『TVチャンピオン』『モヤさま』…特有の「ユルさ」と斬新さが武器の「テレ東」ベスト100番組を解説!

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公開日:2022/1/5

21世紀 テレ東番組 ベスト100
『21世紀 テレ東番組 ベスト100』(太田省一/講談社)

 テレビ東京が歩んできた道は、実に険しく曲がりくねったものだった。1981年に「テレビ東京」(以下、テレ東)に変わるまでの局名は、「東京12チャンネル」。一般総合局ではなく、科学教育専門局として始まった。よって、娯楽番組の放映は著しく限られていたという。これはこのたび紹介する太田省一氏の『21世紀 テレ東番組 ベスト100』(講談社)を読んで初めて知ったことだ。

 事故や災害が起きても、テレ東は番組表通りの放映をしてきた。非常時の緊急番組をリアルタイムで流すのには、それなりの時間と労力と情報網が必要となる。だが、そうした資本が開局当初のテレ東にはなかった。それが「テレ東だけアニメ」「テレ東だけ映画」と巷間言われ、結果的にマイペースなテレビ局だというイメージが広まった。

 著者はテレ東特有の「ユルさ」にも着目する。それが顕著なのが、『モヤモヤさまぁ~ず 2』をはじめとする、いわゆる街ブラ系番組だろう。芸能人が街中で出会う一般人と交流する番組だが、新宿や池袋ではなく北新宿や北池袋を歩き、「1」がないのに「2」というタイトルを冠するなど、端々からユルさと可笑しみが滲出する。

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 また、テレ東は素人の凄さを打ち出すことが多かった、と著者は言う。例えば、鉄道やラーメンなど、特定の分野に異常に詳しい素人をクイズなどで競わせる。92年には大食い番組の『TVチャンピオン』が放映され、いわゆるキラー・コンテンツに。他局も追ってこの手の番組の真似をするようになる。

 選挙特番での、池上彰氏の奮闘ぶりも見逃せない。他の局は、いかに早く当選確実を出せるかに血道をあげていた。だが、テレ東が予算や情報網で抜きんでるNHKに勝てる見込みはまったくない。それならば、徹底的に中身で勝負に出るしかないと考えたのだろう。池上氏の鋭い質問は政治家に冷や汗をかかせ、時に無言に追い込むなど、番組は彼の独壇場だった。

 また、当選確実者のプロフィールに、所属政党や年齢のみならず、「車庫入れが苦手」「歌手○○のファン」という一行情報が映った。昨今この手法も他局で使われているが、テレ東らしい「ユルさ」の真骨頂というべき演出。あっぱれだ。

 そして、隅田川花火大会が雨で中止になった2013年、浅草からの中継でレポートを務めたのがフリーになったばかりの高橋真麻アナ。傘もささずにずぶぬれになりながらもハイテンションで実況を続けるその姿は衝撃的で、各所で話題となったそうだ。著者が言う通り、ハプニングこそが生放送の醍醐味であることを証明した「神回」であった。

 総合すると、ゲリラ的なニッチ狙いで、適度なユルさ保っている番組が多いと言える。資本の面で他局と競うのではなく、企画のユニークさや斬新さで勝負する。そのスタンスは終始一貫しており、まったくもってブレたことがない。

 とはいえ視聴率をハナから無視している、というわけではない。むしろ逆だ。限られた条件の中でいかにやりくりして面白いものを作り、数字を取れるか。テレ東のスタッフは制約があるからこそ燃えたのではないだろうか。自らの直観や好奇心に忠実に、地道でユニークな番組作りを続けるスタッフたちには頭が下がる。

 そして、番組の企画はプロデューサーたちの冴えたプランにゆだねられるところが大きかった。特に、深夜帯は解放区的な自由さがある。そこでテレ東イズムを体現してきたのが、『ゴッドタン』や『ウレロ☆シリーズ』などを手掛けた佐久間宣行氏だ。先日テレビ東京を辞職し、フリーのTVプロデューサーとして活躍する彼こそ、オルタナティブなテレ東イズムの正当な後継者だと思う。佐久間氏の次の一手が楽しみでならない昨今である。

文=土佐有明