「若さ」「青さ」を体現した、伊東健人が選ぶ名曲たち――『woven songs』伊東健人インタビュー
公開日:2021/12/14
名曲に新たな魂が吹き込まれる。J-POPの名曲を声優たちが歌うカバーミニアルバムシリーズ『woven songs』。4人の声優が、これまで親しんできた名曲をそれぞれ5曲ピックアップ。その名曲へリスペクトを込めて、まるで役を演じるかのように歌い上げた。
この『woven songs』のリリースに合わせて、4人の参加声優にインタビューを実施。それぞれの楽曲に込めた思いを語ってもらった。
第4回は、伊東健人の登場。声優としての活躍のみならず、コンポーザーとして楽曲提供するなど、幅広い音楽活動でも知られている。「YOUTH」というテーマで彼が選んだ5曲とは?
大人になってわかる、少年のときに聴いた名曲の良さ
――最初に「woven songs」の企画を聞いたときのお気持ちをお聞かせください。
伊東:正直、最初は「どうしよう?」と思いました。選びたい歌が多すぎて。J-POPには数多くの名曲と呼ばれる楽曲がありますし、これまでたくさんの歌を聴いてきたので、マネージャーに「どうしたらいいですかね?」と尋ねたのを覚えています。選曲するうえで何か縛り(ルール)を作らないと決められそうもないな、と思いました。
――アルバムは「YOUTH」というテーマになっていますね。このテーマはどんな経緯で決められたのでしょうか。
伊東:「YOUTH」とは若さ、青さという意味ですね。いろいろと考えた結果、自分が若いころに人気を集めていた歌を選ぶことにしました。
――伊東さんが小・中・高の学生時代に注目をあつめていた歌がラインナップされていますね。
伊東:あと、もうひとつ裏のテーマとして2000年前後の女性ボーカルの楽曲を選んでいます。
――おもしろいテーマですね!
伊東:それくらいの縛りを作らないと、選びきれないなと思って。最初にテーマを決めました。
――小・中学生のころから音楽はお好きだったんですか?
伊東:実は今回選んだ楽曲は、当時リアルタイムで聴いていた歌……というわけでもないんです。当時、テレビやゲームを通じて、そういう歌があることは知っていて。自分が年を重ねて大人になっていくうちに、いろいろな機会で昔の歌を聴くことがあって、そういう時にメチャクチャ良い曲だな、と思った歌を今回は選んでいます。
――伊東さんはご自身で歌うだけでなく作曲も含めた音楽活動も積極的で、楽曲提供もされています。子どものころに聴いていた曲を、あらためて大人になって聴き直すことは多いのでしょうか。
伊東:子どものころに「この曲は良い曲だったなあ」と感じた記憶はあるんです。でも、なぜ良い曲なんだろう、という理由は当然わかっていないんですよね。いまなら「なぜ良い曲か」がちょっとはわかる。当時好きだった曲を歌ってみると、よりすごさがわかることもある。そういうかたちで、昔の曲の偉大さをあらためて感じることはあります。
――今回の歌われた5曲以外に、歌ってみようと考えた候補曲はありましたか?
伊東:とりあえず最初にちょっとでも良いな、と思う曲をどんどんリストアップしていったんです。その段階では何の縛りも作っていなかったので、男性ボーカルの曲もあれば、最近の曲もたくさんありました。そこから女性ボーカル、昔の曲に絞ろうと、泣く泣くリストからたくさんの曲を外しまして。だいたい10曲くらいにして、そこにマネージャーが考えてくれた候補曲をくわえ、LINEでやり取りをして「今回はこれを歌おう」と決めていきました。
2000年という特別な時代の空気を感じて
――今回歌われた5曲について、それぞれの楽曲への思いをお聞かせください。一曲目は「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」。こちらはCHARAさんをボーカルとするYEN TOWN BANDの楽曲。映画「スワロウテイル」の主題歌です。こちらの曲はどんなきっかけで決めたのでしょうか。
伊東:大学生のときに軽音楽部に入っていたんです。それでコピーして、良い曲だなと。それが最初の出会いです。そのとき僕は歌っていなくて、ドラムを叩いていたと思うんですけど。
――学生時代に出会った曲だったんですね。学生のころからバンド活動はされていたんですか?
伊東:高校のときは軽音楽部がなかったので、有志のメンバーでバンド活動をしていて。大学に入ってもバンド活動でいろいろとライブをしていたんですけど、それとは別に大学内で軽音楽部に入って、楽しくいろいろな曲をコピーしていました。その軽音楽部は人数が多くて、みんな音楽の趣味もバラバラだったので、いろいろな曲を演奏しましたね。
――学生のころにバンドで活動しているころはどんな音楽性だったんですか。
伊東:外のバンドではオリジナル曲をやっていました。僕が曲を作っていたわけでもないし、歌っていたわけでもなかったんですが。そのときにやっていた曲は……疲れないタイプのロックと言いますか(笑)。くるりとか、そういうバンドが好きでしたね。ギターソロとか早弾きがあるようなロックは苦手でした。
――楽器は何を担当していたんですか?
伊東:ベースを弾いていました。
――軽音楽部だとドラム、バンドだとベース。基本的にリズム隊を担当されていたんですね。軽音楽部だと、リズム隊は引く手あまたなのでは?
伊東:そうでしたね。やっぱりギターとボーカルの人数が一番多いんです。僕は「歌いたい」というタイプじゃなかったので。ずっとベースやドラムを担当していました。
――「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」のリリースは1996年ですが、だいぶ時間が経ってからの出会いだったんですね。実際、歌ってみていかがでしたか。
伊東:今回歌っている曲は全部女性ボーカルということもあり、歌いやすいようにキーを変えているんです。「Swallowtail Butterfly」では元の曲のアンニュイな感じを活かそうと考えていました。ちょっと口角下げ目で、キーもあえて下目にして。声を張り上げないように。おそらく消費カロリー的にはたぶん5曲の中で一番小さいです(笑)。
――2曲目「memories」です。この曲もオリジナルのリリースは2000年ですね。
伊東:この曲はアニメ『ONE PIECE』の最初のエンディングテーマだったんですよ。だから、聴いてはいたんですけど、小学生くらいで「小さなころには~」みたいな歌詞を聞いても、ちょっとわからないですよね(笑)。20代になって声優の仕事を始めたあと、先輩とカラオケに行ったときに、川野剛稔さんという81プロデュースの先輩がこの曲を歌っているのを聴いて、これは良い曲だなと思ったんです。川野さんといっしょにカラオケに行くと、すごく良い選曲をされるんですよ。
今回、歌う曲を決めるときも、川野さんがカラオケで歌っている曲が何曲か頭に浮かんだんです。「The Real Fork Blues」(カウボーイビバップのエンディングテーマ)とか、「輝け!ラーメンマン」(『闘将!!拉麺男』オープニングテーマ)とか。その中から、一曲を選んだのが「memories」です。カラオケで川野さんがこの曲を歌っていると、カラオケの映像が「ONE PIECE」のサンジが旅立つシーンになるんです。海上レストランの船にサンジが別れるシーンにこの曲が流れると……最高です!(笑)
――たしかに! そんなエモーショナルな楽曲をレコーディングしてみていかがでしたか。
伊東:たぶん、この曲が一番シンプルだと思うんです。スピードもミドルテンポで、アルペジオで始まって、Bメロとサビにかけて盛り上がっていく。ギターもしっかり鳴っている。自分の中ではRadioheadの「Creep」みたいな曲だなと。そういう感じのエモさを出せれば良いなと思っていました。
――3曲目は「TIMING」。バラエティ番組「ウッチャンナンチャンのウリナリ!!」から生まれたブラック・ビスケッツの名曲です。
伊東:たぶん小学生のころだと思うんですけど、「ウッチャンナンチャンのウリナリ!!」を見ていたんです。
――ポケビ(ポケットビスケッツ)よりはブラビ派だったんですか?
伊東:いや、正直、小学校のときはポケビ派だったんですけど(笑)。これも大人になって、あらためて良い曲だなと思うことがあったんです。「JOYSOUND presents 小山剛志カラオケ企画 カラオケMAX」というイベントがありまして、そこで立花理香さんが踊り付きでこの曲を歌っていたんです。それを見て「めっちゃ良い曲だな」と。
――歌ってみていかがでしたか?
伊東:この5曲の中でそろそろ明るい曲を入れなくちゃいけないな、と。「TIMING」は元気さを大事にしようと思っていました。
――4曲目はCoccoさんの「焼け野が原」。リリースは2001年、伊東さんが中学生だったころの曲ですね。なぜこの曲を選んだのでしょう?
伊東:Coccoさんの曲を一曲歌いたかったんです。あと、この曲は5曲全体のバランスを考えてましたね。Coccoさんの楽曲の中でも、ハッピーな歌詞ではないんですけど、光がみえるような感じが良いなと。そもそも僕は「暗い歌詞で明るい曲調」の楽曲が好きなんですよ。そういう曲に、魅力を感じるんです。
――実際に歌ってみて、いかがでしたか。
伊東:5曲の中で一番エネルギーを使いましたね。この曲は最初に提示されたキーよりも高くしたんです。そのことで、自分の中のパワーを出そうと、声を上げ目にして。張ったときの音を聴かせようと思いました。
――5曲目の「光」は宇多田ヒカルさんの楽曲。ゲーム「キングダム・ハーツ」テーマソングとして2002年にリリースされました。ゲームでこの曲を知ったそうですね。
伊東:この曲は中学生のころに聴いていましたね。この曲がリリースされたときは、宇多田さんは19歳から20歳くらい……。僕のほうが宇多田ヒカルさんよりも年下なんですが、すごく大人の曲だなと感じたんです。でも、僕が大人になってこの曲を聴くと、ただの大人っぽさだけでない、たくさんのメッセージが詰まっていて。当時の時代の空気や状況が織り込まれているんですよね。そもそも歌の世界って、小説と同じようにファンタジーを描けるものだと思うんです。でも、この曲は絶妙に生々しくて、日常感がある。たしか、PVも宇多田ヒカルさんがお皿を洗っているワンカットの映像なんですよね。PVも含めて、すごくセンスを感じて。敬意を抱きながら、この曲を選ぶことにしました。
――伊東さんもコンポーザー、アーティストとして活動されていますが、宇多田ヒカルさんのテクニカルなすごさみたいなものは、どのように感じていますか。
伊東:コンポーザーとしてのすごさもありますが、シンガーとしてのすごみを一層感じていますね。宇多田ヒカルさんの楽曲は、聴いているとすごくキャッチーなんですけど、どの曲も歌ってみるとめちゃくちゃ難しい。シンガーとしての技術を豊富にお持ちでいながら、歌にビブラートをたくさんかけるようなシンガーじゃない。プレーンな声だけで、歌の世界を広げていける。そうやって宇多田さん自身がすごい歌唱力でさらっと難しいことをやられているから、気づかないんです。その才能に恐れおののきつつ、自分としては挑戦のつもりでこの曲を歌わせていただきました。
――この曲のレコーディングは、どのように臨みましたか。
伊東:宇多田ヒカルさんのシンガーとしてのすごさにリスペクトを捧げようと思って、音を伸ばすところ、音を切るところも、長さをしっかりと揃えようかなと。レコーディングしてみると、2サビ以降にたくさんフェイクを入れているんです。このフェイクは宇多田ヒカルさんの遊び心だと思うんです。でも、そこもしっかり踏襲しようと思って、本歌を録るのと同じくらい、いやそれ以上に、フェイクのレコーディングをしていたと思います。近づいてみることでわかるすごさを、あらためて感じました。
――今回の5曲は伊東さんの少年時代の楽曲です。その楽曲の魅力をあらためて実感されたのは大人になってのことだとおっしゃっていましたが、少年時代のことを思い出すことはありましたか。
伊東:なんとなくですけど、2000年前後はやはり特別感があるなと感じていましたね。時代的にも、大きく動いた時期だと思います。自分も中学生から高校生になっていく多感な時期で。そういう変化は自分の心や頭の中にも残っているんだろうなと。「光」を歌っていたときにも感じていましたが、小、中、高のときに聴いていた音楽や歌詞は、おそらく一生忘れないんでしょうね。
――そういう意味ではこの「woven songs ~YOUTH~」では、伊東さんの身体に染み付いている楽曲を歌っているわけですね。
伊東:今回、バックトラックを作って仮歌を入れたものを事前に用意していただいていて……でも、申し訳ないんですが、正直言うと一度くらいしかデモテープを聴いていないんです。歌えるから(笑)。一度聴いてキーとアレンジを確認したら、だいたいもう歌えるという感覚がありました。
――それは一番素晴らしいことですね。伊東さんご自身の中にある歌への想いをレコーディングしてくださったわけですから。
伊東:初めてこの5曲を聴くという方もたくさんいらっしゃると思うんです。いまの20代前半の方々にとっては、生まれる前の曲もあると思います。こういう機会に「良い曲があるんだ」と思ってもらえれば嬉しいです。自分もそういう経験をしてきて、多くの曲を知ってきました。ぜひ、このCDを通じて、2000年の名曲の良さを感じてもらえれば嬉しいです。
取材・文=志田英邦
声優カバーアルバム woven songsシリーズ
伊東健人「COVER~YOUTH~」
2021年12月15日発売
POCE-12173 2,420円(税抜価格 2,200円)
<収録内容>
1. Swallowtail Butterfly ~あいのうた~
2. memories
3. TIMING
4. 焼け野が原
5. 光
声優カバーアルバム woven songsシリーズ
公式twitter:https://twitter.com/Woven_songs
公式サイト:https://www.wovensongs.net