他者と接するときに最も大切なことを教えてくれる『大事なことほど小声でささやく』/佐藤日向の#砂糖図書館㉝
更新日:2021/12/26
心に残る言葉というのは、誰にでも存在すると思う。
もちろん、形は一つではなく、恩師の言葉や演劇作品の台詞など様々な形で心に足跡を残す。
今回紹介するのは、森沢明夫さんの『大事なことほど小声でささやく』という連続短編小説だ。
本作は身長が2メートルを越えるマッチョのゴンママ(権⽥鉄雄)と、ジムの筋トレ仲間たちが織りなす笑いと涙がある日常が、説得力のあるゴンママの温かい言葉と共に描かれている。
タイトルを見た瞬間、「このタイトル、なんだか心に残るな」と思い、手に取った本作だったが、思わず覚えておきたいと思う言葉が作品全体にちりばめられていた。私が特に好きだったのは、「人生に大切なのはね、自分に何が起こったかじゃなくて、起こったことに対して自分が何をするか、なのよ。起こったことなんて、そのまま受け入れればいいの。どうせ過去は変えようがないんだから。ピンチはチャンスよ。」というゴンママの言葉だ。
本作では、章ごとに主人公が変わるため、視点も変わり、出会う物語も異なる。ゴンママが放ったこの言葉は、「頑張れ」という言葉が気づかないうちに足枷になっていた女性に向けられている。すでに頑張っている人に対して「頑張っているね」ではなく「頑張れ」と声をかけるのは、言っている本人に悪意がないぶん、声をかけられた側にとって毒になる可能性がある。そして私が特に共感したゴンママの言葉は、女性に対して自分の保身のために「頑張れ(頑張ってくれなきゃ俺が困る)」という言葉をかけた男性に対して向けた言葉だった。
もし私がこんな態度を取られたら、確実に怒鳴ってしまうだろう。しかし、相手を直接怒ったり陰口を言うのは簡単だが、相手とちゃんと向き合うのはとても難しい。
近年、嫌いと感じた人のことを、SNSの匿名性を利用して相手を傷つけてしまう言葉を見かけることが増えたように感じる。だからこそ、ゴンママが誰とでも対等に言葉を発することは、勇気ある行動だと思う。
ゴンママが言葉を放って以降、作中の男性に対する印象が、「人の気持ちを考えられない嫌な性格」から「怖がりで不器用な性格」に変わった。人と接する時に1番大切なのは、どんな人でも悪い部分だけを見るのではなく、相手の本質を見抜く力を自分自身が身につける事なのかもしれない。
『大事なことほど小声でささやく』に登場する筋トレ仲間の人生を、ゴンママの愛に溢れる言葉と共に、文章から覗いてみるのは如何だろうか。きっと、物事の考え方に少し変化がでるだろう。
さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。