5つの名曲たちにより浮かび上がる、内田彩のルーツ――『woven songs』内田彩インタビュー

アニメ

公開日:2021/12/11

woven songs

名曲に新たな魂が吹き込まれる。J-POPの名曲を声優たちが歌うカバーミニアルバムシリーズ『woven songs』。4人の声優が、これまで親しんできた名曲をそれぞれ5曲ピックアップ。その名曲へリスペクトを込めて、まるで役を演じるかのように歌い上げた。

この『woven songs』のリリースに合わせて、4人の参加声優にインタビューを実施。それぞれの楽曲に込めた思いを語ってもらった。

第3回に登場してもらう内田彩が選んだテーマは、『COVER~LOVE』。5曲の歌唱を通して浮かび上がってくる、表現者・内田彩の「ルーツ」について、全曲のレコーディングが完了した直後に話を聞いた。

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大好きだからこそ、「こういう気持ちで歌いたい」を考えるのが楽しかったので、その気持ちが乗っているのかも

――まずは、『COVER』に参加することになった経緯を教えてください。

内田:マネージャーさんとお会いしているときに「こういうお話をいただいたんですけど」って伝えてくれて。「やりたいやりたい!」ってなりました。「絶対楽しい!」って。

――特にどのあたりが楽しそう!と感じましたか。

内田:声優なので、職業柄アニメソングをカバーさせていただくことはよくありますし、「好きなアニソンはなんですか?」と聞かれるのは身近なことですけれども、アニソン以外の曲でカバーアルバムを出させていただけるなんて、正直考えてもいなかったので、「えっ、いいんですか!?」みたいな(笑)。自分の中でやりたかったことというよりは、やれるとも思っていなかった憧れだったので、嬉しかったです。

――内田さんが歌う5曲は、いずれも90年代のJ-POPの最高峰!という楽曲たちですが、選曲にはどのように関わっているんですか?

内田:お話を聞いてすぐ、「えー、なに歌おうかなあ」と考えていて。もう楽しすぎて、「何がいいですかね?」って、マネージャーさんときゃっきゃしながら帰りました。自分なりにいろんな曲、たとえば月をテーマにした5曲、お花をテーマにした5曲、それと単純に楽しい曲を5曲集めるのはどうかな、とか、ひとりでいっぱい考えていました。あえて男性ボーカルの曲を5曲歌うのはどうかな、とか。今回は女性ボーカルの曲にしましたけど、世代で言うとL’Arc〜en〜CielさんやGLAYさんのようなバンドの曲をやるのはどうだろう、というのも考えて。曲を選ぶ時間が、一番楽しかったです。その中で今回選ばせていただいた5曲も含む話になって、「そんな王道を行っていいんですか?」と。

――王道も王道ですね(笑)。

内田:ちょっとこう、ドキドキしちゃいますよね(笑)。「恐れ多いです……」みたいな気持ちで考えつつ、5曲に決めるのが難しくて。わたしにとってのド直球というか、今までたくさん聴いてきたアーティストさんの中から、好きな女性ボーカルさんのお名前を出していって、決まりました。その中でこだわったのが、J-POPに興味を持って聞き始めたのが小学校にあがってから中学生くらいの間で、そのときに流行っていた曲をメインにしてもらうことでした。

――事前にglobe・安室奈美恵さん・宇多田ヒカルさんのカバー曲の音源を聴かせてもらったんですが、「これは正しいカバーソングだな」と思いました。

内田:ええー! やったー!

――というのも、内田さんは声の仕事をしているわけだから、声を似せたり歌い方を近づけたりは、技術的にはできると思うんですよ。でも似せるだけだと、カラオケやコピーであってカバーじゃない。でも内田さんが歌う曲はどれも元歌のボーカリストの方へのリスペクトを感じるし、同時に「内田彩の歌」になってるんですよね。

内田:よかったあ。レコーディングでは、毎回大騒ぎしてました。「ああ、頭の中のKEIKOさんが出て行ってくれない!」って(笑)。冗談ではなく、カセットテープが擦り切れるまで聴いてた曲たちなので、もう覚えちゃってるんですね。

――この歌の正解はこれ、を音として知っているわけですね。そこから意図的に変にずらすのも違うし、完コピするのも違う。そのどっちでもないところをぶち抜かないとカバーにならないから、その点ではかなり難しいレコーディングになんでしょうね。

内田:いやあ、ほんとに難しくて。「カバーってなんだ、カバーの正解はなんだ、難しい」と毎回なっていて、スタッフの皆さんにお付き合いいただいています(笑)。

――1曲目のレコーディングから「カバーってなんだ!?」にぶち当たって、最後の5曲目まで「カバーってなんだ!?」って言い続けたと(笑)。

内田:5曲目が一番抜けなくて、大変でした(笑)。やっぱり5曲通して、「ただのモノマネ大会、カラオケ大会になっちゃう! どうしよう?」から抜け出すのが、すごく大変だったんです。そこで学んだことは、「最初は本当に気にせずにとりあえず歌う」でした。最初に正しくその曲を歌ってみよう、節とかも全部ご本人と同じになっちゃうけど、とりあえず歌って、歌うことに自信がついてきたら、少しずつキーを変えてもらって、自分の声が出しやすいところを探したりしていくのが、わたしには合っていました。

――なるほど。しかし同時に、このCDを受け取る人は原曲も好きかもしれないけど、たとえばglobeを歌う内田彩の歌、を聴きたいわけで――。

内田:そうなんです。だから、難しくて。ずっと「内田彩みが出てこない~!」って言いながら、レコーディングをしてましたね。「まだ語尾が全部KEIKOさん、どうしよう」って(笑)。

――再現できてればいい、というものでもないですし。

内田:はい。「再現の先にいかなくてはいけないんだぁぁ~!」って。

――再現の先にいくには、そこに「内田彩み」が出ないといけないわけですけど、そもそも「内田彩み」って何だと考えていましたか?

内田:声はわたしのはずなのに、「内田彩み」がないな、と思ってしまって。ただの再現になってしまわないように、ご本人の歌の、「ここでこう歌って、ここで切る、ここで抜く」を全部なぞるのではなく、「わたしのクセってなんだろう?」を思い出しながら頑張りました。

――(笑)さっき正しいカバーだと思います、と伝えたけど、同時に、「いい意味で遠慮がない歌だな」とも思いました。リスペクトはもちろんありつつ、遠慮はないっていう。

内田:ほんとですか。でも、遠慮はしていないかもしれないです。大好きだからこそ、「こう歌う」「こういう気持ちで歌いたい」を考えるのが楽しかったので、その気持ちが乗っているのかもしれないです。「せっかくやらせてもらえるんだし、こんな機会ないぞ。やってやるぞ!」みたいな気持ちはありましたね。もし何かのはずみで、ご本人たちの耳に入ることがあったときに、「いいカバーしてくれてるな」って思ってもらえるように――それくらい、自分の好きなアーティストさんの曲を歌わせてもらうことって、なんかこう、すごかったです(笑)。

――(笑)すべて「神曲」なだけに、緊張感もあったんじゃないかと思いますが、レコーディングにはどんな準備をしてレコーディングに臨んだんでしょうか。

内田:事前に聴いていっちゃうと、ただでさえ刷り込まれているご本人のボーカルが、ありありと出てきちゃうんですね。だから、「レコーディング当日や直前は聴かない!」と決めて、いただいたアレンジバージョンのオケを聴いて集中するようにしてました。でも、原曲は全然抜けないんですけど(笑)。それで、一回好きに歌うようにして、ちょっとずつ楽しい気持ちと盛り上がってる気持ちが共存していくようになりました。

――5曲とも、もともと知ってる曲だと思いますけど、歌っていて思わずグッときちゃった部分もあったりしますか?

内田:今回「この5曲にしよう」と決めたテーマが、今年わたしが35歳になったこととも関係していて、いい意味で大人の女な感じにしたいと思っていました。女性として、大人の階段を上った気持ちがあるんですね。そのタイミングで、自分が音楽に触れてきた少女だった頃に大好きだった曲たちを今歌わせてもらうことに、自分の中でビシビシと何か感じるものがありました。今回は“FACE”を歌わせてもらったんですけど、この歌は、戦う女というか。恋に仕事に、ときには傷つきときには泣き、それでも前を向いて頑張っていく、明日に向かっていくところが、すごくいいなと思って。“FACE”もたとえいろいろあっても、玄関のドアをひとりで開けていく、という歌なので。それと“First Love”は、中学校の職業体験があって、地元のラジオ局に行ったときに「1曲だけリクエストかけていいよ」って言われて、「“First Love”かけてください」ってお願いして。

――へえ~、そんな思い出が。

内田:はい、それぞれに思い出があって。当時は「“First Love”は大人っぽい曲だな」と思っていて、タイトルを直訳すると初恋、最初の恋みたいな感じだと思うんですけど、「次の出会いを探そう」みたいな歌でもありますよね。いろんな女性の、「今日も会社頑張ろう」「新しい道へ行こう」という気持ちを歌っているような気がして、5曲の中でも一番しっとりしているけど、最後に前を向いているってところが大好きです。

内田 彩

わたし個人としてのいろんな側面を見せていけるきっかけにもなったら嬉しい

――大人の女性、というキーワードが出てましたけど、それってこのアルバムを作る上でのひとつのキーワードでもあり、内田さんがこれからも表現者として活動をしていく上で、ある意味このアルバムがひとつの始まりになりそうな気がしますね。

内田:おおっ! 何が始まるんだ!?

――「大人の女性」であることを自覚した上で、そこから表現されていく、という。

内田:そうですね。そういう楽曲をチョイスさせてもらいました。

――それって、聴く人にとっては意外性もあるかもしれないですよね。

内田:確かに。好きだったアニソンを語る機会は多いんですけど、幼少期を何聴いてたのかを語る場はあまりなくて。意外と強い曲ばかりを選んでいるし、もしかしたらもっとかわいい曲で来ると思っていた人もいるかもしれないですね。

――内田さん自身の音楽活動を知ってる人からしても、もうちょっとふわっとしたイメージを持ってる人は多いんじゃないですか。そういう意味でも新しいと思います。

内田:そうかもしれないです。今までとは違う感じの歌を聴いてもらえると思います。

――それに、「人としてのリアル」が作品に投影されてるかどうかで、与える印象が全然違ってくると思うんですよ。「もうわたしは大人です」っていう。

内田:はい。もちろんアニメは好きですけど、アニソンだけを聴いて育ってきたわけではなくて、「こういう曲を聴いて育ってきたよ」がわかってもらえると嬉しいですね。

――収録を終えたばかりですが、このカバーアルバムを制作した経験は、今後の内田さん自身の活動にどんな影響を与えると思いますか?

内田:このアルバムを作らせてもらうことになったときに、どの年代のどんな曲を、どういうテーマを持ってファンの人に聴いてもらうか、を考えたんです。その意味で今のわたし、アニメの声優、というところ以外でのわたしをみんなに見てもらえるのはすごくいいことだなって思いますし、これからわたし個人としてのいろんな側面を見せていけるきっかけにもなったら嬉しいです。今って、みんなが一気に同じものを観ることが減っているじゃないですか。新しい文化を取り入れてみたり、新しいことに挑戦していくのはもちろん大事なことですけれども、わたしたちが生きてきた時代、みんなが大好きだった楽曲を通して「いやー、いい時代だったんだよ~。大好きなんだよ」という気づきがあったので、新たな自信というか、そういう影響はあった気がします。

そうだ、ひとつ言うのを忘れてました! わたしのテーマは「ルーツ」で、自分が「この曲が好き!」って言ってCDをお母さんに借りてもらって、たくさん聴いていた曲たちを選んでいます。「カッコいいな」ってわたしが憧れていた女性のボーカリストさんたちの曲です。

取材・文=清水大輔

声優カバーアルバム woven songsシリーズ
内田彩「COVER~ROOTS~」
2021年12月15日発売
POCE-12170 2,420円(税抜価格 2,200円)
<収録内容>
1. I’m Proud
2. Dear My Friend
3. Don’t wanna cry
4. FACE
5. First Love

声優カバーアルバム woven songsシリーズ
公式twitter:https://twitter.com/Woven_songs
公式サイト:https://www.wovensongs.net