※この記事は最新話の内容を含みます。ご了承の上お読みください。

　躓くごとに強くなった。光も痛みも怒りも全部抱き締めて。選ばれなければ、選べばいい――。

　負けたからこそわかることがある。地面からこそ見えた高みがある。地面に叩き伏せられても何かを掴んで立ち上がり、涙で前が見えなくなっても歩みを止めない。次なる物語の始まりに、新しい歌が流れる。

　TVアニメ『鬼滅の刃』遊郭編の放送が始まった。

　2019年3月29日に全国11の劇場で公開された特別上映版『「鬼滅の刃」兄妹の絆』から約2年9ヵ月。前作となるTVアニメ『鬼滅の刃「竈門炭治郎 立志編」』は全国21局で放送されていたが、今回のTVアニメ・遊郭編はフジテレビ系列を含める全国30局で放送。さらに放送直後に25の配信サービスで最新話の配信を開始するなど、日本全国をほぼカバーしたかたちで展開されることになった。まさに国民的アニメの堂々たる風格を感じる、最新シリーズの開幕である。

　遊郭編の第1話となる「音柱 宇髄天元」は、前作・無限列車編のクライマックスから始まる。炭治郎の前で繰り広げられる、炎柱・煉獄杏寿郎と上弦の参・猗窩座の戦い。その壮絶な技の応酬に、炭治郎たちはただ見守ることしかできなかった。任務を終えた炭治郎は傷を癒すこともなく、すぐさま煉獄さんの生家へ向かう。そこにはヒノカミ神楽について書かれた書物があるという。だが、そこで煉獄さんの父にして元炎柱の槇寿郎と衝突。誰もが煉獄さんを失った哀しみに直面するのだった。その哀しみを乗り越え、炭治郎たちは互いに鼓舞し、さらなる修行を積み、任務をこなしていく。そんなある日、派手な男が炭治郎たちの前に現れる。男は音柱・宇髄天元と名乗った――。

　TVアニメ遊郭編・第1話「音柱 宇髄天元」は1時間スペシャル。原作コミックス第8巻・第67話～第70話をアニメ化したものとなっている。今回のエピソードは遊郭編の舞台となる「鬼の棲む遊郭」へとつなぐ、いわばプロローグにあたる内容。炭治郎たちが挫折から再起するという心理的なドラマと、新しいキャラクターとの出会いのエピソードを1話にまとめて見せている。修行を積んだあと、再起した炭治郎の強くなった姿を見せる、鬼とのバトルシーンはアニメオリジナル。鬼の爪をかわして宙を舞う炭治郎の背中に背負った箱から、禰豆子が飛び出て鬼に攻撃を繰り出す。その華麗な連係プレーは、原作では描かれなかったが、読者や視聴者が知らないところで鬼との戦いを何度も重ねてきており、戦いの経験を重ねてきたのだろうと感じさせる描写だった。炭治郎強い、禰豆子カッコいい！

　彼らが拠点としている蝶屋敷に帰ると、そこには日輪刀の刀鍛冶・鋼鐵塚蛍さんが重い展開を断ち切るように乱入し、炭治郎を追い回す。コメディシーンを挟んで、いよいよ物語は今シリーズの本筋へ。音柱の宇髄天元が現れ、炭治郎たちを次なる戦場へ導くのだ。ド派手な場所、鬼が棲む遊郭へ――。

　シリアスからコミカルへ。オリジナルシーンも挟んで1時間の放送はとても濃密な内容になっていた。そして、この1時間スペシャルを見事に締めくくったのがオープニングテーマ「残響散歌」。アーティストAimerの歌声だ。

　彼女はヒットメーカーが数多く在籍するクリエイティブカンパニー・agehaspringsに所属するシンガー。アニメ『NO.6』のエンディングテーマでメジャーデビューし、話題となったTVドラマ『あなたの番です』（「STAND-ALONE」2019年）や映画『累 -かさね-』（「Black Bird」2018年）、『あなたの番です 劇場版』（「ONE AND LAST」2021年）、TVアニメ『魔道祖師』（「季路」「cold rain」2021年）などにバラエティあふれる楽曲を提供。『鬼滅の刃』の制作会社ufotableの作品である劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel]』（2017～2020年）でも3曲の主題歌（「花の唄」「I beg you」「春はゆく」）を担当している。

　彼女は独特でハスキーな声質が魅力の持ち主だ。幼いころから、歌いすぎたことで喉に不調を抱えており、何度か声が出なくなるアクシデントに見舞われたことがあるというが、その不調を乗り越えるたびに強くなった。独特な歌唱法を確立し、今のスタイルを手に入れたのだそう。彼女の転機となったひとつが、ufotableが制作していた『Fate/stay night ［Unlimited Blade Works］』のオープニングテーマ「Brave Shine」（2015年）だったとのことだ。

　その楽曲を制作する直前、彼女はライブの歌唱中に声が出なくなるという状況に直面。ライブを中断する事態になってしまう。そのときの挫折と、立ち直るという強い思いを「Brave Shine」の歌詞に込めたのだとか。ufotable作品はAimerにとっての転機となっていたのである。

　TVアニメ『鬼滅の刃』に、Aimerは初参加となるが、作品との相性はばっちりだ。ダンサブルなピアノとホーン、疾走感あふれる楽曲は遊郭編の激しい戦闘シーンを思わせるオープニングテーマになっている。アニメとアーティスト、その縁の深さを感じさせる一曲だ。

　傷ついた少年たちはともに鼓舞しあって立ち上がり、さらに磨きあうことを誓う。決意を新たに。第二話から物語の舞台は、鬼が棲む遊郭へ。「残響散歌」が炭治郎たちの歩みを照らすだろう。