「地図を見ながら歩く」のは、もう“絶滅”寸前? 時代の変化に伴う、消えていく動作とは
公開日:2021/12/27
大学を卒業し会社員になったばかりの頃、飲み会の終わりに「じゃあ三本締めで」と上司に言われたことがある。何のことかわからず、周囲の先輩たちに合わせて手を叩いた。『絶滅危惧動作図鑑』(藪本晶子/祥伝社)を読んだ後、ふとそれを思い出した。三本締め、最近している人を見なくなった。
まえがきにはこう書かれている。
時代とともに使う道具や生活様式が変われば、
人の動きもまた、変わっていく。
例えば100年後、
今使っている道具や物は、資料として残っているかもしれないけれど、
それを使っていた人の動作は、忘れられてしまっているのではないか。
たしかになくなっていく「もの」については考えたことがあるが、「動作」にまで思いを馳せたことがない。
本作には、わかりやすい説明文とシンプルなイラストで、「絶滅危惧動作」が並べられている。読みながら、自然と自分が過去にしていた動作や今もしている動作を自覚することができる。
章は絶滅危惧レベルごとに分かれていて、レベル5からレベル0まである。レベル5や4は既に絶滅したと言ってもいい動作ばかりだ。例えば「黒電話をかける」。黒電話の使用経験がある人は、今、どのくらいいるのだろう。存在すら知らない人も多いかもしれない。
絶滅危惧レベルが3になると、「前はやっていたけど、最近していないなあ」と感じる動作が増える。
レベル1は「ここ最近でだいぶ頻度が下がってきた動作」、レベル0は、「今は普通にやっているけど、今後なくなってもおかしくない動作」だ。著者がそう考えた理由や根拠も書かれている。
著者は1994年生まれだ。なぜその若さで、物ではなく動作を「絶滅危惧種」としてとらえることができたのだろうか。その答えは、本作の最後にある、みうらじゅんさんと著者の対談で明かされている。みうらさんは話す。
この世の中には、何かヘンなものとか違和感にすぐ気が付く人とそうでない人がいるんだよね。
腑に落ちた。年齢なんて関係なく、著者は「違和感にすぐ気が付く人」なのだ。そして本作は、読者にも、違和感に気が付くきっかけを与えてくれる。
祖父母、両親、そして自分自身が過去にしていた動作を、まったくしなくなることは、文明の進化の証として喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか……。淡々としたイラストと文章には、喜びも悲しみもない。感想はすべて読者にゆだねられる。
まえがきで著者も書いているが、本作には絶滅危惧動作を保護しようという意図はない。ただ日常を新たな角度で振り返ることができれば、いつもどおりの生活がより新鮮に、楽しく感じられるのではないだろうか。動作だけではなく、人生の気づかなかった部分に目を向けるきっかけをも得られるかもしれない。
文=若林理央