窪田正孝 「名もなき多くの人の人生に、手塚先生が当てたその光がリンクしてきました」
公開日:2022/1/8
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、窪田正孝さん。
(取材・文=河村道子 写真=TOWA)
命というものの壮大な旅を見つめゆく作品のページを初めて開いたのは新幹線の車中だったという。
「友人から借りて読み始めたら夢中になって。ブッダは“神様”という印象しか持っていなかったけど、ちゃんとひとりの人間だったんだ、その人生も神話のようなものではなく、命や領土を奪い合う、人の愚かさに塗れたもののなかにあったんだということを知りました」
手塚治虫が10年の歳月を掛けた大長編作は、シャカ国の王子・シッダルタ(後のブッダ)の生涯を軸に、時と場を行き交い、数多の人の生と死のエピソードで織りあげられる。
「コロナ禍以来、僕たちは日々、特に数字を見ることが増えました。その数字ひとつひとつの下には必ず人の命があるということに思いを巡らせていたときだったので、名もなき多くの人の人生に、手塚先生が当てたその光がリンクしてきました」
仏伝に根差す生命や宇宙の哲学も独自の解釈で展開される。
「読み進めるうち、地球上で生きている間は“個”だけれど、死んだらみんなひとつになるという気がしてきた。そして今、自分がいる“生”の時間とは、それぞれ与えられた課題に取り組む修行の時間なのだと」
ある地方都市で強い地盤を持つ衆議院議員・川島昌平の秘書として与えられた課題はそつなくこなしている。でも、政治というものに特別熱い思いはない。新感覚のポリティカルコメディ、映画『決戦は日曜日』で演じた谷村勉はそんな人物だ。
「希望を抱いて飛び込んだのでしょうけど、どこかで政治の世界の仕組みや裏側を見てしまったことで、思い描いていたものの砕け散る音が自分のなかでしたんでしょうね。理想や夢をしまい込み、目の前にある現実を受け入れながら、谷村はこれまでやってきたんだろうなと思いました」
だが川島が病に倒れたタイミングで衆議院が解散。後継候補として白羽の矢が立った自由奔放で世間知らずな川島の娘・有美(宮沢りえ)は面倒くさい熱意で谷村を振り回す。
「“そういうもんだよ”がまかり通っている世界で、己の正義を貫いていくことはすごく大変だけど、本作でまったく新たな一面を見せた宮沢りえさんが、その真っ直ぐなところを体現されています。皮肉がいっぱい込められたこの映画では、みんなで毒を出し合うキャスト同士の化学反応をぜひ楽しんでほしい。笑える瞬間もたくさんあります(笑)」
ヘアメイク:糟谷美紀 スタイリスト:菊池陽之介
映画『決戦は日曜日』
監督・脚本:坂下雄一郎 出演:窪田正孝、宮沢りえ、赤楚衛二、内田 慈、小市慢太郎、音尾琢真ほか 配給:クロックワークス 1月7日(金)より全国公開 ●事なかれ主義の議員秘書と政界に無知な熱意空回り二世候補が日本を変えるため、選挙落選を目指す!? 坂下雄一郎監督が約5年をかけて執筆したオリジナル脚本に豪華キャストが集結。秘書の視点から選挙戦を描いた、ユーモアと皮肉の効いたポリティカルコメディ。 (c)2021「決戦は日曜日」製作委員会