桃色、水色、すみれ色……日本の伝統色に学ぶ、“地球に優しい”暮らしのヒント『色の名前の日本史』

暮らし

公開日:2021/12/19

色の名前の日本史
『色の名前の日本史』(中江克己/青春出版社)

 たとえば、ピンクと、桃(もも)色と、桜(さくら)色。あるいはオレンジと、橙(だいだい)色と、柿(かき)色――同じような色調を指す言葉でも、日本の「伝統色」の響きには、不思議な「暖かみ」がある。日本独自の季節感と深く結びついた言葉だからなのか、どこかノスタルジックな懐かしさもあって、口にするだけで、なんだか「ほっこり」した気分になってきませんか?

 本書『色の名前の日本史』(青春出版社)は、そんな「日本の伝統色」の語源や歴史をわかりやすくまとめてくれた一冊だ。著者の中江克己氏は、日本の染織文化の研究家。これまでに『歴史にみる日本の色』(PHP研究所)などの著作がある。巻頭に「カラー見本帳」(これを眺めているだけでも、なんだかワクワクしてくる!)を添えた本書では、長年の研究成果を基に、それぞれの色にまつわる興味深いエピソードを紹介。『万葉集』や『源氏物語』など、古典文学からの引用や解説が随所にちりばめられている点も楽しい。

 それにしても、こうやってじっくり見ていくと、日本の伝統色には花をはじめ「植物」と関係したネーミングが実に多いことに改めて気づかされる。たとえば「紫/パープル」系の色だけでも、葡萄(ぶどう)色、菫(すみれ)色、藤(ふじ)色、躑躅(つつじ)色、牡丹(ぼたん)色、菖蒲(しょうぶ)色、などなど。どの名前も、草花や果物の可憐なイメージがすぐに思い浮かんでくる――でも、あなたはそれぞれの色の違いを正確に見分けられますか?

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 現代のファッションの世界に毎年のトレンド・カラー(流行色)があるように、古代の日本にも色の流行があった。たとえば、平安時代。貴族たちの間でもっとも高貴な色と見なされていたのは「赤」や「紫」だったんだとか。とは言え、当時の染色技術で濃い赤に染めるには、原料となる紅花(べにばな)が大量に必要だったため、一般人にはぜいたくすぎると見なされ、「禁色」とされていた時期もあったのだという。

 一方、江戸時代になると、庶民の間で、藍(あい)色、茶色、灰色など、現代人の感覚からすると少し地味にも思える色が大流行。染織技術の進化に伴い、それぞれの色のバリエーションもどんどん誕生し、特に、茶と灰色に関しては「四十八茶百鼠」という言葉(「茶色には48種類、ネズミ色には100種類もある」という意味)が生まれるほどの人気だったという。江戸の町で生きる人々にとっては、微妙な色の違いを理解し、楽しむことこそが「粋(いき)」であり、「通(つう)」であったわけだ。

 それから数百年が過ぎた今の時代。どんな色もカラープリンターで便利に印刷できるようになった一方、私たちは、かつて日本の伝統色が伝えていた、この世界の色彩の「多様性」を忘れかけているのかもしれない。SDGsを意識したライフスタイルが注目される今だからこそ、葡萄(ぶどう)色と、菫(すみれ)色と、藤(ふじ)色のわずかな違いに心をときめかせつつ、日本の伝統色について、もっともっと深く知りたい!――本書は、そんな人のための入門書として、まさに格好の一冊だ。

文=内瀬戸久司