あの村には近寄るな - RTA Any%(バグあり)【解説付き】/小林私「私事ですが、」
公開日:2021/12/25
美大在学中から音楽活動をスタートし、2020年にはEPリリース&ワンマンライブを開催するなど、活動の場を一気に広げたシンガーソングライター・小林私さん。音源やYouTubeで配信している弾き語りもぜひ聴いてほしいけど、「小林私の言葉」にぜひ触れてほしい……! というわけで、本のこと、アートのこと、そして彼自身の日常まで、小林私が「私事」をつづります。今回は、ある廃村が「舞台」のようです。
初めは、かの地には地図に載っていない小さな廃村がある、という噂からだった。
実際には載せることが出来なかったという方が正しいという。
その村の調査に踏み入った人間は、ことごとく帰らぬ人となったからだ。
現在では役場の古い人間か、酔狂なオカルト雑誌が幻として取り上げる程度の儚い存在となったその村は、しかし実際に存在している………
「ハア、せめてバスでも通っていてくれれば…なんてな」
伝え聞いた村へのルートは既に獣道と化しており、日頃のデスクワークで鈍った足腰には少し酷だった。
「編集長も鬼だぜ、いくら俺達が山岳部出身とはいえ…もう5年以上も前のことだろ」
「仕方ないよ、仕事だもん。」
息の上がった俺の少し前を歩く同僚、タケハラは使い古されたザックを背負い直しながらそう言った。
余裕そうに見えていたが、流石に肩にきているようだ。
「あーあ! 貧乏クジ引かされた気分だ。これならまだ、“多摩センターの母”取材チームに入っておくべきだった気がする」
「ふ、あっちはあっちで貧乏クジでしょ」
芝居がかった俺の愚痴をタケハラが軽く笑って流す。このくだりも、もう何度目か分からない。
「そろそろ着いてもいい頃だけど…ん?」
「どうしたタケハラ、お前もバテてきたか」
「それは否定しないけど…あれ、誰かな」
怪訝な面持ちのタケハラの視線の先には、生い茂る木々の中からこちらにゆっくりと近付いてくる人影が見えた。
「フン。おおかた、麓の役場のジジイだ。あれだけ引き留めたのにって叱りにきたんだろ」
「そんなわけない。私達、その麓から来たのに、どうして私達の前にいるの」