宮原颯希「人前で歌えるようになった今、自分で変わったなと感じます」【声優図鑑】
公開日:2021/12/20
キャラクターの裏に隠された自分自身をありのままに語る、ダ・ヴィンチニュースの恒例企画『声優図鑑』。第276回目に登場するのは、TVアニメ『CUE!』赤川千紗役などを演じ、声優ユニット『DIALOGUE+』のメンバーとしても活動する宮原颯希さん。
「このお仕事を始めてから変わりました」という今だからこそ語れる、声優始めるまでの葛藤や、これからの展望について話していただきました!
10年後20年後に後悔したくなかった
——2016年開催の81オーディションで特別賞を受賞して、今の事務所に所属されています。昔に遡って、幼少期はどんな子どもでしたか?
宮原:3人兄弟の末っ子で、保育園の連絡帳に親が「世界が自分を中心に回っていると思い込んでいる」と書いているくらい“自己中”な子どもでした(笑)。でも小学校2年生の時に、学校で有志が参加するマラソン大会が開催されて、周りは走るのが得意な子ばっかりだったのに、私は楽しそうという気持ちだけで参加してしまったんです。もうみんなゴールしてるのに、私だけまだ走っていることが恥ずかしくて、それがトラウマに…。それから今に至ります(笑)。
——子どもの頃のトラウマって後に残りますよね…。声優に憧れたのは、『るろうに剣心』に出演されていた涼風真世さんの演技がきっかけになったそうですね。
宮原:はい。小学校2年生くらいの時、テレビ番組に出演されていて、すごくお上品な感じなのに、緋村剣心のセリフを言った時にガラッと雰囲気が変わったことに感動して。めちゃくちゃかっこいいなって憧れました。実際に声優の業界に入ったのは81オーディションなんですが、それまでにも別のいきさつが…。
——何があったんでしょうか!?
宮原:小学校の卒業アルバムにも「将来の夢は声優」と書いたくらい憧れていたんですけど、中学や高校になると、声優として食べていけるのは限られた人だけだっていう現実が見えてしまって、声優への道は憧れのままにしておこうと…。両親が医療系の仕事でその姿に憧れも抱いていたので、自分も病院で働く仕事を考えるようになりました。
——小さい頃の夢がそのままずっと、というのはなかなか難しいのかもしれませんね。
宮原:そうですよね。でも演技への憧れはあったので、高校では演劇部に入ったんです。ある時、他校と合同練習していたら、名コーチと呼ばれる人から「あなた、すごくいいわね。みなさん、この人を見本に練習して」と言われる機会があって、今まで自分の能力をそんなふうに褒められることはなかったから、純粋に嬉しくて。もしかしたらお芝居が向いているかもしれないと思って、オーディションを受けてみよう、高校3年生の夏までに受からなかったらあきらめよう、と決意しました。
——そこで受けたのが81オーディションだったんですね。その後、声優という仕事に対する不安は払拭されていきましたか?
宮原:いえ、やっぱり不安はあったので、すごく悩みました。でも、もし自分が声優をあきらめて安定した仕事に進んだとして、10年後20年後に「やっぱり声優を目指せばよかった」と後悔する姿が容易に想像できて、そんな夢物語を語るような自分ってやだな、恥ずかしいなって思ったんです。それなら、医療系の資格は年齢関係なく受けられるから、声優を目指してダメだったらそちらの道を目指そう、と思いました。
中学校で総監督を務めたミュージカルがいい経験に
——高校では演劇部ということで、ほかにも学生時代に夢中になっていたことはありますか?
宮原:小学生のときは合唱部に所属していましたし、中学では吹奏楽部でパーカッションとサックスを。中学校では、クラスで作るミュージカルの総監督になぜか推薦されて。自信はなかったけど興味があったので、脚本に参加したり、音楽もオリジナルで作ったりして、すべて統括しました。今思えば、その時の経験が自信につながって、高校で演劇部に入れたのかもしれません。
——プロフィールの趣味・特技に書かれた「楽器演奏」は、吹奏楽部の経験があるからなんですね。しかも、作曲までできるとはすごいです。
宮原:部活とは別に、姉と母の影響でピアノを弾いたり、父親がギター好きで私も弾いたことがあったので、その経験も生かされたのかなと思います。実は、DIALOGUE+のYouTubeで流れるBGMも一部作ったことがあるんです。自分の声を録音してビートを作れるアプリがあって、はじめは「ブーブー」っていう声をベース、「ミーミ」っていう声を重ねて…って遊んでいたんですけど、「それっぽいの作れたんじゃない?」って(笑)。
——そんな経緯があったんですね。ミュージカルでは脚本にも参加を?
宮原:はい。小学校の頃、おうちに本がたくさんあって、図書館にも結構通っていたので、いろんな本を読んでいたのが生かされたのかな、と思います。
人前で歌って踊ることに戸惑いがありました
——初めての声優のお仕事で覚えていることは?
宮原:ボイスドラマのCDのモブ役で、先輩方の中に入ってセリフを言ったんですけど、ガチガチに緊張しました。プロとしてマイク前に立っているのに、自分だけ素人だっていうことに萎縮してしまって。空気に飲まれて、声が全然出なかった苦い思い出があります。
——2019年からは『CUE!』の赤川千紗役になり、2022年にはTVアニメにも出演を。この作品にはどんな思い出がありますか?
宮原:別の役でオーディションを受けていたので、決まったのが千紗役だと知った時は驚きました。声優を始めてからまだ1年目だったし、千紗はしっかりした性格のツンデレな女の子で、そういう役を演じたことがほぼなかったので、私に務まるのかな…と。ユニット活動もあったので、そういうコンテンツに自分が参加できる自信もなくて、戸惑いがありました。
——そんな戸惑いの中でスタートしたんですね。
宮原:わかってはいましたけど、同時期にDIALOGUE+の活動も始まって、どちらも最初の1年くらいは戸惑いが強かったのを覚えています。でもファンの方から嬉しい声をいただいたり、『CUE!』のスタッフさんから「宮原さんの声を聞いてから千紗がさらに好きになりました」と言われたことがきっかけで、だんだん自信が持てるようになって。私が演じたことで役が魅力的になっているのなら、もっと演技やパフォーマンスを磨いていきたいっていう気持ちが芽生えていきました。
——『A&G NEXT ICON 超!CUE!&A』の水曜パーソナリティも、もう3年目ということで、ここまで続けてみての感想は?
宮原:2年間も、毎週がっつり現場に行っているお仕事って、この番組くらいなんです。今では、毎週水曜20時からのラジオがない生活が考えられないくらい大切なお仕事です! 毎回フリートークの時間があるんですよ。そこでお話できるように映画を観たり、いつも考え事をするほうなので、キッチンのシンクを洗いながら「きれいになると気持ちいいな」って感じた気持ちとか、「雨が好きかも」って思った瞬間のことを覚えていたり。ラジオきっかけではありますけど、自分について考えるようになったし、新しい自分を発見できている気がします。
——DIALOGUE+の活動では、この秋に初めての全国ツアーが開催されましたね。
宮原:DIALOGUE+は作品が絡んでいないので、メンバー全員が素のまま活動しているユニット。本当に一人ひとりの個性がバラバラで、それが新鮮だし、ユニットの魅力になっていると感じます。全国ツアーは、配信ライブとは違って生のステージだから、実際に私たちの姿を見た人たちに喜んでもらえるように、クオリティを保ちたいというプレッシャーを感じながらも、これまでの成長をお見せするつもりでがんばりました。
プライベートでの願望も増加中
——プライベートでも声優さん同士で交流することはありますか?
宮原:同期で、なんでも話したり相談できる友だちがいて、DIALOGUE+の活動を応援してくれたり、CD買ったよ!って報告してくれたりするんですけど、同じ業界に信頼できる友人がいるのは嬉しいことだなあと思いますね。
——心強いですね。お休みの日はどんなふうに過ごすことが多いですか?
宮原:もともとインドアですけど、最近はキャンプをしたりとか、外に出ることが増えたし、これから経験してみたいことも増えました。たぶん、ソロキャンプ動画にはまったことがきっかけです(笑)。
——これから経験してみたいこと、というと?
宮原:中学生の頃、父親のバイクの後ろに乗せてもらったことがよくあって、いつかは自分もバイクに乗りたいなと思っています。長めのお休みがあったら合宿免許に行きたいですね。スタッフのメイクさんにおすすめしてもらったダイビングも、もともと水族館の飼育員に憧れていたくらい魚が好きなので、海に潜って近くで見てみたいなとか、いろいろ願望があふれてます!
「信じられないくらい変わった」って言われます
——いろいろ変化があったんですね。
宮原:お仕事でも、デビューしたばかりの頃は、ダンスのレッスンで「私にはできないかも」って思っていたし、無理やり明るく振る舞うこともあったんです。でも今は、誰かと話したり、人前に出て歌ったりすることが好きになってきた気がします。ライブを観てくれた親からも「信じられないくらい変わったね」って驚かれます(笑)。つらいこともありましたけど、どの出来事が欠けても今の自分にはなっていないだろうなと思うと、人生って不思議だし、周りのみなさんの存在の大きさに気づくことができて、感謝の気持ちでいっぱいです。
——声優として、これから挑戦してみたいことはありますか?
宮原:『CUE!』で朗読劇のイベントに参加したのが楽しくて、朗読劇にすごく興味があるし、DIALOGUE+の活動もこれからもっと盛り上がると思います。「さっぴのおかげで仕事がんばれる」とか「日々楽しく過ごせる」っていうみなさんの声にすごく励まされていて、嬉しいなと思います。これからも感謝の気持ちを忘れずに、お仕事に取り組んでいけたらと思います!
——宮原さん、ありがとうございました!
次回の「声優図鑑」をお楽しみに!
宮原颯希
◆撮影協力
撮影=山本哲也、取材・文=吉田あき、制作・キャスティング=吉村尚紀「オブジェクト」