宇宙の謎を解明する「新たな天文学」を知っていますか? 宇宙の“とんでもなさ”がわかる1冊
公開日:2021/12/20
ほぼ「鉄」で出来ている惑星が見つかったそうだ。その星の名はGJ 367b。太陽系から31光年離れたところにあり、全体の86%が鉄で構成されていて、公転周期はわずか7.7時間、すぐ近くにある恒星の側(地球でいうと太陽が当たる側)はドロドロ状態で、おそらく生物は存在しないだろうと推測されており、何かが飛んできてぶつかったか恒星の強力な放射によって星を包んでいたマントルなどがなくなってコア部分がむき出しになったのではないか、と考えられているという。
さてここで「元素の周期表」を思い出していただきたい。上から水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム……と並んでいるあの表だ。並び方を暗記しようと「水兵リーベぼくの船」と語呂合わせで覚えたという方もいらっしゃるだろう。その元素の周期表で鉄(Fe)は26番目にある。宇宙が始まった直後に存在していたのは水素、ヘリウム、リチウムだけだったが、その後「星」が生まれるようになり、その内部で核融合が起きたことでさまざまな元素が作られて、超新星爆発を起こすことで宇宙空間に放出、だんだんと元素量が増えていったのだという。
ところが星の中や超新星爆発で作られるのは、26番目の鉄までなのだそうだ。じゃあそれよりも重い27番目のコバルト(Co)以降の物質はどこでどう作られたのか……などという疑問にぶち当たってしまうと、根っから文系の私は頭がクラクラしてしまうのだが、そんな問題を日夜研究しているのが天文学者だ。今回ご紹介する本『マルチメッセンジャー天文学が捉えた新しい宇宙の姿 宇宙の物質の起源に迫る』(講談社)の著者で、東北大学の天文学教室で研究を行っている田中雅臣先生もその内のひとりだ。
「マルチメッセンジャー天文学」とはあまり聞き慣れない言葉かもしれないが、これは電磁波(可視光、赤外線、電波、X線、ガンマ線など、波長によってさまざまな種類がある)、ニュートリノ(電気的に中性の素粒子)、重力波(質量を持った物体が加速度運動することによって起こる時空ゆがみが波のように伝わるもの)といった、宇宙のどこかから飛んできて地球へと届くさまざまな「メッセンジャー」を「マルチ」に組み合わせて使うことで、これまで観測できなかったさまざまな事象を観測し、宇宙の謎を解明するための最先端天文学なのだ。
人類は古代から星を観測しており、望遠鏡を使った天文学が始まったのは17世紀だ。その後、20世紀に入るまで、人類は「地球上」で「人間の目」によって「可視光」を探し続けていた。20世紀に入ると可視光以外の電磁波でも観測が可能となり、さらには宇宙空間へ打ち上げた宇宙望遠鏡によって大気の影響を受けずに宇宙を観測できるようになった。そして、20世紀後半には「カミオカンデ」で知られるようにニュートリノを使った観測が行われるようになり、21世紀に入ると、さらに発展した高エネルギーニュートリノを用いた観測や重力波による観測までもが実現された。いままさに「マルチメッセンジャー天文学」の時代が始まったのだ。
本書では天体ではどんなことが起き、その観測がどのように行われ、そこから一体何がわかるのかを田中先生が丁寧に説明してくれる。文系の方だと「おぅ……」とちょっと慄いてしまいそうな数字や計算式、累乗や単位などもあるが、ゆっくり読めば大丈夫。計算も身近な話題に置き換えられて解説されるので、想像を遥かに超えた桁違いの大きさのブラックホールの存在など、宇宙の“とんでもなさ”がよくわかる。
ちなみに「27番目のコバルト以降の物質はどこでどうやって作られたのか?」についても本書で言及されている(今のところ仮説なのだそうですが)ので、興味のある方はぜひページをめくっていただきたい。
現在は、新しい観測手段が次々に生まれ、それらが協力しながら宇宙の謎を解明する「マルチメッセンジャー天文学」の黎明期だという田中先生。これから大きく研究が進むと期待されるマルチメッセンジャー天文学の基礎を理解するための入門書として読んでおくと、今後の天文学の進化の“凄さ”を感じられ、次々と解明されていくであろう“宇宙の謎”についての理解が深まること間違いなしだ。
文=成田全(ナリタタモツ)
【参考】
「1年が7.7時間」の惑星みつかる。恒星に近すぎ、表面は溶岩状態か
https://japanese.engadget.com/a-tiny-molten-metal-exoplanet-090043518.html