遊郭の闇に飲まれ、仲間がひとり消息を絶った。残された少年たちは、逃げることなく、闇に潜む脅威に立ち向かうことを誓う。その闇の奥に潜むものは、「100年にわたってこの地で人を喰らう鬼」だった。

　TVアニメ『鬼滅の刃』遊郭編の第4話「今夜」は、遊郭に潜入した竈門炭治郎がついに鬼と対峙するエピソード。原作コミックスでは第9巻第75話「それぞれの思い」と第76話「それぞれの場所で」を映像化している。

　遊女に扮して遊郭に潜入した炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助は、消息を絶った音柱・宇髄天元の嫁を探していた。その捜索の中で、鬼と遭遇した嘴平伊之助はその鬼を取り逃してしまい、花魁に扮した鬼の正体を見抜いた我妻善逸が捕まってしまう。遊郭を調査していた宇髄天元は、ここに潜んでいる鬼が鬼の首領・鬼舞辻無惨の直属・上弦の鬼であることを見抜いた。そして炭治郎たちに帰還するように命令するのだった。だが、炭治郎たちはこの遊郭に秘密の通路があるのではないかと推測。遊郭へ再び向かい、ついに鬼と対峙する。その鬼は上弦の陸・堕姫だった。

　いよいよ人間と鬼の戦いが開幕する、はじまりの一話。一部ファンが心配していたカットも見事にそのままアニメ化され、制作陣の「原作ファースト」な制作姿勢を、あらためて感じさせた話数となった。

　その不安視されたカットというのは、本作における最もイレギュラーなキャラクター「ムキムキねずみ」が登場するシーンだ。「ムキムキねずみ」とは宇髄天元の使いである忍獣。「特別な訓練を受けており極めて知能が高い。力も強く、一匹で刀一本持ち上げられる」のだという。二足歩行で歩き、両腕はマッチョでムキムキ。遊郭の屋根裏に顔を突っ込んだ伊之助の「刀だ!!」という呼びかけに応えて、その「ムキムキねずみ」たちが日輪刀を担いで運んでくるのだ。

　マンガ『鬼滅の刃』では、動物は基本的にリアルタッチで描かれている。たとえば、鬼と戦っている人間たちの組織・鬼殺隊のメンバーに伝令を伝える鎹烏（かすがいがらす）は、感情表現こそあるものの、リアルタッチなフォルムをしたカラスとして描かれてきた。ほかにも鬼舞辻無惨に反旗を翻す鬼の珠世が使う、使いネコの茶々丸も、リアルタッチなネコとして登場しており、蛇柱の伊黒小芭内の身体に巻き付いている蛇・鏑丸もリアルタッチな白蛇だ。

　だが、この「ムキムキねずみ」はいかにもギャグ調。言葉こそしゃべらないものの、頭に鉢金を付け、二本足で歩く。はたして、このねずみは一体何者なのか。こいつだけギャグ調でいいのか。『鬼滅の刃』の自由な世界観を感じさせるキャラクターとして一部のファンから注目を集めていたのだ。

　そんな原作ファンの思いを汲んでいるのか、今回のTVアニメ遊郭編第四話では、この「ムキムキねずみ」をまっすぐにそのままアニメ化。「ムキムキ」と言いながら二足歩行のねずみが画面に現れた。また、原作コミックスでは「ムキムキねずみ」の解説が地の文に入るのだが、アニメ版では伊之助に「アイツ、やる奴だぜ。ムキムキねずみなんてシモベを用意しているなんてよ。オレも忍獣使いてぇ～！」と語らせて、コミカルシーンとして描いていたのだ（なお、原作コミックスの地の文の解説は、次回予告の大正コソコソ噂話で語られている）。

　そのうえで、「ムキムキねずみ」の声優には木村昴を起用。木村昴と言えば、『ドラえもん』のジャイアン役の声優だ。『仮面ライダーリバイス』では主人公の悪魔バイスの声を務め、テレビ東京の朝のバラエティ番組『おはスタ』ではメインMCを務める、子どもたちのアイドルだ。また、Hip Hop好きということから、『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』では山田一郎役として本気のラップを披露。アニメ『呪術廻戦』では主人公の兄貴分・東堂葵を演じている。そんな彼が「ムキ、ムキ」言うものだから、コミカル濃度は抜群。原作ファンの戸惑いは、声優たちの演技力によって吹き飛んだのである。

　TVアニメ『鬼滅の刃』では、キャスティングの妙によって、映像の魅力をさらに底上げしている箇所が、たくさんある。たとえば、那田蜘蛛山編で炭治郎たちと出会い、その後、長い付き合いになる鬼殺隊の隊士・村田さん役には、人気声優の宮田幸季を起用。村田さんは鬼殺隊の一般隊員として、炭治郎たちの成長を見守り、その成長した強さを感じさせる重要な役どころだ。遊郭編の第四話では、炭治郎たちの鬼殺隊における階級を解説するシーンで、村田さんがチョイ役で登場しており、贅沢な起用にファンは驚いていた。

　ほかにも、遊郭編第三話で遊郭に遊びに来た男性役に若手声優の仲村宗悟、TVアニメ・無限列車編の第一話で炎柱・煉獄杏寿郎と出会う少女に人気声優の水瀬いのり、鬼の魘夢に操られる乗客役に千本木彩花（煉獄さんの夢の中に侵入する少女）、山村響（伊之助の夢の中に侵入する少女）、広瀬裕也（善逸の夢の中に侵入する少年）、江口拓也（炭治郎の夢の中に侵入する青年）など、アニメファンにはおなじみの声優が起用されている。

　炭治郎たちや鬼などメインキャラクターのキャストのみならず、1話かぎりのゲストキャラクターであっても、きっちりとしたキャスティングでキャラクターに実在感を生み出し、物語に強度を与える。『鬼滅の刃』をきっかけにブレイクする若手のキャストも、今後次々と出てくることだろう。現在発表されていないキャラクターのキャスティングにも、注目していきたいところだ。

　上弦の陸の鬼・堕姫がついに牙をむいた。炭治郎は彼女を倒すことができるのか。戦いはいよいよここから始まる。第五話に期待感が高まるばかりだ！