飲んで飲まれて時代は変わる! 世界史に登場する人物たちの“酔っ払い”列伝
公開日:2022/1/2
コップに半分のビールで即超重症の二日酔いのようになる下戸の人から、「酒飲みの人って、酒を飲んでいたときの言葉や行動を“酔っ払ってたから!”と言ってなかったことにしようとするよね? でも酒が飲めないこっちとしては、全部覚えてるんだよ」と言われたことがある。どんな場面だったかはよく覚えていないが、言われたことだけはよく覚えている。酒飲みとして少々耳の痛い指摘だが、心当たりのある方は多いはず。胸に手を当て、真摯に反省……
しかし後々「ごめん、あのときは酔ってて! あの話、ナシ!」なんて言い訳が到底通じない切迫&緊迫した場面で酒に飲まれ、世界史の流れを変えてしまった人たちがいる。そんな人たちのスゴい話が集められたのが『酔っぱらいが変えた世界史』(ブノワ・フランクバルム:著、神田順子、村上尚子、田辺希久子:訳/原書房)だ。
本書はこの世にどう酒が発生し、人間と関わるようになったのかの歴史が冒頭でひとしきり説明される。サルが果実酒を口にするところから始まり、本来は毒であるアルコールを分解する人たちが現れ(人類の進化!)、実はパンよりも先にビールが発明されたという説があったり、ピラミッド建設では労働の対価として毎日5リットルのビールが支給されていたり、非常に興味深い酒の歴史が語られている。しかし昔のエジプトでは酒造りに失敗は許されなかったそうで、悪質なビールを作ってしまった醸造家は自分が作った悪質なビールの中で溺死刑(!)に処せられ、粗悪な酒を売った人は死ぬまでその粗悪な酒を飲まされる(!!)など、なかなかハードな時代でもあったという。
そして最初に登場する「世界史を変えてしまった人物」がアレクサンドロス大王だ。マケドニアの王であり、ギリシャ平定後にペルシャへ遠征、連戦連勝で大帝国を築くも、32歳の若さで没する。その短い人生には酒に飲まれたせいで有能な部下を失い、飲みすぎたがゆえに判断を誤り、体も蝕まれてしまうなど酒が大いに関係していたのだ。誰も解けなかったゴルディアスの結び目を剣で叩き切るという大胆な決断のできる人が、飲酒(と性欲)だけは止められなかった……現代なら確実に「アルコール&性依存症」で入院レベル(それにプラスしてパワハラも)のひどさ。ぜひ本書でご確認いただきたい。
他にも泥酔した王子が「前を行く王の船を抜け!」と酔っ払い船長に命令したことが王位継承を巡る長い長い戦いを引き起こすきっかけになったり、アメリカ独立の気運を募らせることになった「ボストン茶会事件」は襲撃者たちが酔っていたからこそ紅茶を海にブン投げてしまう大胆な行動に出たエピソードなどが載っている。他にもフランス革命、リンカーン暗殺、日本軍の旅順攻囲戦、ケネディ暗殺などにも関係し、ニクソンやエリツィンは泥酔のまま世界の危機に直面してしまうなど、ちょっとボタンを掛け違えたら地球が終わっていたかもしれない案件が次々と紹介されている。よかった、まだ地球が存在していて……
ということで、ありきたりではありますが「酒は飲んでも飲まれるな」。本書を座右の書(これが路傍の石に見えたら酔っ払いすぎです)として自戒し、くれぐれも飲みすぎにはご注意を。毎回記憶をなくす、飲むと暴れる、飲酒がやめられない……など「もしかして依存症?」と感じたら、すぐ専門医に相談を!
文=成田全(ナリタタモツ)