『アイドルマスター シンデレラガールズ』の10年を語る⑥(佐久間まゆ編):牧野由依インタビュー
公開日:2021/12/9
2021年、『アイドルマスター シンデレラガールズ』がプロジェクトのスタートから10周年を迎えた。10年の間にTVアニメ化やリズムゲームのヒット、大規模アリーナをめぐるツアーなど躍進してきた『シンデレラガールズ』。多くのアイドル(=キャスト)が加わり、映像・楽曲・ライブのパフォーマンスで、プロデューサー(=ファン)を楽しませてくれている。今回は10周年を記念して、キャスト&クリエイターへのインタビューをたっぷりお届けしたい。第6回は、10月に開催された10周年ツアーの福岡公演にも出演した佐久間まゆ役・牧野由依に、センターを務めた5th LIVEの石川公演など、さまざまなエピソードについて語ってもらった。
(佐久間まゆは)想いの強さがありつつ、スッと一瞬引く瞬間があるんです。その線の引き方が、すごく好きです
――『シンデレラガールズ』が10周年を迎えましたが、2013年から参加されている牧野さんは、『シンデレラガールズ』というプロジェクト全体にどんな印象を持っていますか。
牧野:わたしが入らせていただいたのが2013年ということがまずビックリです(笑)。そんなに経つんですね。ちょうどオーディションを受けさせていただいた頃に、『シンデレラガールズ』のテレビCMがたくさん流れていて、それこそ“お願い!シンデレラ”をテレビからよく聴いていました。なので、オーディションの資料をいただいたときに、「『シンデレラガールズ』って、あの“お願い!シンデレラ”の?」という印象があって、すごいプロジェクトなんだな、という印象がありました。ありがたいことに役をいただいて、年々大きくなっているし、想像をどんどん超えていくプロジェクトだなって思います。
――牧野さんが演じられている佐久間まゆと出会ってから、長い時間が経っていますね。オーディションからと考えると、それこそ10年近くになるわけですが。
牧野:そうなりますね。“エヴリデイドリーム”のシングルが出たのが2013年の11月で、その2ヶ月前の9月あたりにボイスが発表されて――でも、オーディションを受けたのがその5日くらい前でした(笑)。
――(笑)だいぶ近かったんですね。
牧野:もう、あっという間の出来事でした。オーディションが終わった余韻に浸る間もなく、レコーディングがあって。最初は録る曲数も多かったりするので、怒濤のようでした。
――アニメやゲームの登場人物というのは、ある意味フィクションを含むキャラクターですから、突出した特徴があったりしますけど、佐久間まゆという子も、非常に特徴的なパーソナリティを持っていますよね。彼女の最初の印象と、その後楽曲を歌ったり、彼女を演じる中で認識が変わっていった部分について、お話を聞かせてください。
牧野:初期のイラストでは、ほんとに目にハイライトがないんですよね(笑)。輝きが一切ない状態で。でも、表面の部分だけを切り取ってしまうと本人についてあまり詳しく知ることができないので、「なんでそうなのか?」を掘り下げていくと、やっぱりプロデューサーさんの1番になりたい、わたしだけを見ていてほしいという、プロデューサーさんに対して承認欲求がすごくある子なんだなって思いました。だから最初は1対1でしかものを見ない子なのかなって思っていたのですが、それこそデレステ(『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』)のコミュだったり、収録のたびに新しい台本をいただくうちに、数年前からまわりの子との関わり合いだったり、ライブをするときのお客さんに対してまゆちゃんがパフォーマンスをしているところだったり、彼女が持つ責任感もそうですが、対プロデューサーさん以外の部分が見えてきたときに、プロ意識がとっても高くて、まわりも見えていて、その中で自分がどう輝けるかをすごく考えてる子なんだなって感じました。頭の回転が速い子だなって思いながら、最近は演じさせていただいています。
――シンプルに彼女を演じる、表現するときに楽しいと感じる部分・難しいと感じる部分は、それぞれどういうところになりますか?
牧野:圧というか、愛情の重さをどういう塩梅で入れていくかが、難しいポイントだったりします。あまり行きすぎると、ただの恐怖でしかなくなってしまうので(笑)。といって、彼女から重さを取ってしまうと、わりと普通にかわいい感じにも振れていくと思うので、らしさの部分をいい塩梅で残さないといけない、そのバランス感は難しいな、といつも感じていますね。楽しいところは、普段自分の生活の中であまり言わないような表現、アプローチの仕方や心情の入れ方は、まゆちゃんのセリフにはとても多いので、自分が想像してアプローチしてロックオンするときはきっとこんな言い方をするはず、みたいな部分はあります(笑)。そこは想像しながらディレクターさんとやり取りして作っていくのは、すごく楽しいですね。
――特徴的なパーソナリティを持っている子だからこそ、たとえば日常系の作品で演技をするのとは全然違う力学があると思いますが、「こんなセリフもあるんだ?」と印象的だったセリフやシーンもありますか。
牧野:まゆちゃんに関しては、もうほとんどです(笑)。それこそ、今まで歩んできた人生の中で、言ってこなかったセリフばかりでした。ここまでひとりの人に対して一生懸命になって、それを言葉にできるのはほんとにすごいなあ、と思っていて。たとえば「まゆをずっと見ていてくださいね?」とか、わたし自身は言ってこなかったので(笑)。そこで、あまりやり過ぎるとイラっとされてしまうかもしれないですが、よい塩梅を探る面白さはありますね。
――牧野さんの中で、レコーディングや佐久間まゆとしてステージに立つときに、「ここだけはブレないでおこう」と意識しているポイントは何ですか?
牧野:初期の“エヴリデイドリーム”の頃から、わたしが思い描く、アイドルさんの歌風に歌う部分を詰め込んでいるところはあります。テクニカル的なところで言えば、歌をちょっとはね上げる感じにするのは、ずっと意識するようにしています。あとは、まゆちゃんって、ある程度距離があるところに行ったかと思ったら、グッと近寄ってきて、吐息っぽくしゃべってくるようなイメージがあって。なので、とにかく息成分を多くするのは、わりと心がけています。
――なるほど。気持ちの部分ではいかがですか。
牧野:もう、牧野は一切出さない(笑)。歌っているときは牧野由依ではなくて、佐久間まゆちゃんが、たとえば『デレステ』で歌っているときの表情を――もちろん、完璧にコピーができているわけではないですけど、「この子が実際にステージの上に立ったらこういう感じなんだろうな」というイメージは、本番前に膨らませるようにしています。みんなと同じ振りをやっていても、まゆちゃんだったらきっとこの角度でやるかな、とか。彼女の場合、衣装がとても印象的で、フワッとしている感じがあるので、その感じも再現できたらいいな、と思って、身体の使い方もまゆちゃんに成り切るというか、ステージ上でも演じる心積もりでやっています。
――佐久間まゆの好きなところについて訊きたいんですけども、想いの強さこそ彼女のらしさと感じますが、牧野さんが彼女を好きだな、と思うのはどんなところですか?
牧野:想いの強さがありつつ、スッと一瞬引く瞬間があるんです。それは彼女なりの、「ここまでは行ってもいいけど、これ以上行くとよくない・得策ではない」みたいな感じで、スッと抜く瞬間があるんです。わたしは、その線の引き方がすごく好きです。押して押して、だけではない駆け引きをする――というか、たぶん駆け引きだと思ってやっている感じではないと思いますけど、自然とそういうことができる人なんだな、と思っていて。女性の勘というか、まゆちゃんの感性が好きですね。
――生まれ持った奥ゆかしさ、みたいな?
牧野:そうなんです。もう計算では人ができないような勘が、なんか気になっちゃいます(笑)。
――(笑)一歩引けるって、素敵ですよね。
牧野:そうですね。で、引くタイミングがまた絶妙なんです。そこを見極めるのが、難しくもありつつ。
――なるほど。引かなきゃいけないのに押してる感じになっちゃうと、演技がズレちゃうと。
牧野:そうなんです。帳尻が合わなくなっていくか、終わりに向かってどんどん盛り上がっていくしかなくなってしまうので(笑)。多少の引き算はしていかないといけなくて、そこはほんとにまゆちゃんとの共同作業だなって、いつも思っています。
このプロジェクトに関わらせてもらうのが楽しいし、ほんとによかったなって、心から思う
――『アイドルマスター シンデレラガールズ』の特集でいろいろな方に話を聞いてきましたが、牧野さんが何度か話題になっていまして。5th LIVEの石川公演で牧野さんがメインを務めたときのエピソードを、洲崎綾さんが思い出深いライブとして話してくれたんですが、牧野さんがそのライブに向けてすごく頑張っていた、という話だったんです。5thの石川公演を、牧野さん側から振り返ってみてもらえますか。
牧野:石川公演の前が宮城公演で、そのセンターをやってたのが松嵜麗ちゃんで、ライブビューイングで観させていただいたんです。準備しているときからご本人に話を聞いていて、すごく頑張ってるなあって思いながら、わりと他人事のように見ていたところもあったんですが、石川公演の台本をいただいたら、真ん中に「牧野」って書かれていて、ギョッとした記憶があります(笑)。というのも、わたしは2nd LIVEに出させていただいて、3rdは出ていないんです。3rdはアニメーションとのリンクもあったライブだったりして、そのときにみんなも役や作品に対する思いを強めていた印象があったんですね。で、4th LIVEで久しぶりに出させていただいたんですが、そのときに「感覚が追いついてないな」って思ってしまって。「わたしは『シンデレラ』の中では新参者だ。これは何もわかってない、わたし。ヤバい」と思った状況のまま、5thの石川公演で真ん中、みたいな感じだったので、「うわ~~~~!」と(笑)。
正直な話、「麗ちゃんがあれだけのことをやってたし、わたしにそれができるのかな」って、当時かなり悩みました。わたしは人見知りがすごくて、人とコミュニケーションを取るのが得意なほうではないし、自分は新参者だって勝手に思い込んでいて。その中で、会場が石川なので、洲崎綾ちゃんに「石川の言葉を織り交ぜながらトークしてみるのもツアー感があっていいと思うから、教えてほしいんだ」と聞いてみたり、石川の言葉で、別の地域の人が聞いたらわからない言葉のクイズをMCでするのはどうだろう?みたいな話をして――忘れもしない、恵比寿のカフェに来てもらって、そんな話を2時間くらいしました(笑)。それから綾ちゃんが、実際に石川の言葉でボイスメモを吹き込んでくれて、それをLINEでみんなに回してくれたりして。それまでは、「ステージに立たせてもらってる」みたいな感覚でいたんですけど、「自分たちも参加して作っているんだ」という意識が芽生えた気がします。
――もうひとつ、牧野さんを話題にしていたのが松井恵理子さんでした。“ガールズ・イン・ザ・フロンティア”のレッスンのときに、牧野さんとご一緒したと。松井さんが自分の中に振りが入ってなかったときに、「もし時間があるなら一緒にやりませんか」って誘ってもらって、ふたりで踊りまくったとのことで。
牧野:覚えてます(笑)。6thのレッスンのときの話ですよね。振りが難しいというか、振り数は多くないけど、形をしっかりキメないとなかなかカッコよくならない感じで、振り入れのときになかなかわたしも振りが入らなかったので、松井恵理子ちゃんと一緒に練習した記憶があります。そっか、そのときわたしもいっぱいいっぱいだったんですけど(笑)、彼女も覚えていてくれたんですね。
――“ガールズ・イン・ザ・フロンティア”も、いろんな方の取材から名前が出る曲なんですよ。
牧野:『シンデレラガールズ』にはきれいでかわいい、あとは凛としている曲や歌詞の印象がありますけど、“ガールズ・イン・ザ・フロンティア”にはわりとむき出し感があるなって、わたしは思います。それは、初めて聴いたときに感じました。
――『シンデレラガールズ』の中で、牧野さんが好きだなって思う曲と、その理由を教えてください。
牧野:自分が参加した曲、ですか?
――自分は関わったことないけどこの曲好き!でもいいですよ。
牧野:それでいうと、白菊ほたるちゃんの“谷の底で咲く花は”がめちゃくちゃ好きです。初披露のステージでご一緒していて。『Comical Pops!』のときかな? 天野聡美さんが大型ライブに出るのはそのときがたぶん初めてで。初めてライブに出るのにソロ曲の初披露があるっていう……緊張とプレッシャーに押し潰されそうになりながら、ゲネプロやリハーサルをしている姿も見ていました。天野さんの心境や状況と、ほたるちゃんの雰囲気、会場のプロデューサーさんの応援する気持ち、そのすべてによって、とても感動的な光景ができ上がっていたなあのがすごく印象的で。ライブで、自分の出番前に号泣したのは初めてでした(笑)。確か、その次の曲を自分が歌うことになっていて、センターステージでほたるちゃんが歌い、サブステージの下で待機をしながら小さなモニターで観て号泣してしまい、次の曲で真っ赤な目をして歌うという(笑)。すべてが奇跡的に重なって、素敵な空間になっていたなって思います。
――この質問でご自身が関わっていない曲を話してくれたのは牧野さんが初めてだと思うんですけど、ものすごくいい話ですね。
牧野:自分が歌わせていただく曲は、とにかく完成度を上げることに対して心が動くというか、タスクをどんどん減らしていくようなことをやっているところがあるので、それよりもまわりの方のパフォーマンスをつい観てしまいます(笑)。“谷の底で咲く花は”は、モニターで観ていると引きの画とかもあって、辺り一面幕張メッセのぶち抜きの広い空間で、センターステージに向かって皆さんが白い光を一生懸命送ってるんですよ。それがもう、ただの光に見えなくて。プロデューサーさんの「頑張れ」っていう思いとか、祈るような気持ちが目で見えたような感覚がありました。振り付けとして曲の途中で「座る」というアプローチもそれまではあまりなかったと思います。でも、へたり込んでしまうような座り方も含めて、すべてがマッチしていて、もう鷲掴みされました(笑)。本当に見てほしいですし、奇跡の1曲だと思います――すみません、自分の曲じゃなくて(笑)。
――(笑)牧野さんも出演した10月の福岡公演、どんな時間でしたか?
牧野:まず、10周年のツアーの中で福岡公演があって、そこにキャストとして入れていただいたことがすごくありがたくて。1月の『Happy New Yell!!!』にも出演させていただいたんですが、幕張メッセに客席がなくて、スタッフさんしかいない状況の配信ライブを経験したことで、プロデューサーさんが目の前にいらっしゃることが、こんなにもありがたいことなんだなって、改めて実感する時間でした。
――それこそプロデューサーさんがいないと、牧野さんが感動したほたるの曲のような風景は生まれないわけですし。
牧野:そうなんです。曲があってお衣装があって、アイドルがいる以上、形としては『シンデレラガールズ』のライブにはなるんだとは思うんですよ。でも、やっぱりプロデューサーさんがいてくださって初めて完成する部分は、確実にあるなって感じます。やっぱり始まる前に感じる空気感も明らかに違いますし、ライブが始まる前に「プロデューサーさんがいらっしゃってるんだな」と熱を感じる瞬間に、自分もいろんな感情を与えてもらっていたんだなって、改めて気づきました。
――牧野さんにとって、『アイドルマスター シンデレラガールズ』とはどういう存在ですか。
牧野:常にチャレンジをして、進化をし続けている作品だと思います。今回の福岡公演でも、それは感じました。「こうやるでしょ?」と思うことを、いい意味で裏切ってくれていて、そういう面白さと強さがすごくあります。このプロジェクトに関わらせてもらうのが楽しいし、ほんとによかったなって、心から思います。
――これまで一緒に歩んできた佐久間まゆに、牧野さんからかけてあげたい言葉、伝えたいことはなんですか。
牧野:「思いの強さは絶対に裏切らないよ」って、声をかけてあげたいです。彼女のプロデューサーさんに対する思いはずうっとあり続けていて、それによって輝きを放っていると思います。その輝きが、パフォーマンスとして昇華されるものにつながっていたりするので、恋する女の子はきれいになっていく、じゃないですけど、それが原動力でどんどん素敵な女の子になっていってると思います。プロデューサーさんを追いかけてばかりはつらいかもしれないですけれども、その思いの強さは裏切らないから大丈夫だよって、声をかけてあげたいです。
取材・文=清水大輔