学校の理科の実験では得られない! 感動必至の子どもたちによる「ヤマビル」研究記

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公開日:2022/1/3

ヒルは木から落ちてこない ぼくらのヤマビル研究記
『ヒルは木から落ちてこない ぼくらのヤマビル研究記』(樋口大良+子どもヤマビル研究会/山と渓谷社)

 昔から山でヒルに血を吸われるのは、人間の呼気に反応して木の上にいるヒルが人間の腕や首元に落ちてくるものだと思われていた。現在でも木の上からヒルが降って来ると信じている人もいる。

 しかし、本書『ヒルは木から落ちてこない ぼくらのヤマビル研究記』(樋口大良+子どもヤマビル研究会/山と渓谷社)のタイトル通り、ヒルは木から落ちてこない。これを実験で証明したのはなんと小中学生たちだった。

 本書は、2011年から毎年3~6名の小中学生たちによって続けられたヤマビル研究の記録だ。研究会は著者である樋口大良氏をコーディネーターとして、ヤマビル忌避剤「ヒル下がりのジョニー」を製造販売しているエコ・トレードの西村隆弘氏の顧問のもとに始まった。

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 研究会の目的は以下の通りだ。

①子どもたちと身近な自然を観察し、その仕組みを解き明かす中で科学する心を身につけ、将来科学者を志す子を育てる。
②身近にいるヤマビルを使って、科学の手法を会得し、自然の力の偉大さや不思議さを理解し、自然に対する畏敬の念を育む。

 ヤマビルとは山林に生息し、いつの間にか血を吸う、あの薄気味悪い生物である。環形生物で、顎ヒル目ヒルド科という分類になり簡単にいうとミミズの仲間だ。

 そんなグロテスクな見た目で血を吸うヤマビルについて、小中学生の子どもたちが研究を始める。はじめは怖がったり気持ち悪がったりしたものの、子どもたち持ち前の好奇心が勝り、自身の手のひらの上にヤマビルを乗せて観察したりゲーム形式で楽しそうにヤマビルを捕まえ始める。

 本格的なヤマビルの研究が始まると、まずは捕まえたヤマビルを観察し、移動方法や器官、吸血の方法などを調べ、ヤマビルは本当に木から落ちてくるのか、ヤマビルはどうやって繁殖し生息域を広げているのかなどを推論し、仮説を立てて検証し、その答えを導き出していく。子どもたちは科学の5段階手法である観察・推論・仮説・検証・考察を繰り返し、ヤマビルを調べつくす。

 子どもたち自身から生まれた疑問や推論によって研究が進められ、大人の役割は研究の道筋のヒントを子どもたちに投げかけるといった、ごくわずかな干渉でしかない。

学校の理科の実験では答えが決まっていて、実際にそうなるかを確かめるだけです。でも、ヒル研では誰にもわからないことを自分たちの手で発見していきます

 本書からは、子どもたちがヤマビルを通じて科学的思考を会得し、未知から新たな物事を発見する彼らの興奮がこちらにも伝わってきて感動をおぼえる。

『沈黙の春』で知られるジャーナリストのレイチェル・カーソンは、1歳8カ月の甥のロジャーを連れて海や森へ出かけ、気がつけば教えてもいない貝や植物の名前をロジャーが覚えていることに驚く。彼女は『センス・オブ・ワンダー』(新潮社)のなかで、神秘さや不思議さに目を見はる感性=センス・オブ・ワンダーは生まれつき子どもに備わっているもので、その感性を新鮮にたもち続けるには、この世界のよろこび、感激、神秘などを子どもと一緒に再発見し、感動を分かち合ってくれる大人が必要と語る。

『ヒルは木から落ちてこない』はまさに子どもたちのセンス・オブ・ワンダーがいかんなく発揮された子どもたちによる研究記である。

文=すずきたけし