TVアニメ『鬼滅の刃』多彩な表現で魅せる、美しい背景美術が生まれるまで/遊郭編第2話

アニメ

公開日:2021/12/16

鬼滅の刃
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

※この記事は最新話の内容を含みます。ご了承の上お読みください。

 日本一、色と欲に塗れたド派手な場所、鬼の棲む「遊郭」だよ――。

 TVアニメ『鬼滅の刃』遊郭編・第2話はいよいよ新たなステージへ。音柱・宇髄天元とともに竈門炭治郎と竈門禰豆子、我妻善逸、嘴平伊之助の4人は、遊郭へ向かう。その遊郭には、“宇髄の嫁”3人がすでに潜入しており、いずれも連絡を絶っていた。炭治郎たちは女の子に変装し、遊郭の中に入り込んでいく。はたして宇髄の嫁たちは生きているのか? この遊郭に鬼はいるのか?

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 少年たちが初めて訪れた大人の世界。彼らは戸惑いながらも、この世界へ飛び込んでいく。自分たちが生きてきた常識が通用しない世界に、ときに戸惑いながら、ときには思いを飲み込みながら、自分の使命の達成を目指す。まさに少年マンガらしい展開が気持ち良い……頑張れ、炭子、善子、猪子!

 この第2話は、原作コミックスの第9巻第70話~第73話をアニメ化したもの。遊郭編に入ったあたりから、シリアスな物語の中に挿入されるコミカルなテイストが増え、多彩な変顔やセリフ(ボケとツッコミ)の激しい応酬が繰り広げられるようになるなど、原作者の吾峠呼世晴の筆も冴えわたっている。とくにこの第70話~第73話あたりは、シリアスとギャグの起伏が激しく、ナレーション的な世界観説明や解説、作者のツッコミ的な文章が混ざっており、筆が乗りまくっている感覚を覚える弾けっぷりだ。おそらく『週刊少年ジャンプ』連載時に、無限列車編で大きな人気を獲得したことも後押ししているのだろう。マンガという表現手法の豊かさを感じる、原作コミックス『鬼滅の刃』でも屈指のバラエティ度が高いエピソードだ。

 このエピソードのアニメ化にあたっては、原作コミックスの構成を整理し、イメージ背景やテロップなどを用いていて、わかりやすく原作コミックスの雰囲気が再現されていた。とくに遊郭の説明シーンは、原作コミックスでは解説として文章で書かれているが、アニメではサブタイトルが出たあとに宇髄天元と炭治郎たちが下調べに遊郭へ向かうという展開を作り、そこで一同が遊郭を見ることでスムーズに遊郭の説明をこなす。丁寧な作り込みが感じられる回だった。

 この遊郭編第2話の見どころのひとつはやはり「遊郭の街並み」だろう。『鬼滅の刃』の舞台は大正時代となっているが、そのころはすでにカメラが実用されており、いくつかの写真資料が残されている。

 カラー写真が一般に普及したのは昭和40年代頃。したがって当時の写真は白黒(モノクロ)しかない。だが、写真資料の有無の差は大きい。本作では(原作コミックスもアニメも)、おそらくその資料をもとに遊郭の街並みを描いていると考えられる。

 アニメでは、鉄で作られ竜宮の乙姫像が飾られた吉原の大門(1911年の吉原大火で焼失)や、2階、3階から遊女たちが手を振る大楼、格子の中でお客を待つ遊女「張り見世」など、当時の吉原の姿を鮮やかな美術で描いている。

 アニメーションの画は、アニメーターの描くキャラクターの原画・動画に、美術スタッフの描く背景を組み合わせることでできあがっている。アニメーターは鉛筆でキャラクターの画(線画)を描くが、美術スタッフはフルカラーでその雰囲気や世界観を感じさせる情景を背景として描く。作画の手法が違うため、美術専門のスタッフが集まっている美術専門の会社が引き受けることが多いのだ。しかし、アニメ『鬼滅の刃』では、美術をufotable社内の美術セクションが担当している。

 アニメ『鬼滅の刃』では各話の美術監督を衛藤功二、矢中勝、樺澤侑里の3人のスタッフで分担。その持ち味を活かして、各話の美術を個性的に描いている。遊郭編の第2話では、アニメ『活撃 刀剣乱舞』、劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel]』シリーズを手掛けてきた衛藤功二が美術監督を務め、樺澤侑里が美術監督補佐を務めている。

 現在、背景美術の画はデジタルツール上で描かれることが多いが、そもそも元来のアニメでは、水彩で背景美術を描くことが主流だった。水彩ならではのにじみや温かさは、昭和のアニメの持ち味でもあった。ufotableは数年前から、水彩画で背景を描けるベテランの美術スタッフを起用し、デジタルだけでなく水彩も含めて、多彩な背景美術を作画する技術をもって描くことを追求してきたのだという。遊郭編でよく登場する和室内の襖絵などでは、水彩による背景が用いられているようだ。

 たとえば、京極屋で善子が三味線をかき鳴らすシーンでは、部屋に「鶴と松に金箔を散らした襖絵」が描かれており、鯉夏花魁の部屋には「鯉と桜の襖絵」と「欄間の彫り物」、張り見世の遊女たちの背景には「雲と松の襖絵」、猪子が入った荻本屋では「白とピンクの牡丹の花の襖絵」が色鮮やかに描かれている。赤、緑といった大胆な色の土壁に咲き乱れる様々な花の襖絵。この美しい背景美術に、ufotableのテクニカルな撮影技術(撮影処理)が乗ることで、より奥深い、色鮮やかな世界が描かれている。この多彩な美術こそが、遊郭編の見どころのひとつと言うことができるだろう。

 光が強ければ、闇は濃く、深くなる。外からは美しく華麗に見えていた遊郭も、中から見れば魔窟の如く。遊郭に潜む鬼に迫っていく少年たち。

 いよいよ、鬼の正体が明らかになる。第3話以降は、ド派手な遊郭の真の姿が見えてくる。第2話以降もぜひ、映像の美しさに注目していきたい。