、ということがだんだん理解できました。アニメやライブでの掛け合い、それこそラブライカやいろんなアイドルたちとのコミュニケーションによって、どんどん心を開いていって、自分の気持ちをちゃんと伝えられるようになってきてからは、笑顔が多くなった気がしますし、その部分で成長を感じます。

――上坂さんが、「アナスタシアのことが好きだな」って思う部分は、たとえばどういうところですか。

上坂:一見わからない一生懸命さが、すごくかわいいです。やっぱり神秘的なビジュアルなので、黙っているとなんでもできちゃう子のように見えてしまうと思うんですが、いろんなコミュのエピソードを見ると、頑張って言葉を探していたり、「どうしたらみんなに届けられるんだろう」って自分の中でいろんなことを考えて、考えるけど、日本語が上手く出てこなくて、「そんな自分をもっと変えたい」みたいな向上心もあります。あとは、「もっと仲良くなりたい」「日本のこと知りたい」といった、ポジティブな好奇心による頑張りが見え隠れするところが、とてもかわいいと思います。

――そういった側面も、それこそボイスがつく前は1枚のイラストしかないところから、だんだん血が通って彼女が動き出していく、性格が見えてきた部分があると思いますが、上坂さんの中で彼女の人物像が固まった・育っていったきっかけは何だったのでしょう。

上坂:やっぱり、TVアニメですかね。ライブもすごく得るものが大きかったですし、ゲームはひとりでずっと収録しているものですが、アニメはみんなで録ることができたので。チーム的に美波との掛け合いがあったり、他のお友達とのやり取りがあったりして、なんとなく思っていたことが確信になっていくようなところがありました。イラストだけだった頃は、「趣味:ホームパーティ」と書いてあっても全然想像がつかなかったけど、他のアイドルとの掛け合いによって、「いっぱいコミュニケーションが取りたい子なんだ」ということがわかって。それまでなんとなく想像していたことが、アニメで固まった感じです。

――ホームパーティをしていても不思議じゃない人物像が見えましたか。

上坂:はい。天体観測はしそうですけど、ホームパーティは「どうやって幹事をやるんだろう」って思ってたんです(笑)。

――(笑)彼女を表現するときに楽しいなと思うこと、逆に難しいなあと感じる部分には、どういうところがありますか。

上坂:アナスタシアを演じるときは、ちょっと拙めの日本語でしゃべるところがあるんですけど、それがギャグにならないようにする塩梅が、けっこう難しいです。かわいい片言になることを念頭に置いてます。楽しいところは、意外と悪戯っぽかったり、お茶目な一面が出てきたりするので、「アーニャはボケの役割がやりたいんだなあ」って思うと、かわいいなって思います。なんか客観的に自分を「片言外国人キャラ」と認識して、それを逆に利用しながらちょっと小ボケをするところがあって、そういうシーンを見ると、『シンデレラガールズ』の世界に馴染めたんだなあって思います。

――お芝居やレコーディング、あるいはアナスタシアとしてステージに立つときに、「これだけは外さないようにしよう」と考えていることは何ですか。

上坂:ステージに立つときは、最初はすごく苦戦しました。まず見た目が全然違うので、たとえば髪が短く見えるようにしてみたり。自分のライブでは、はっちゃけ過ぎる節があるので、ちょっとそういうのは封印しないとって、最初の頃は思っていました。だけどあるときのライブで個人衣装がありまして、「今回は思い切って髪を下ろしてみよう、わたしのビジュアルのままでできることがあるんじゃないか」とやってみたことがあって、結果的にとても楽しくできました! それと表現するときに外さないことは、笑顔と神秘性の融合がアーニャのイメージで、しゃべるとかわいいけど、歌っているときは星を背負っているというか、ちょっと神秘的に見えるように心がけています。

ライブにはプロデューサーさんが来てくれているわけなので、アーニャの成長を見せたいですし、特に指先の表現に気をつけて、ちょっとしなやかな感じに見えたらいいなあ、と思いながらやっていたりします。でもライブでは、大坪(由佳)さんの三村かな子の曲で王子様をやらせていただいたり、ラブライカも念願叶って揃ったり、やっぱりソロの曲も楽しいですけれども、他のアイドルと一緒にやっていると自然と気持ちがアナスタシアになります。アナスタシアって、すごく妹キャラなんだなって。美波について回っているけれども、大事なところでは素敵に決めるパワーがあって、そういうところを表現できたら、と思っています。

――洲崎綾さんにも以前の特集でお話を伺ったんですが、ラブライカとしてライブで歌うときに、ステージに出る直前のことだと思うんですけど、上坂さんと手を握り合った記憶がありますって話をしていて。洲崎さんから見ると、上坂さんはあまり緊張していなかったらしいんですけど、「自分の感覚を受け取ってくれていて、なんとなく気持ちがつながっていた感じがあります」って、すごく素敵なエピソードを聞かせてくれました。

上坂:その洲崎さんの話にはひとつ間違いがあって、わたしはすご~く緊張していました(笑)。そう考えると、すごくアーニャっぽいエピソードですよね。洲崎さんは先にいろんな編成で“Memories”をパフォーマンスしてきたけど、わたしがラブライカとして“Memories”を歌うのはそれが初めてだったんです。だから緊張してないわけはなく――でも、そうだなあ、わたしはあまり手汗をかかないので(笑)、わたしのひんやりした手を握って、そう思ってくれたのかもしれないです。洲崎さんって、普段はけっこうひょうきんなお姉さんで、いつも「写真を撮ろう」って言ってくれたり、突然連絡してくれたり、適当なお姉さんに見えて、すごくカッコよくお仕事をしているから、わたしは尊敬しています。美波が憑依している洲崎さんは本当に女神のようで、わたしより洲崎さんは少し身長が低いはずですけど、自分より大きく見えたりします。「大丈夫だよ」って言ってくれているような気がして、洲崎さんと美波が同時に見えたというか、忘れ難いステージでした。

上坂すみれ

上坂すみれ

誇りを持ってアーニャとしてステージに出られるようになったのは、わたしにとって大きな成長

――ともにステージに立つ演者としての立場から、他のキャストさんの『シンデレラガールズ』に懸ける思いに感激したり、メンバーとの絆を感じたエピソードについて、教えてください。

上坂:現場で何度も助けていただいたのが、五十嵐裕美さんと高森奈津美さんです。『シンデレラガールズ』の初期メン、というんですかね、ずーっと支えてらっしゃって。ゲネプロのときもどんどん意見を言ってくれて、総監督的なオーラを感じますが、わたしはあまり意見を言ったり仕切ったりが苦手なので、『シンデレラガールズ』の先輩方は本当に頼もしいです。なんだか、部活の先輩のような感じがします。

――これまで参加した楽曲で、上坂さん自身思い入れが深い楽曲と、その理由を聞かせてください。

上坂:一番緊張したのが、“ガルフロ(ガールズ・イン・ザ・フロンティア)”です。あれは確か6thのときにユニット的な感じで、まさかのアナスタシアが真ん中の位置で、すごく大事なところをソロパートで歌わせていただいて。自分の曲である“ユアスタ(You’re stars shine on me)”や“Nebula Sky”、“たくさん!”はちょっとフワッとした曲なので、強い意志を歌った曲を真ん中でやることに、すごくビックリしたし、とてもとても緊張しました。だけどプロデューサーさんにも「良かったよ」って言っていただけた曲ですし、自分の中でもアーニャがひとつ成長したというか、こういうカッコいい曲もできるんだね、と思った曲なので、“ガルフロ”が一番印象に残っています。もちろん“Memories”は言わずもがなで、その他で言うとこの曲です。あとは、“輝く世界の魔法”でアーニャはデビューしたんですけど、実はまだ歌っていないので、「いつやるんだろう」と思ってます(笑)。いつかオリジナルメンバーでできたらいいなあと、ここで書いてもらうことで、いつかきっとできるんじゃないかって、願っています。

――上坂さんから見て、『シンデレラガールズ』ってどんな場所、どんな空間だと感じますか。

上坂:一言で言えば、ちょっと異様ですよね(笑)。でもそれはもちろん「ヤバい」という意味ではなくて、最初にまず提供を読み上げていくところは、「そこも楽しんじゃうのかあ、プロデューサーさんってすごいなあ」って思います。で、ちひろさんのナレーションが流れて、「最初に言っておきますが、休憩はありません。よろしいですか」って言うと「イエ~イ」みたいな感じになって(笑)、それが頼もしいですよね。「休憩はございません」って先にちひろさんに宣言されるって、冷静に考えるととんでもないなあって思いますが(笑)、そこでプロデューサーさんのテンションもマックスになって。

プロデューサーさんって本当にみんな優しくて、トロッコとかで移動すると、皆さんがどんなお召し物を着てるのかが見えるんですけど、たとえば明らかにキュート推しの装備をしていても、全力で手を振り返してくれるんです。「担当じゃないから興味ない」というのがまったくなくて、どの曲に対しても全力で今プロデュースしているんだ、という熱量を届けてくれるのがすごく嬉しいですし。逆に、ラブライカとかアナスタシアの装備をしている人と目が合うと、ちょっと魂が抜けてる感じがして(笑)。盛り上がり過ぎて魂が抜けちゃう、みたいなことがあるくらい、ボルテージの高さを感じます。やっぱりプロデューサーさんがいてこそのライブだと思いますし、なおかつ声優であることも忘れてステージに立てる、「今、自分は輝いてるぞ」ってすべてのキャストが実感できる、すごいライブだと思います。

――魂が抜けちゃうんですか(笑)。

上坂:「アナスタシアのTシャツ着てる!」と思って、ワ~ッて手を振ったら、その方のペンライトが下りてしまって(笑)。力が入らなくなってしまった、みたいな。忘れられない光景ですね。

――「恍惚の表情」のその先っていう感じですね。

上坂:そうなんですよ。なんと表現すればよいのだろう(笑)。でも、もしその方が覚えていてくれていたら、嬉しいです。

――ライブといえば、上坂さんは2022年1月の沖縄公演に出演予定ですね。上坂さん自身は久しぶりにプロデューサーさんに会いに行ける機会だと思うので、このライブに懸ける賭ける気持ちを聞かせてもらえますか。

上坂:『シンデレラガールズ』のライブに出演するのもすご~く久しぶりですし、それから10周年でもあるので、万感の思いというか、たとえプロデューサーさんが声を出せなかったとしても本当に嬉しいです。まさかの「アーニャ、沖縄に行く」ということに、すごくビックリして。「一体沖縄に合う曲があっただろうか」って最初は思ったんですけども、今のアナスタシアだったら、すごく楽しんでやってくれそうな気がしますし、沖縄ならではの曲にも参加できたらいいな、と思います。やっぱり久々のアナスタシアを、皆さんに成長したねって思っていただきたいですし、普段は関東近郊でやることがほとんどだったので、ライブをしに行けるのがとても久々で、本当に楽しみです。

――プロデューサーさん側も万感の思いで10周年を迎えてるでしょうから、より魂が抜けることになるかもしれないですね。

上坂:そうですね、魂をね、抜かせに行きたいくらいの気持ちです(笑)。わたしはもう、そのつもりで行こうと思います。

――(笑)『シンデレラガールズ』に関わってきて、ご自身が変わった部分、新しい一面が発見できたと感じる部分はありますか?

上坂:はい、すごく変われたと思います。今でこそ、いろんなバンドものやアイドルものの作品が増えて、キャラを背負ってステージに出る作品は増えてきたし、そういうタイトルにも関わってきましたが、わたしにとってまさに最初が『シンデレラガールズ』でした。リハーサルも別々でやったりするので、ゲネプロやライブで初めてお会いする方もいらっしゃったりしますが、ライブを一緒にやるのは共同作業なので、すごく絆が生まれるんですね。たとえ2年、3年会っていなくても、全然久しぶりな感じもなく、知り合いや友達以上の絆が生まれる場所です。わたしはひとりっ子として育ち、ずっとソロの暮らしをしてきたので、みんなと何かを作るのは素晴らしいことなんだ、と知れたのが、この『シンデレラガールズ』の現場でした。そして、アナスタシアという素敵なアイドルとともにステージに立つことで、自分の新たな部分を発見したり、誇りを持ってアーニャとしてステージに出られるようになったりしたのは、わたしにとって大きな成長でした。

――『シンデレラガールズ』の場合はとても大きなスケールのライブをみんなで一緒に作り上げるわけですけど、ステージを降りたあとの様子というか、ライブ終演後ってどんな感じになるんですか?

上坂:ライブが終わったあとは、けっこうバラバラですね。「魔法解けた、うえ~い」みたいな人もいるし(笑)、アイドルとの余韻や思い出に浸っている人もいる。あとはやっぱり、もし朝が早かったとしても、帰りのバスで興奮しながら、「この曲、ほんとによかったよね」と思い出を話している人は多いです。わたしは、こっそり楽屋の側にあるクーラーボックスに、「終わったら、これ飲もう」と思って日本酒を二合入れておいて、バスの中で飲んでいました(笑)。なのでわたしは、思い出に浸りながら一杯という感じです(笑)。立花理香さんが、一緒に飲んでくれた思い出がありますね。

――上坂さんにとって『シンデレラガールズ』というプロジェクトは、どんな存在でしょうか。

上坂:なんだろう、永遠にあるもの、という感じがします。永遠に輝いていそうな気がしていて、たとえ我々が50代とかになってもやっているんじゃないかって思えるくらい、新しい輝きがどんどんあふれてくるので。新しい仲間も入ってくるので、どんどんバージョンアップする輝き、という感じがします。

――最後に、これまで長い時間を一緒に歩んできたアナスタシアに、上坂さんからかけてあげたい言葉を教えてください。

上坂:まずは「友達いっぱいできてよかったね」です(笑)。最初はプロデューサーとだけしゃべっていて、しかもけっこうツンケンしたしゃべり方だったけれども、この10年でいろんな表情ができるようになりました。本当はすごくピュアで、好奇心旺盛で、やんちゃでかわいい子なんだ、ということがみんなに伝わって、ほんとによかったと思いますし、これから次の10年もよろしくお願いします、という感じです。

取材・文=清水大輔